Entrance for Studies in Finance

駒澤大学が資金運用について損害賠償請求(2012年4月)

 仏教系大学として知られる駒沢大学が資金運用で失敗して154億5500万円の損失を抱えたことが2008年11月に各紙で報道された(2008年11月19日付け日刊各紙ほか)。そのうちBNPパリバに対して2012年4月13日に駒沢大学は損害賠償訴訟を起こした。請求額84億3150万円。

 駒沢大学は、外資系金融機関3社と2007年7月と2008年6月の2回に分けて100億円ほどを「金利スワップ」と「通貨スワップ」で運用。2008年3月末時点の評価損は53億3500万円だったがその後、損失が拡大したという。奇妙なのは2008年3月末時点で巨額評価損が出ているのに、そして世界的な金融の混乱はすでに明らかになっていたのに2008年6月にさらにデリバティブ取引を拡大したことである。
 2008年10月29日に契約を解消したが、解消のため、みずほ銀行から大学の土地・建物を担保に120億円の融資を受けたとされる。運用の責任をとって事務局長と経理部長(入院中)が辞職したとのうわさも流れた。
 関連して資金運用ではこれまで評価の高かった慶応義塾大学でも2008年3月末で226億円の評価損があったと報道された。
 
 教育機関は損失を出せないが、リスク資産運用は一定の範囲で可能である。運用期間をある程度長期間に設定して、その期間内でいわゆるインカムゲインの範囲で吸収できるものを許容できるキャピタルロスの限界とする。損切りのルールを決めて損失がその基準に達したら機械的に損切りすること(取引を手仕舞うこと)。専門知識のある人で固めた学内の運用委員会で日単位でリスク管理をすること。運用に関係する委員には厳格なモラル規定を適用するとともに適切な研修機会を与え報酬を支払うこと。運用については運用委員会では常時詳細開示、また理事会には定時に詳細開示して承認を得ること。
 そのような運用すれば教育機関であっても、一定のキャピタルロスを許容した投資は可能だと考える。しかしそうした運用が面倒なら安全資産運用(銀行預金や満期までの国債投資・最優良格社債投資など)に徹するべきである。また私立大学の資産運用について、関係者はさらに検討・研究を進めるべきであろう。
 駒沢大学の年間収支規模は318億円(2006年度について学生納付金は142億円 寄付金は10億円ほど)。今回の損失額154億円はほぼ1年分の学生納付金と寄付金の合計収入にあたる。今後、みずほ銀行に対して10年間毎年20億円規模の返済を続ける。駒澤大学の経営戦略は今後この問題に制約され続けることになる。

契約日金融機関名商品名金額
07/07/24BNPパリバ証券金利スワップ1800万米ドル
07/07/24ドイツ証券通貨スワップ4500万米ドル
08/06/20UBS証券通貨スワップ1800万豪ドル
08/06/20BNPパリバ証券金利スワップ1800万豪ドル

契約解除08/10/29 損失154億5500万円 運用利益3億5000万円 

 以下は一般的な取引の説明である。たとえば金利スワップでは、固定金利支払い=変動金利受け取りで低金利局面では、損失が膨らむ。あるいは通貨スワップで外貨で運用した形で満期に円に交換という形であれば、契約期間中は金利収入が入るものの円高が進むと為替の評価損失が膨らむ。
 金利スワップ
 
通貨スワップ

2012年4月13日 駒沢大学はPNBパリバを相手取って損害賠償訴訟を起こした。請求額は84億3150万円。訴訟時点の報道では、2008年11月時点の損失は76億6500万円。
 取引内容は毎月1回。一定数量の外貨を市場の為替レートで換算したものを受け取ると同時に、同数量の外貨をあらかじめ取り決めた交換レートで円に換算してBNPパリバに支払うというもの。
 契約期間15年(長すぎる!)
 1ドル79円未満になると30万ドル×99×(99/為替レート)
99円が損切りライン

 資料「パリバを訴えた大学 問われる証券会社の責任」『エコノミスト』2012年6月26日
 originally appeared in December 9, 2008
corrected and reposted in July 6, 2012

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