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エルピーダの米マイクロン子会社化決まる(2012年7月2日)

買収合意発表(2012年7月2日) 公的資金の失敗例といえるかどうか
エルピーダメモリ(坂本幸雄社長) 2009年に公的資金が投入されながらも結果として 2012年2月 会社更生法を申請 2012年7月 米マイクロンに買収合意が発表される。2009年に公的資金投入を受けたことから、公的資金投入の失敗例のようにも報道される。しかし経緯をみると、不安定なDRAM価格と円高に翻弄されたことが見える。

 2012年7月2日 買収で両社が合意したことを米マイクロン・テクノロジー(マーク・ダーカンCEO)が発表。2013年前半にエルピーダの全株式を600億円でマイクロンが取得(2013年春までに完全子会社化)。マイクロンはエルピーダにDRAM製造を委託し、その対価として2019年にかけて1400億円を払う(負債返済にあてられる)。買収総額は2000億円。
 別にマイクロンはモバイル用DRAMの増産に向けて広島工場などに1000億円を投資する。総支援額は3000億円。
 2011年のDRAMのシェアでマイクロンは11.6%世界4位。エルピーダは13.1%で世界3位。買収により韓国SKハイニックス(22.9%)を抜き2位に(なおトップはサムソン電子でそのシェアは42%ほど)。買収後はDRAM事業をエルピーダに統合。経営を効率化する。
約4200億円の債権の約7割がカットされる。8月21日までに更生計画が東京地裁に提出される。
 無担保債権の弁済率は1割程度で調整。
 従業員は解雇しない。
 エルピーダはDRAMに集中(強みはモバイルDRAMでパソコン用に比べて収益性がよい しかしパソコン用は苦境にある 2012年8月にはモバイル向けがパソコン向けを出荷で上回る 米アップルへも供給 小型省電力メモリーが好調)。
 マイクロン(主力はNAND型フラッシュメモリー スマホの記憶装置に使う この価格は2011年10月までは安定していたが、その後急落。2012年5月まで急落した。背景には各社の増産があると考えられる)は多角化で経営が安定した。
後述するようにDRAMとNANDを合わせてもつことで韓国メーカーは経営を安定させている。マイクロンーエルピーダは、そうした経営に入ることになる。

安定しないDRAM価格と円高が背景
 DRAM価格は実はエルピーダが更生法適用を申請した場面では上昇局面にあった。2011年夏から急落したが20011年末に底値。そこから上昇して2012年6月末をピークに下落に転じた。DRAM価格はその後11月末にかけてなお低下(過去最低 2012年9月前半に6ケ月半ぶりに主力のDDR3型2ギガで1ドル割れになった)。しかし12月に入って再び上昇。背景には秋に入って韓国サムソン電子などがパソコン用DRAMの出荷量を抑制していることが大きい(メーカーはパソコン用の生産ラインを、スマホやタブレット用のモバイルDRAMの生産に振り向けて、パソコン用の生産を抑制している。しかし世界市場全体でモバイル用のシェアは2割程度。2012:1-3月で14.1% 2013年10-12月で26.7%の見込み。パソコン用の過剰感が市場全体を抑えているがDRAMに占めるパソコン向けシェア:世界も急速に低下しているとのこと。2008年1-3月55% 2012年1-3月50.2% 2013年10-12月には42.8%の見込み)。台湾の南亜科技では秋に入り2割、2013年末までにパソコン用DRAMからの撤退を表明。大きな理由はパソコン販売の不振である。
 DRAM価格の反転には、生産抑制で大手の在庫調整が進んだことも大きい。しかしパソコン向け需要は依然弱い。マイクロンによるエルピーダ子会社化で大手が3社に集約されても、市場が大きく伸びる可能性はなさそうだ。 

 2012年2月29日 債権者集会(都内)東証 制限値幅撤廃 前日比249円安5円 裁判所から弁済禁止の保全処分が発令され、当面支払ができない。債権の弁済ができるのは6ケ月以上先。
 債務弁済の割合は10%程度。広島工場の操業など事業継続に必要な支払はする方針。27日以降の新たな発生債権は全額支払う。また総額が100万以下など少額の場合は取引継続を条件に支払う。
 
エルピーダ(1999年日立製作所、NECの統合事業で発足。2002年三菱電機のDRAM事業が合流、これを引き継いだ 同年 東芝がDRAM事業撤退 日本で唯一のDRAMメーカーになる)の歩み
 1990年代前半までDRAM市場はNEC 日立 東芝など日本勢がシェア上位 日本勢でシェア8割のこともあったが韓国の興隆で凋落
 09年3月期 1788億円の最終赤字 政府による公的資金300億円(ほかにメガバンクなどが1100億円の協調融資) 2009年6月改正改正産業活力再生法の認定 2012年3月末で期限切れ 政府や金融機関は支援継続の条件として提携含む抜本的な事業計画提出求めていた 
 2009年8月ー9月 日本政府による公的資金300億円注入(優先株):日本政策投資銀行、主取引銀行4行が約1000億円の協調融資で息吹き返す 台湾勢との提携 スマホ向けDRAM開発技術で優位 資金不足で増産投資に入れず⇔製造装置は高額)
 産業再生法の適用 産業再生法による公的資金投入の第一号。政策投資銀行が優先株を引き受ける形。2009年6月末に適用の認定。
 経営が不安定になれば、半導体供給にも悪影響。政府は産業界の国際競争力を維持する観点から経営基盤の強化が必要と判断。
 日本政策投資銀行への優先株式の発行 2009年8月31日 政策投資銀行を引受先とする第三者割当増資 優先株300万株
 普通株への転換請求は2011年2月以降。
 金融機関からも計1100億円の融資
 なお 経済産業省の幹部がこのエルピーダ救済に絡んでインサイダー取引を行い、私腹を肥やしていたことが明らかになっている。

 2011年 DRAM市場シェア(エルピーダの売上の8割はDRAM)
 サムソン電子42%がトップ サムソン、ハイニックス合わせると韓国勢の世界シェアは7割(ウオン安を追い風 2010年モバイルサーバー用DRAMに主軸を入れ替える投資の注力 2010年の投資額は前年の2倍 エルピーダの8倍)  
 エルピーダ 13.1%
 マイクロン 11.6%
 韓国SKハイニックス 23%

 エルピーダは2011年シェアは10%台だった。エルピーダは今回の2012年5月に確定した米マイクロンによる買収で海外企業軍門下に入り、DRAMにおける日本勢の時代は終焉したとも伝えられた(しかし日本の工場は残っており、しぶとく残ったともいえる)。公的資金投入の失敗例ともされるが、その評価は正しいだろうか。

買収劇の推移(2011年秋から2012年春)
 2011年10月 4月ー9月で568億円の最終赤字
 2011年秋パソコン減産でDRAM価格下落圧力
 2011年12月 銀行団から事業再構築要求(2012年4月2日 協調融資のうち未返済の770億円満期日 借換の条件として再建策求める)
       ⇒産活法の再認定(政策投資銀行や経済産業省が再建計画を承認できるか 金融機関や経済産業省が説得できる再建計画策定できるか 提携交渉前進できるか) 公的資金の継続
       2012年3月末までに450億円の社債償還
       2011年度下期返済借入金が500億円
 2011年12月 台湾大手南亜科技(業績不振 DRAMで世界5位)と資本提携交渉

2012年
 1月 2011年4月ー12月 営業損益で900億円の赤字が明らかに(その後 989億円の最終損益赤字 昨年は102億円の黒字)
 2月3日 マイクロン(DRAMで世界4位)CEO アップルトンが飛行機事故で死亡 マイクロンとの提携交渉(2011年末から資本業務提携交渉)が中断(中旬に再開)
 米グローバルファウンドリーズへの広島工場売却交渉開始(中国企業に売る案もあった システムLSIにラインは変更できる) 

 2012年2月23日(木) エリピーダと金融機関(政策投資銀行など4行)との会合 4月期限1070億円(4行分)の借換交渉
           再建計画を主導する政策投資銀行は強硬に交渉案件の3月末決着を主張(実質的に破たんを導く)
 2012年2月24日(金)  預金250億円を「りそな銀行」に移す 
 2012年2月27日(月) 午後2時半臨時取締役会 午後3時適用申請決定(マイクロンなどから資本業務提携オファー届かず) 東京地方裁判所へ会社更生法適用申請受理(なお100%子会社の秋田エルビータも東京地裁に更生法申請) 支援先選定アドバイザーは野村証券
 2012年2月28日 社長ら金融機関 顧客に謝罪説明に回る 東証前日比80円安254円
 2012年2月29日 債権者集会(都内)東証 制限値幅撤廃 前日比249円安5円

 2012年3月 東芝(2002年にDRAMから撤退 マイクロンに米国工場譲渡 デジカメなどに使われるNAND型フラッシュ(音楽 写真などの保存に使われている)に経営資源集中(教科書通りだが 資金力のなさを反映) 
 携帯情報端末用のNANDとDRAMをともに供給できる韓国メーカーと競争力で落差 値下げ受注の原因)が入札に意向示す(3月中にはハイニックスとエルピーダ買収で連携できず すでに2011年フラッシュではハイニックスと次世代メモリーで提携済み 背景には東芝にはエルピーダ買収に回すお金を抑制したい考えがある 東芝は社会インフラとフラッシュを中核事業としてなお資源の集中にこだわる しかしフラッシュではすでにサムソンが巨額投資で東芝を引き離す戦略) NANDで東芝はサムソン電子に次いで世界2位。3位がハイニックス(2012年2月 韓国SKグループ入り)、4位がマイクロン。

 3月23日 破たん後 現経営陣の一部が残るDIP型会社更生へ
 3月28日 上場廃止
 3月30日 一次入札締め切り(マイクロン 東芝 韓国SKハイニックス 米グロ-バルファウンドリーズ:半導体受託製造大手など マイクロンが1500億円超を提示 東芝の提示額が大幅に低く脱落)⇒東芝が早くも脱落

 歴史的な円高 DRAM価格急落(2012年4月上旬のDRAM価格は前年同期の4-5割安)
 脱落した東芝は韓国ハイニックスSKと共同入札検討したとされる

 4月27日 第二次入札の締め切りを 1週間程度伸ばす
 
 5月4日 支援事業決める2次入札
 米半導体大手マイクロンテクノロジー
 米TPGキャピタルと中ホニーキャピタルの米中投資ファンド連合(提示買収金額2000億円超):ホニーの後ろにいるのはレノボグループ
 ⇒韓国半導体大手ハイニックスは応札せず(パソコン用DRAMは競争激しく採算性悪い 東芝 グローバルファウンドリーズとの協議も終了)

 5月6日経営会議でマイクロン・テクノロジーを支援企業に選定(米中ファンド連合案より大きな支援額 半導体事業で相乗効果期待できる 当面の従業員削減回避)
 2000億円超で買収。完全子会社化。情報形態端末用DRAMの開発生産。支援総額は3000億円 マイクロンは2位に浮上。サウソン追撃体制整う。
 5月7日管財人が東京地裁に報告
 7月2日 買収の合意発表
 8月21日までに、債権者や取引先の支持をとりつけ、東京地裁に更生計画案提出
(その後 海外投資ファンドなど一部の社債保有権者が対抗案を提出したが東京地裁は10月31日 同社が債権者との決議に入ることを認め、対抗案を退ける決定を下した。これにより債権者の一定数の賛成を条件に更生計画案が正式に認可される見込みとなった)

originally appeared in June 24, 2012
corrected and reposted in Dec.30, 2012

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