わたしは、ユニクロも絶対に利用しない。むかしから、そのブラックな企業体質については知っていたし、安かろう悪かろうで、商品の品質も悪い。たとえば、冬に欠かせないハイネックシャツ。Lands' Endのシャツは、価格は高いものの、素材が絹のように上質で耐久性も高い。ユニクロのそれは、一回洗濯すると、部屋着にしか使えない代物だ。ヒートテックインナーをまとめて買ったは、横田さんが前著、『ユニクロ帝国の光と影』を上梓するより前、10年以上もむかしの話だ。かつては、ユニクロ、というよりファーストリテイリング社創業者にして現社長、柳井正が経営者としてここまでひどいとは思ってもいなかった。アマゾンのジェフ・ベゾスもそうとうだが、柳井正はもっとひどいかもしれない。レッテル貼りは良くないとは思いつつ、サイコパス、ソシオパスという言葉しか思いつかない。
一代にして事業を成功させた人物が、常軌を逸した自己中心的、冷酷、無慈悲、エンパシー、良心の欠如等の性格をもつことは少なくない。悲惨なのは、こういう人物は、自らに隷従する側近ともども独裁経営を行い、パワハラ、低賃金長時間労働、サービス残業等が横行する職場環境を造成し、「大企業だからだいじょうぶだろう」と安易に就職した者を、鬱病、自殺に追い込むまで使い捨てていく点にある。自らの能力と意欲を長期にわたって発揮できたであろう人材が、独裁経営者の狂気じみた私利私欲のために潰されていく。なんとも胸が痛むことである。
筆者の横田さんがすごいのは、改氏名してまで、ユニクロに潜入し、その悲惨な労働環境をつぶさに記録し公表している点にある。香港の人権NGO、SACOMが、中国国内のユニクロの下請け'sweatshop'(搾取工場)に調査員を潜入させ、実態を暴露し、ユニクロに責任を問うにいたったくだりも実に興味深い。ジョン・ラギー等による、国連、「ビジネスと人権に関する指導原則」において、'sweatshop'の問題解決責任をグローバル企業が担わなければいけなくなったのも、幾多のジャーナリストやNGOが潜入調査をした成果である。
アマゾンやユニクロを利用しなくとも、わたしたちは生きていける。現時点でその存在自体が悪なのであれば、できるだけ利用しないにこしたことはない。
目次
序章 突きつけられた解雇通知
第1章 柳井正社長からの“招待状”
第2章 潜入取材のはじまり―イオンモール幕張新都心店1
第3章 現場からの悲鳴―イオンモール幕張新都心店2
第4章 会社は誰のものか―ららぽーと豊洲店
第5章 ユニクロ下請け工場に潜入した香港NGO
第6章 カンボジア“ブラック告発”現地取材
第7章 ビックロブルース―ビックロ新宿東口店
終章 柳井正社長への“潜入の勧め”
「記事に事実誤認はありましたか」。もめた際、必ず相手に問い返してきたという著者は今回、新宿のビックロなどユニクロの3店舗で勤務し、ルポを書き上げた。
前著『ユニクロ帝国の光と影』が名誉毀損で訴えられたものの、最高裁でユニクロ側の上告棄却判決を受けた後の決算会見を締め出されたうえ、ブラック企業との指摘に対して柳井正社長が、ユニクロを理解するためには現場で働いてもらいたいと語った雑誌記事が奮起となる。
各店舗での採用面接をはじめ、「週刊文春」に記事が出て解雇通告を受ける際のやりとりには、独特の緊張感とユーモアがある。「ない」はずのサービス残業の実態、人件費抑制の過酷シフトなどに唖然とする。真骨頂は、働いたがゆえの現場視点での「改善点」を挙げていることだ。
評者:朝山実
(週刊朝日 掲載)
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