雨ににおいを感じなくなったのはいつ頃のことだろう。たばこを吸い始めた高一のとき?あるいはもっと昔のことだったかもしれない。
幼いときにあじわった雨のにおいは忘れがたい。雨を吸い込んだ植物や大地から放たれるむせかえるようなにおいに、自分は自然のなかで生かされてることを身をもって感じていたおぼえがある。幼稚園のころか小一のころだったか忘れたが、若久にあった自宅の窓際にそれはそれは大きなあじさいがあって、ある日、そのあじさいに降りそそぎきらきらと光る雨のしずくと、あじさいの花の上をゆっくりと動く大きなカタツムリに見入ってしまい、そしてあの鮮烈なにおいに包まれて、自分の身体が自然のなかに溶け出していくかのような不思議な感覚におちいった。それはそれはこのうえない至福の時間だった。
幼かったときの幸福に満ちた記憶は歳を重ねるごとにどんどん忘却していってしまう。人間は、幼いときに生の歓喜を味わい尽くして、その後はゆっくりと緩慢に死んでいく、そんな悲しい存在なのだろう。
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