貨幣論としては、岩井克人氏のそれの方が説明力が高く優れているのではないだろうか。これが、一読してからの感想だ。
本書の功績は、貨幣と権力の、けっして切り離すことができない同時性を明示している点にある。
(国家)権力は、貨幣を「創造」し、国民は「租税」という負債を背負わされる。国民は、「負債」を返済するにあたって、中央銀行が発行する貨幣で支払うことを義務付けられているというわけだ。なるほど、これに、「信用」という岩井氏の貨幣論のカギ概念を挿入すれば、貨幣と権力、貨幣によるコミュニケーションの連鎖がうまく説明できる。
「MMT」なんて、いきらなくとも、現代社会における貨幣の動きをうまく説明できる、もっとも洗練された理屈として受容されればよい。どうでもよいへ理屈が延々と記述されているのにはうんざりしたが、わからないことはわからないという誠実さがつらぬかれており、けっして似非科学であるわけではない。
「悪に課税せよ」、「(政府は)就業保障(保証ではないだろう)プログラムを実行せよ」、こうしたランダル・レイの主張は、コミュニタリアニズム経済学としてのMMTの面目躍如たるところだろう。
ちなみに、MMTは、政府が無制限に財政支出を行っても問題ないとは主張していない。「緊縮財政」の誤りを明確に指摘し、民間部門収支の赤字を積極的な財政支出によって補填し、それにより得られた民間部門収支の黒字を、租税や公定歩合の引き上げにより、政府部門が回収する。とてもシンプルで明解な、経済学の基本を地でいくような手堅い理論、それがMMTなのだ。
目次
【巻頭解説】 「現実」対「虚構」 MMTの歴史的意義(中野剛志)
【序 論】現代貨幣理論の基礎
【第1章】マクロ会計の基礎 1つの部門の赤字は、別の部門の黒字に等しい
【第2章】自国通貨の発行者による支出 租税が貨幣を動かす
【第3章】国内の貨幣制度 銀行と中央銀行
【第4章】自国通貨を発行する国における財政オペレーション 政府赤字が非政府部門の貯蓄を創造する
【第5章】主権国家の租税政策 「悪」に課税せよ、「善」ではなく
【第6章】現代貨幣理論と為替相場制度の選択 失敗するように設計されたシステム「ユーロ」
【第7章】主権通貨の金融政策と財政政策 政府は何をすべきか?
【第8章】「完全雇用と物価安定」のための政策 「就業保証プログラム」という土台
【第9章】インフレと主権通貨 「紙幣印刷」がハイパーインフレを引き起こすわけではない
【第10章】結論:主権通貨のための現代貨幣理論 MMTの文化的遺伝子
【巻末解説】MMTの命題は「異端」ではなく、常識である(松尾匡)
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