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日本では、小説に先駆けて公開された映画の方がよく知られている(映画は未見)が、原作の翻訳は、なかなかの名訳であることもあって読者をぐっと引き込む内容となっている。
いまや一人あたりGDPが世界四位のアイルランドであるが、この小説の舞台が設定された1960年代初めのアイルランド、しかもその小都市は、非常に貧しかった。主人公の少年、フランシー・ブレイディーは、アル中の父親、精神障がいの母親のもと、極貧状態で育つ。当時、アイルランド人は、イングランド人から「ブタ」と呼ばれたそうだが、フランシーもイングランドからの来住者にそう罵られる。やがて、フランシーは、母と父を亡くし、子どもながらアル中となり、精神錯乱に陥る。
妄想と現実が入り混じったフランシーの想念が、いっときもとどまることなく延々と吐き出され続ける。まちで「ブタ」と罵られるフランシーは、肉屋の小僧(ブッチャー・ボーイ)となってブタを解体し、殺害した女性の死体をブタの臓物のなかに隠す。
なかなかにえぐい。ざらざらとした不快な読後感が残る。小説の価値の一つがどれだけ読む者を不快にさせるかにあることを、まざまざと思い起こさせてくれる作品だ。
The Butcher Boy (1997)
Sinead O˙connor-The Butcher Boy
いまから二十年か三十年か四十年くらいまえ、ぼくがまだほんの子供だったときのこと、小さな田舎町に住んでいたぼくはミセス・ニュージェントにやったことが原因で町のやつらに追われていた。1960年代初頭のアイルランド、飲んだくれの父と精神不安定な母のもとで、フランシー・ブレイディーは親友のジョーと共に愉快な日々を送っていた。そう、ミセス・ニュージェントから「あんたらはブタよ!」という言葉を浴びるまでは…あらゆる不幸に見舞われて、やがて“肉屋の小僧”となったフランシーが狂気と妄想と絶望の果てに見い出したものとは何か?この世の美しいものなんてどれもこれもすべて嘘なんだ。センセーショナルな内容ゆえに物議を醸し、アイルランド版“ライ麦畑でつかまえて”+“時計じかけのオレンジ”と称され映画化もされた伝説の問題作がついに邦訳。ブッカー賞最終候補、エア・リンガス文学賞受賞。
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