大阪市西成区釜ヶ崎、通称「あいりん地区」が、スラムから単身男性日雇労働者のドヤ街へ、そして日本一の数のホームレスを生んだあと、多くの中高年齢男性が生活保護を受け、「サポーティブハウス」や福祉アパートに居住するに至った現在まで、大きく変容してきた経緯を、こと細かに記述する。
そして、自ら行った「サポーティブハウス」居住者調査から、相談援助なしでは成り立ちえない単身貧困者たちの属性を明らかにする。また、身寄りのない住民を弔ってきた宗教団体、社会運動団体等の協働のありようを記録する。最後に、新自由主義的な意図をもった再開発がすすむ「あいりん地区」において、単身貧困者たちを包摂する街づくりを模索する。
さすがは、ソーシャルワーカーとして、またフィールドワーカーとして、貧困生活のありようをまじかにみてきただけのことはある、貧困生活者居住地域の社会史として、また、貧困生活者を包摂するしくみづくりの記録として、よく書かれていると思った。
目次
序章 暴動までの歴史的背景
第1章 日雇労働者の町として
第2章 ホームレス問題とセーフティネット
第3章 生活困窮者の住まいと支援のあり方
第4章 社会的孤立と死をめぐって
第5章 再開発と向き合うあいりん地区
終章 地域の経験を活かすために
大阪・西成で長年、調査や支援活動に携わる社会学者が、あいりん地区が抱える「貧困」問題の実相をまとめた。
高度経済成長期以降、日雇い労働者や生活困窮者を数多く受け入れてきたことで知られるあいりん地区。近年は住人の高齢化などに伴い、住まいや孤立死にかかわる問題が増加。宿泊者減少に悩む簡易宿泊所をサポーティブハウス(集合住宅)として再利用するなど、あらたな支援のかたちが生まれている。現在のような状態が今後も続けば、行政の負担は増し、貧困は社会から見えない場所に追いやられる。生活困窮者を特定の地域に集中させるのではなく、各地域の受け入れを増やしていかねば、問題は根本的に解決しないのではないか、と問う。10年以上、地道な現地調査を続けてきた著者だからこそ、その提言には重みがある。
評者:松岡瑛理
(週刊朝日 掲載)
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