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本と音楽とねこと

東電OL殺人事件

佐野眞一,2003,『東電OL殺人事件』新潮社(文庫,¥740)'10.11.6

 この大仰な言辞を弄した文体と、一方的な被害者への思い入れは爆笑必至だ。
 なんのことはない、被害者はたんなる依存症のなれの果てだろう。わたしの同業者の知人にも、父親の死をきっかけにアルコール依存症に陥り早死にした者がいたが、重症の依存症者であれば、昼は東電社員、夜は立ちんぼの売春に身をやつしていたとしても不思議でもなんでもない。それを「心の闇」だの、「堕落」だの、「黒いヒロイン」だの笑止千万だろう。家族や同僚、上司は精神科クリニックの受診をなぜ勧めなかったのか、むしろそのことの方が不思議でならない。
 とはいえ、この事件の最も重要な取材記録としての資料的価値は大きい。この真相に迫ろうとする執念はすさまじい。

目次
第1部 堕落への道
迷宮
幻聴 ほか
第2部 ネパール横断
山嶺
公判 ほか
第3部 法廷の闇
目撃
実検 ほか
第4部 黒いヒロイン
求刑
結審 ほか

1997年3月8日深夜、渋谷区円山町で、女性が何者かによって絞殺された。被害者渡辺泰子が、昼間は東電のエリートOL、夜は娼婦という2つの顔を持っていたことがわかると、マスコミは取材に奔走した。逮捕されたのは、ネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリ。娼婦としての彼女が、最後に性交渉した「客」であった。
本書は、事件の発端から一審判決に至るまでの一部始終を追ったものである。その3年もの間、著者は、事件にかかわりのある土地に足繁く通い、さまざまな証言を集めた。事件現場となった円山町は言うにおよばず、ゴビンダの冤罪を晴らすべく、はるかネパールにまで取材に行った。立ちはだかる悪路難路を越えて、彼の家族友人から無罪の証言を得ようとする著者の姿には、執念を感じてしまう。
ネパール行脚が終わると、裁判の模様が延々と書かれている。ゴビンダを犯人と決めつけている警察の捜査ひとつひとつに、著者はしつこく反論していく。このくだり、読み手は食傷気味になるかもしれない。だがその執念も、ともすればステロタイプにくくられがちな「エリート女性の心の闇」に一歩でも迫りたいという一念からきたのだろう。著者は、確信犯的に堕落していった渡辺泰子に対して、坂口安吾の『堕落論』まで引用して、「聖性」を認めている。その墜ちきった姿に感動している。この本は、彼女への畏敬と鎮魂のメッセージなのである。
(文月 達)

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コメント一覧

naoko.s
早とちりしました。
では、明日午後に。勝手言ってすみません。
あ、いえ
木曜は会議なんで、水曜(9日)にお願いします。
naoko.s
早々にありがとうございます。
では、代表に。木曜午後に、お願いします。
訂正
明後日→木曜、でした。
またまたたいへんでしたね
苦難の連続ですね。よく乗り越えられたものです。
メールいただけたら直通番号教えますよ。あるいは代表番号にかけられたら取り次いでもらえます。明日、明後日はバタバタしてますが、水曜でしたら終日試験の採点してると思います。
naoko.s
今度は癌・・早期発見です。
昨年、初冬に判明して、半月程前に手術しました。元気です。その頃、目にした「死に急ぐな」という言葉が身に沁みる日々です。

精神疾患を緩和し、生きるためにはと過去を振り切ってきましたが、今は過去に支えられています。

少し相談したいことがあり、よろしければ、職場にお電話したいのですが・・・

ブログマナーを知らずにすみません。前々回の書き込みが初めてでした!
naoko.s
ありがとうございます。
思い切って投稿して良かったです。頑張って良くなります。
お久しぶりです
どうして、転職、転居されたのかずっと気になっていたのですが、そうだったのですか。たいへんでしたね。
なんとか生き延びてきたのにそれが恥になるなんて、ありえないですよ。
良くなればいいですね。
naoko.s
ヒトゴトと思えず・・・
時折、拝読しております。7日のブログに、同業者の知人の早逝の記述を読み,発作的に投稿します。私もかつての同業者ですが、父の死を契機に(鬱→双極性障害)と十年以上、精神疾患とともに生きています。生き恥をさらしながらですが。

その知人のかたの、ご冥福をお祈りいたします。

お元気そうですね。お身体をくれげれも大切に。
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