広井良典,2005,ケアのゆくえ 科学のゆくえ,岩波書店.(11.18.24)
「ケア」を,人と人との間の「関係性」と捉え,「成長・拡大なき時代」における「科学」との関わりのなかで考えるとき,明らかになるものは何か.森林療法・臨床心理学・遺伝医療・代替医療・ソーシャルワーク・園芸療法・身体操法など「ケア」をめぐるパイオニアとの対話を軸に,日本社会の課題と展望を示す.
要素還元主義的な科学、対症療法的な医学の限界を見極め、身体知、コミュニティ、自然と人間を超越した存在への包絡(スピリチュアリティ)の可能性を論じる。
というと、難しそうだが、森林療法、園芸療法、漢方医学、鍼灸等を想起すれば、ホリスティックな実践の有効性は明らかであろう。
まとめよう。本章の前半の「関係としてのケア」に関する議論では、ケアという概念を「関係(性)」として最広義にとらえ直すとともに、「ケアの進化」といった議論を展開し、「ケアの二つのベクトル」ということとも併せながら、現在の日本社会におけるそうした関係性のあり方を根本においてとらえなおし変えていく必要性について論じた。
他方、「科学」のゆくえをめぐる議論では、「拡大・成長なき時代の科学」という問題意識を出発点にしながら、先ほどアメリカ的科学という話題にそくして述べたような、単線的な因果関係を志向する法則定立的な科学像を超えた姿として、異なる分野を結びつけていく編集的機能という視点とともに、「生命そのもの」という話題にそくしつつ、科学がコミュニティや「自然のスピリチュアリティ」といった次元を対象とせざるをえない段階に至っている状況について述べ、これらを通じ「ケアとしての科学」という方向性について論じた。
これらに通底しているのは、第3章でも述べたように、物質に関わる人間の欲求(物質の消費/エネルギーの消費/情報の消費)が、「私利の追求」をインセンティブとして全面的に展開し、かつパイの拡大を通じて「社会的な善」にもそのままつながった時代が終息しつつあり、基本的な「関係性」の組みかえが要請される時代の前に私たちが立っている、という状況である。
そして、ここでいう関係性の組みかえにとって本質的であるのは、共同体や自然(ひいてはもっとも根底にあるスピリチュアリティの次元)から切り離されバラバラになっている「個人」を、一方においてそうした「コミュニティ―自然―スピリチュアリティ」の層へともう一度つなぎ、他方で独立した異なる個人が関わる場としての「公共性」のほうへと開きつないでいくということである。この両方のベクトルの中に、これからの時代のケアと科学いずれにとっても中心的な課題が存在しているのではないだろうか。
(pp.254-255)
小学生のとき、下校時にしばしば訪れた神社の大木に触れるのが楽しみだった。
樹齢何百年の大木に抱かれたとき、えも言われぬ畏怖と安心感を得たものであった。
自然にスピリチュアリティを体感するとはこのことを言うのだろう。
人間的自然とはなにかを再考させてくれる一冊だ。