極度の無気力により大学に出てこなくなる学生は、少数ながら、必ずいる。そうした学生の精神のありようを理解するために、本書の議論はいまでもなお有効だ。
とくに関心を惹かれたのが、「快体験の希薄化」(アンヘドニア)という、アパシー・シンドロームに新たに付け加えられた精神症状である。TVに加えて、インターネット上の過剰な情報により、実生活上の経験が刺激のない無味乾燥なものでしかなくなる傾向は、より深刻になっているのではないだろうか。
目次
第1部 青年の自立と個性化をめぐって
アイデンティティと現代
現代病としての境界例
大学生と対人恐怖症
人みしり―正視(視線)恐怖症の臨床
大学生の精神衛生のために
キャンパスの精神病とノイローゼ
青年の自殺
現代の神経症―とくに神経症性アパシー(仮称)について
退却神経症withdrawal neurosisという新カテゴリーの提唱
アパシー・シンドロームapathy syndromeをめぐって
アパシーの病前性格
境界例の概念をめぐって―スプリットという防御機制についての一考案
無気力からの復路のために
一九七〇年前後、「退却」「逃避」と表現できる無気力な現象が大学生に現れはじめた。著者は、従来の精神病理学では解きがたい現象を考察しながら、自立への不安をもつ当時の青年像を浮かび上がらせた。豊かさと高学歴がもたらす新しい症候を論じた本書は、その後の「ひきこもり」論に多くの示唆をあたえた先駆的著作である。
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