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本と音楽とねこと

マンゴーと手榴弾──生活史の理論

岸政彦,2018,マンゴーと手榴弾──生活史の理論,勁草書房.(1.5.25)

沖縄戦の最中に手渡された手榴弾と、聞き取りの現場で手渡されたマンゴー。「こちら側」と「あちら側」の境界線を超えて行き来する、語りと記憶と「事実」。ストーリーの呪縛から逃れ、孤独な人生について、過酷な世界について、直接語り合おう。「約束としての実在論」へ向けた、ポスト構築主義の新しい生活史方法論。

 構築主義の極北には、価値相対主義の断片、その集積のみが残る。

 調査対象者の語りがすべてかぎかっこに括られ、いかなる一般化、普遍化も禁欲されるとすれば、提示されるものは、個別的にして一回性の断片のみである。

 「構築されたもの」を削ぎ落としたあとに、それでも残る「本質」を希求する、というわけでもない。

 断片に宿る普遍性をできるだけ盛ることなく提示すること、それが、複雑なものを複雑なままに提示しながら、なお人間理解に資する知見を導いていく適切な方策であろう。

 私たちは語りを聞き取ることで、ある行為や状況について、実際にどうであったかについての知識を得ることができる。それは複雑で、豊かで、予想を裏切るものでありうる。他方で同時に、私たちは私たちを取り巻く歴史や構造が、いかに過酷で冷酷なものになりうるかを知っている。もしこのふたつのあいだに矛盾が生じた場合にどうすればよいのか。そのような場合でも、私たちは個人の語りを世界から切り離す必要もないし、歴史や構造の過酷さの評価を下げる必要もない。なぜならこのふたつを結びつける媒介項としての「人間に関する理論」に変更を加えることで、私たちはマクロな歴史と構造の過酷さと、ミクロな個人の行為における創造性や主体性を、矛盾なく解釈することができるのだ。
(p.339)

 本書は、質的調査の方法論にとどまることなく、ライフヒストリーの語りから、たとえば、「自己決定=自己責任」の概念の意味を変容させるといった、意味世界の豊穣化につながる有益な研究方法を模索する試みである。

目次
マンゴーと手榴弾―語りが生まれる瞬間の長さ
鉤括弧を外すこと―ポスト構築主義社会学の方法
海の小麦粉―語りにおける複数の時間
プリンとクワガタ―実在への回路としてのディテール
沖縄の語り方を変える―実在への信念
調整と介入―社会調査の社会的な正しさ
爆音のもとで暮らす―選択と責任について
タバコとココア―「人間に関する理論」のために


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