ガブリエル・ブレア(村井理子訳),2023,射精責任,太田出版.(3.12.24)
(著作権者、および版元の方々へ・・・たいへん有意義な作品をお届けいただき、深くお礼を申し上げます。本ブログでは、とくに印象深かった箇所を引用していますが、これを読んだ方が、それをとおして、このすばらしい内容の本を買って読んでくれるであろうこと、そのことを確信しています。)
本書の原題は、Ejaculate Responsibly: A Whole New Way to Think About Abortion、である。
いささか扇情的にも思える書名ではあるが、直截に問題の所在をズバリ表している。
2022年6月24日、米国の連邦最高裁は、女性の人工妊娠中絶権を合憲だとしてきた1973年の「ロー対ウェイド」判決を覆し、その結果、州によっては、女性の中絶権が非合法化されることになった。
これにより、プロライフ(胎児の生命尊重)派が、プロチョイス(女性の生殖上の選択を尊重)派に対し、にわかに勢いづくことになり、両派による米国内の分断がさらに深刻化している。
ブレアは、中絶以前の、男性の身勝手な「無責任な射精(irresponsible ejaculation)」により、女性が望まぬ妊娠をしてしまう問題にフォーカスする。
セックスをするから望まない妊娠をするのではありません。望まない妊娠は、男性が無責任に射精をした場合にのみ起きるのです。彼とパートナーが妊娠を望んでいないというのに、男性が精子を女性のヴァギナに放出した場合にのみ、起きる。これに対する予防は、男性にとって難しくありません。
(p.9.)
精子は危険な体液だと考えるべきでしょう。女性に痛みを与え、生涯続く混乱を招き、死をももたらすことさえあります。精子は人間を作り出すことができます。精子は人間を殺すことができます。精子は妊娠を引き起こし、妊娠と出産は女性に身体的、心理的問題を引き起こし、社会的、そして経済的地位にネガティブな影響を与えます。
射精し、精子を女性の体内に放出しようとする男性は、精子が彼女に与える影響をしっかりと考え、行動すべきです。つまりそれは、責任を取るということです。セックスをする度に。結果があまりにも大きいからです。
(p.153.)
避妊に失敗して女性を妊娠、中絶させるのは、大怪我させることそのものであり、なかには、胎児とはいえ、「わが子を殺めた」ことによる自責の感情から、精神を病む女性もいる。
性行為の際、コンドームを着けない男は、鬼畜以外のなにものでもなく、男性がコンドームによる避妊をせず、女性が妊娠、中絶した場合、例外なく、傷害罪、過失傷害罪が適用されるべきである。
ピル、パッチ、IUD (子宮内避妊具)、注射の副作用は長期にわたり、そして深刻なものなのです。気分の落ち込み、倦怠感、頭痛、不眠、気分変動、むかつき、胸の痛み、吐き気、体重増加、にきび、むくみ、血栓、心臓発作、高血圧、肝がん、そして脳卒中と多岐にわたります。(後略)
(p.36.)
これは知らなかった。
自らの無知を恥じるばかりである。
女性による避妊の処置よりも、コンドームをペニスに被せればそれで済む、男性側のそれの方が、圧倒的に害がない。
それなのに、コンドームも着けずに、「中出し」だの、膣外射精など、ふざけたことを言ったりやっている男には、女性はもっと自らにプライドをもって、毅然とした態度をとってほしい、そう思う。
男性がオーガズムを感じ、ヴァギナに射精をすると、ほとんどの人はそれがセックスだと考えるでしょう。同じ性行為のなかで女性がオーガズムに至らない場合はどうです? それでもセックスでしょうか? はい、それでもセックスです。多くの人が、それでも セックスだと考えます。セックスを定義する唯一の方法ではありませんが、しかしそれが 一般的でしょう。
セックス中の男性の経験にしか注目しないことが、一部の男性のコンドーム着用への抵抗感の理由ではと推測しています。私が想像する思考パターンはこうです。もしセックスが男性の経験中心のものであるのなら、男性は自分の喜びを優先して、コンドームの着用を提案することはない。一切、コンドームの話題には乗らない(そしてセックスをする相手の女性も話題にしないことを願っている)。彼のなかで、これは完全に正当化できます。なぜなら繰り返しになりますが、社会が、彼に(そして私たちに)、セックスは男性のための経験であって、目的は男性の快感であると教えているからです。
(pp.78-79.)
これは、「感じない男」にも少し関連することだが、男が、「溜まった精液」を女性の体内に射精することは、女性を「排泄」の「便所」扱いすることにつながりかねないことであって、そのことに、女性はもっと怒るべきであるし、男性はいささかなりとも自責の感情をもつべきである。
わたしたちは、セックスという行為のなかにも、性差別、ミソジニー、家父長制による性支配が芽吹いていることに、自覚的であるべきだ。
本書を、すべての高校生の男女に読ませたい。
そうすれば、未然に防げるはずの不幸が実際に減らせることであろう。
望まない妊娠による中絶を根本から問い直す28個の提言。
目次
すべて男性にかかっているのです
男性の生殖能力は女性の50倍
精子は最長5日間生き続ける
女性の排卵時期は予測できない
排卵はコントロールできないが、射精は違う
女性用避任具は、手に入れにくくて、使いにくい
男性用避妊具は、驚くほど簡単に手に入る
男性はコンドームが嫌いだというのは、思い込みにすぎない
精管結紮術は、卵管結紮術に比べて、リスクが低い
女性に避妊を期待しすぎている
男性が楽をできるなら、女性が苦しむのはしかたない?
セックスの最優先事項と目的は男性の喜びだ、と社会が教えている
女性は快楽なしで妊娠できる
望まない妊娠は、すべて男性に責任がある
自分の体にも、男性の体にも、責任を持つのは女性である
ターゲットを男性に絞る必要がある
男性の行動に責任を持たせることは、女性を被害者にしない
男女間の力の差は、簡単に暴力に繋がる
女性は妊娠から途中退場できない
妊娠と出産は正しく語られていない
子育ての現実と負担は計り知れない
妊娠が罰になるべきではない
養子縁組は中絶の代わりにはならない
無責任な射精をする男性のリスクはゼロ
精子は危険である
認めたくないみたいだけれど、男性は自分の肉体や性欲を管理できる
男性は自分が中絶を簡単に回避できると知っているが、そうしようとはしない
私たちは答えを知っている
行動に移そう