「一人あたり国民総所得が3万ドルを超える国」30カ国の出生率と女性労働力率の相関を調べ、「女性が働く社会ほど、出生率は低い」と結論づけている部分には、流石に呆れかえるのをとおりこして、なにに対するものなのか不明なものの、底知れぬ悪意さえ感じた。これら30カ国の中には、女性のリプロダクティブ・ライツが認められていない、世界最悪の女性差別国、サウジアラビア、オマーン、クウェート、バーレーンといった中東の国々が入っているのだ。とくに、サウジアラビアとオマーンは外れ値とみなしていいほど、出生率が高く女性労働力率は低い。
そもそも、スウェーデン、デンマーク、フランス、イギリス、アメリカ合衆国といった、出生率を回復させた国々と日本社会とを同列に論じることもナンセンスである。前者3カ国における子育て支援も含めた児童福祉の水準は日本と比較すべくもないし、後者2カ国の移民の人口比の高さと高出生率も日本社会とは無縁のものである。「四半世紀以上にわたって巨額の税金が少子化対策のために注ぎ込まれてきたが、改善の兆しはほとんど表れていない」、とくに「巨額の税金が少子化対策のために注ぎ込まれてきた」事実など、どこにもない。
有益なシミュレーションを行うとすれば、国民負担率を70%、現行の家族関連社会支出7兆円を20兆円にまで引き上げたら、また、定住外国人を毎年100万人ずつ受け入れたらどうなるかといった変数の外挿が必要だろう。前者はもとより実現不可能ではあるが、中負担中福祉で、社会支出は高齢者関連のものに著しく偏り、本格的な定住移民の受け入れもはじまってもいない状況で、「子育て支援(や移民受け入れ施策)は出生率の向上に寄与しない」などと結論づけることなどできるわけないだろう。
「進撃の高田保馬」なる章での読者サービスはなかなかのものであるが、惜しむべくは、「客観性を装った詐欺」を行う筆者の歪んだ心性である。ただただ呆れかえるほかない。
目次
序章 「希望出生率」とは何か?
第1章 女性が働けば、子どもは増えるのか?
第2章 希望子ども数が増えれば、子どもは増えるのか?
第3章 男性を支援すれば、子どもは増えるのか?
第4章 豊かになれば、子どもは増えるのか?
第5章 進撃の高田保馬―その少子化論の悪魔的魅力
第6章 地方創生と一億総活躍で、子どもは増えるのか?
人口減少がこのまま続けば「日本は即終了!」といった、絶望的な指摘をする人が少なくない。実際、四半世紀以上にわたって巨額の税金が少子化対策のために注ぎ込まれてきたが、改善の兆しはほとんど表れていない。それどころか、少子化対策に力を入れれば入れるほど効果が薄れるパラドクスが見て取れるという。なぜか?いかなる理由で少子化は進むのか?すべての問いに最終的な解答を与える、少子化問題の決定版である!
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