本作は、前天皇(現上皇)の「明仁」と「美智子」、そして森達也の分身であるジャーナリストが主人公の、傑作ファンタジー小説である。
登場人物は、実在する者か、それを模した者で占められている。明仁と美智子は、いや明仁さんと美智子さんは、在位時、ペリリュー島や沖縄をはじめとして先の大戦激戦地をめぐる慰霊の旅を続け、災害被災地に出向き避難所で膝をついて被災者を見舞った。天皇制を利用する不逞の輩と距離をおく姿勢ともども、反天皇制を唱える人々にも好感をもって受け入れられた稀有な天皇と皇后であった。
「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」という曖昧模糊とした、というより意味不明の憲法第1条を誠実に体現しようとしてきた明仁さんと美智子さんに対する敬意が、本作の端々から伝わってくる。
怖いのは、天皇制そのものではなく、天皇と天皇制を語ることを自粛し、不敬と思われる言動をとる者がいれば袋叩きにせんと虎視眈々と監視し合う国民の心性である。
明仁さんと美智子さん存命中に、よくぞ書いてくれたと思う。森さんが夢見たように、ご両名自身もさぞ喜んでおられるであろうと思いたい。
皇室を巡るタブーに一石を投じる「問題小説」。
主人公のドキュメンタリストは、天皇の生の言葉を引き出したいという熱情に突き動かされ、象徴天皇制の本質に迫る番組企画を立ち上げた。
そして、ついに企画実現の突破口を探り出す!
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