
災害後に被災者たちにより引き起こされる暴動、略奪、殺人等が、デマによって拡散された虚偽でしかなく、むしろ、被災者たちは、見知らぬ者であろうと、助け合い、親密になり、そこには、お互いが利他的で振る舞う「災害ユートピア」が形成される。
海外での大災害後の混乱が、マス・メディアによる風評拡散やエリート・パニックの所産であることがわかり、災害後に被災者が示す利他性が普遍的なものであることがうかがわれる。ホッブス的人間観が覆される内容であり、災害後に警戒すべきものが、まず、マス・メディア、自警団、警察、軍隊等であることを全世界に知らしめた本書の功績は大きい。
目次
プロローグ──地獄へようこそ
第一章 ミレニアムの友情:サンフランシスコ地震
第二章 ハリファックスからハリウッドへ──大論争
第三章 カーニバルと革命──メキシコシティ大地震
第四章 変貌した都市:悲嘆と栄光のニューヨーク
第五章 ニューオリンズ──コモングラウンドと殺人者
エピローグ──廃墟の中の通り道
「お互いに助け合い、秩序を持って行動する日本人の姿はすばらしい」と言われる。しかし、実は災害時のそうした行動は、日本人だけではなく、世界中で共通してみられるという。 著者のレベッカ・ソルニット氏は1989年にカリフォルニア州でロマ・プリータ地震に遭い被災している。その経験をもとに、1906年のサンフランシスコ地震から2005年に起きたニューオリンズのハリケーン被害までを取材・研究してまとめたのが本書である。 「大惨事に直面すると、人間は利己的になり、パニックに陥り、退行現象が起きて野蛮になるという一般的なイメージがあるがそれは真実とは程遠い」と著者は言う。「地震、爆撃、大嵐などの直後には緊迫した状況の中で誰もが利他的になり、自身や身内のみならず隣人や見も知らぬ人々に対してさえ、まず思いやりを示す」。災害時に形作られる即席のコミュニティは「地獄の中で」他人とつながりたいという、欲望よりも強い欲求の結果である。災害を例にとり、社会や人間心理の本質に迫っている。
最新の画像もっと見る
最近の「本」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事