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本と音楽とねこと

【旧作】この国は恐ろしい国【斜め読み】

関千枝子,1988,この国は恐ろしい国──もう一つの老後,農山漁村文化協会.(7.1.2020)

 「シングルマザーの貧困」を本格的に扱った本は、本書が初めてではないだろうか。
 宇都宮市での子殺し、札幌市白石区での餓死、この二つの事件の背景にある、底知れぬ女性の貧困と孤立について考察した部分が秀逸だ。
 本書が書かれて30年以上が経過した。シングルマザーの困窮と不幸は、はたして軽減されたのだろうか。
 たしかに、シンママはもはや珍しい存在ではなくなり、シンママであること、それ自体をもって、差別し、排除する風潮は、薄らいできたといえる。しかし、いまでも、身体的、心理的DVを受けながら、「子どもがかわいそう」、「世間体が悪い」という理由で、家族という生き地獄から逃れられない女性たちが数多くいる。このことは、法律婚のおよそ1/4が「できちゃった婚」であること、婚外子が著しく少ないことからも、容易に類推できる。一世代を経過しても、なお、「戸籍と法律婚の呪縛」から逃れられないなんて、どれだけ進歩がない社会なのだろう。
 『福祉が人を殺すとき』でも取り上げられた、札幌市白石区でのシンママ餓死事件。この女性を殺したといってよい行政、福祉事務所、その生活保護事務は適正化されたのだろうか。いまだに、生活保護のみならず、「児童扶養手当の不正受給」が問題視され、子どもが育つ費用を普遍的、また社会的に分かち合うことのないクソのような世界、それがわたしたちが生きる現実だ。

目次
第1章 もう1つの老後
第2章 “子殺し”に母親を追いつめた低賃金長時間労働(宇都宮)
第3章 母親を“餓死”させる“豊かな国”の福祉(札幌)
第4章 見えない老後―この国は恐ろしい国(広島)
対談“買う福祉”を買える人々・買えない人々(久場嬉子氏と)

生存するのも危ういほどの賃金しかもらえず、その低賃金のために、平均をはるかに下回る年金しかなく、もちろん貯金もない女性たちは、どんな老後をおくれるのでしょうか。私は、まじめに働きつづけてきた人間が、年をとってから生きて行くのが不可能な年金制度で平然としている国はどう考えてもおかしいと思います。その国が世界一のお金持ちというから、いよいよ話はわからなくなります。この国は―恐ろしい国ですね。日本エッセイストクラブ賞受賞(『広島第2県女2年西組―原爆で死んだ級友たち』)の著者による渾身のルポ―。

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