舞台は、スコットランド、グラスゴー南部の街、ポロックだ。「ジェントリフィケーション」(貧困層集住地区の再開発事業)により、高層公営アパートが林立し、「緊縮財政」により、学校は統廃合され、高速道路が貫通し、巨大ショッピングモールがつくられる。
マクガーヴェイの母親は、アルコールとドラッグの依存症で、わが子に、ひどい虐待とネグレクトによる耐えがたい生きづらさを残したまま、若死する。極度の貧困状態での虐待とネグレクトは、子どもに、自尊感情をもてず、ストレス、不安、怒りにとらわれた人生を歩ませる。マクガーヴェイ自身も、一時、ジャンクフード(マクドナルド!)、アルコール、ドラッグの依存症に陥る。映画、'Trainspotting'の世界さながらに。
マクガーヴェイの怒りの矛先は、アンダークラスを、希少野生動物であるかのようにあつかう、左派も含めた「貧困産業」にも向けられる。いや、それは、「貧困ポルノ産業」と呼んだ方が適切だろう。また、マクガーヴェイは、貧困問題を、「アイデンティティ・ポリティクス」の議論に回収することにも、猛然と反発する。「階級」は実在すると明言し、自らが崩壊家庭出自のアンダークラスであることをふまえ、繰り返し繰り返し、おのれの生きづらさの正体を突き止めるべく過去を回想し、自問自答する。自らの階級意識を深化すべく繰り広げられる自省的思索が、本書の最大の魅力だろう。
目次
罪と罰
ヒストリー・オブ・バイオレンス
野生の呼び声
ジェントルメン・オブ・ザ・ウェスト
審判
れっきとした都市
一九八四年
忠誠の問題
オン・ザ・ロード
カッコーの巣の上で ほか
ダレン・マクガーヴェイは、貧困とその破壊的な影響を当事者として経験した。したがって、イギリス中の恵まれないコミュニティで人々がないがしろにされていると感じ、怒りを燃やしている理由を知っている。そして、それを説明したいと考えている。読者はある種のサファリに招待される。野生動物を安全な距離から眺めるようなサファリではない。読者を貧困の内側に引きこみ、その窮迫がどのように感じられるのか、それを乗り越えるのがいかにむずかしいのかを示すのが本書である。マクガーヴェイは、左右両派がいずれも現実の貧困を誤解していると論じ、状況を変えるために自分自身を含めて人々に何ができるのかを示す。切れ味鋭く、大胆で誠実に語られる『ポバティー・サファリ』は、現在のイギリスについて忘れがたい洞察を示してくれる。2018年オーウェル賞受賞。
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