Entrance for Studies in Finance

外為どっとコムが1ケ月業務停止処分(2010年9月17日)

外国為替証拠金取引について
 外国為替証拠金取引(FX取引)は個人による外国為替手段として成長。現在では外国為替取引全体の3分の1を占めるとされるまで取引規模が拡大している(外国為替取引の主要プレーヤーに成長 BIS調査2010年4月で世界の為替市場での円の対外貨取引は1日28兆円。他方FX業者の顧客との2010年8-12月の取引額は推計で5.2兆円、約19% 2007年4月時点の推計約7%の2倍以上)。その中心は取引所取引ではなく、業者との相対取引(店頭型)だとされる。
 ドル ユーロ 高い流動性
 ポンド 変動率大きい 
 ドル・円 > ユーロ・円 > ポンド・円 > ユーロ・ドル > 豪ドル・円
 (2010年金融先物取引業協会)
 ユーロ相場の下落 反発期待
 1998年の改正外為法で解禁されたこの取引は、相対取引からスタートした。証拠金取引の投機性に加えて、相対取引で提示される価格の透明性に顧客保護上問題があるのは明らかであったが、市場規制が回避されたのは不思議である。ようやく2005年に改正金融先物取引法が施行され、2005年から東京金融取引所で取引所取引(くりっく365)が始まった(2009年に大阪証券取引所・大証FXも参入した)。
 取引手数料は店頭では無料化が進んでいる。取引所では手数料がかかる。その結果 短期売買では店頭が有利とされる。
 税制面で取引所取引は雑所得・申告分離課税、店頭取引は雑所得・総合課税のため、取引所取引は税制面で現在は優遇されていると指摘される(2011年6月22日に成立した法改正で、2012年1月から雑所得・申告分離課税に統一されることになった。また差金決済取引も同様。)。取引所取引と店頭取引では、顧客層が違い、取引所取引は富裕な資産家が中長期の運用を行う一方、店頭取引は短期取引の場になっているとも見られている。
 証拠金取引については(一時数百倍といった証拠金倍率も見られたが)2010年8月、ようやく(過度な投機を抑制する見地から)50倍までという規制が入った(2011年8月には25倍)。FXは個人は外貨買い(円売り)で入るので、結果として円高を抑える効果があるとされる。2010年8月1日からの規制は、外貨の購入を抑え、おりからの円高の進行を進めてしまう面があるかもしれない。
 FX取引をする主婦層を「ミセスワタナベ」、男性サラリーマンを「外為太郎」と呼ぶことがある。
 外貨買いで入ることが多いために、一方向に円高に進まないことにかけた「逆張り」が多いとされる(売りではいるのは中級者)。つまり円高の進行するもとで、逆に円売りではいるので、このような外国為替証拠金取引の存在は相場に対して安定作用があるとされる。そのためか円高が進行すると損失を出す人がふえるとされ、2010年暮れに外為どっとこむが行った調査によれば、過去1年の取引で儲けが出た人は20%.損失がでている人は40%。また大震災後の3月17日に円高でミセスワタナベが損失をこうむったとされる。
 一般に円安が進むとこまめに利益確定の売りがでる(外貨買い 円安 外貨売り)。
相場の動きが小さくなると、小さな値動きを捕らえて利益を確保する瞬発力が必要になるが、システムトレードが人気を集める一因になっている。
 中長期的観点から金利差をねらった豪州ドルなど高金利通貨買い(スワップポイントという一種の金利収入が日単位で得られる)。

2010年8月の倍率規制後のFX取引
 まず「過度の投機的取引」を防ぐ観点から証拠金倍率に50倍の上限が置かれた。この上限は2011年8月に25倍にさらに下がる。市場を統制するためには、倍率規制を柔軟に使用できることが望ましい。
 この規制については、円高を防止するという点からは逆効果との指摘がある。個人は基本的には外貨買いで投資に入るからだ。これは個人投資家は市場の動向の反転をねらって、円高局面では円安に戻す動きにかけて、外貨を買う「逆張り取引」を膨らませるからだとされる。日本経済は低成長であるから円高は円安に戻すはずと考える個人投資家は多いようだ(なおいつも円売りの担い手ではない。円先高観から2010年1月などは外貨の売り持ちが増えた。)。
 
 規制導入後の2010年8月19日(1週間ぶりに1ドル84円台 11日の84円72銭に迫る)に東京金融取引所の外国為替証拠金取引で、外貨に対する円の売り越し額は過去最大の52万3000枚(約4500億円 米ドルや豪ドルでは1枚が1万通貨単位 8月18日の47万枚弱よりふくらむ)に達した(その後一時83円台を記録した8月24日には54万9818枚と55万枚、約4700億円に迫り、過去最高を更新した。)。なお岡三オンライン証券によると、小口の個人投資家の売買は激減した。また東京金融取引所は8月の「くりっく365」の取引が前月比13%減少したとした。影響はでたが2-3割減少との一部の予測ほどではなかった。

インチキが正常か顧客にはわからない価格システム
 これまで指摘されてきたのは約定率。指値で注文しても約定率が低いと、相場は動いてしまうので、買値(あるいは売値)が変化して、損益がかわってしまう。スプレッドが低くても約定率の低い業者は顧客の利益にならず(実際の売買値でみたスプレッドは大きくなるため)、スプレッドが少し高くても、約定率の高い業者の方が顧客の利益になるとされる。なかにはわざと約定を拒む悪質な業者もいるとされる。
 さらにあらかじめ顧客との合意で一定の変動幅(スリップページ)で取引価格の変動を顧客が容認している場合は、その変動幅の範囲で売買が成立することも生じる。この場合、顧客にとり不利な方向へのスリップページが多発しても、全く正当な取引になる。
 ストップロスというのは、投資家側がストップロス機能を設定したことを悪用するもの。一定の安値になると損失拡大を防ぐため自動的に売るといった設定があると、提示価格を瞬間的に安くして、この顧客側の機能を作動させて顧客から安値で購入できる。

最大手の外為どっとコムで誤表示(2010年7月13日および9月6日)システム障害(9月15日)などトラブルが連続
 誤表示のため円・ユーロ相場のところで誤表示が生じ顧客に損失が発生したとされる。
 最大手業者の店頭FX取引のところでの問題発生であり、この問題はFX取引全体の信頼性に関わる。というのはFX取引は、相対取引が中心。相対取引では業者の価格表示への信頼が取引の基礎。
 外為どっとコムではまず7月13日にユーロ円取引で問題が発生。取引の中心の一つであるユーロ・円相場で1ユーロ111円程度のものが反値の55円台後半の表示がでた。同社は発生した関連取引を無効とする措置をとった。(異常値を排除するシステムが機能しなかったとし、影響を受けた取引数量も公開されなかったが、このように数値を公開しない姿勢は疑問が多い。また後述するように公開されているHP上には、こうした事故があったことの説明、開示が残されていない)。
 9月6日に起きた誤表示は事件の再発を防げなかったことを意味する。金融庁では9月10日に業務改善改善命令を出したが、9月15日に外為どっとコムでシステム障害が発生した。ここでようやく関東財務局は9月17日に外為どっとコムに対して10月の1ケ月間の業務停止命令を出した。 なぜかくも処分がゆるやかなのか。よく理解できないところだ。
さらに分からないのは外為どっとコムのHPに入っても、今回の事件や関東財務局による行政処分の痕跡がないことだ(2010年9月20日現在)。このようなケースで通常出される「お知らせ」も「おわび」も見当たらない。最大手業者としてこのように開示姿勢に欠けるのは問題が多いのではないか。なお9月22日になってようやく、業務停止命令を受けたことの「お知らせ」が掲示された。
2010年9月6日の事件をつたえる9月7日付けのブログ記事
9月6日に誤表示があったことを報道する9月10日の記事
関東財務局 外為どっとコムに対する行政処分 2010年9月10日
関東財務局の行政処分伝える2010年9月17日付けロイター電
関東財務局 外為どっとコムに対する行政処分 2010年9月17日

先例 コメルツ銀行による誤表示問題(2009年10月末)
 同様の問題は散発している。たとえば2009年10月末日ドイツコメルツ銀行で発生。このときは東京金融取引所の外国為替証拠金取引「くりっく365」の南アフリカランドの取引に絡んでのもの(マーケットメーカーの1社であるコメルツが極端に安い買値を表示、これが取引所の提示値となり、500人に近くが損失を受けたと報道された)だった。コメルツは2010年1月3日まで取引停止処分を受けただけでマーケットメーカーから排除されなかった。当初の報道ではコメルツは「リスク回避」として提示値を取引所に説明したが、その後の金融庁の行政処分の文書によれば、コメルツ銀東京支店内でシステムの改善を図るなかで生じた「事故」が真相で、コメルツに悪意はなかったとされた。異常値を取引所側のシステムが排除できなかった。取引所ではこの「事故」を受けて、短期間で3-5%を超えるレート等を異常値として自動的に排除するようにシステムを修正したとされる。
 「くりっく365で30秒間急落」『日本経済新聞』2009年11月13日夕刊2面
 金融庁 コメルツ銀東京支店に対する行政処分について 2010年1月8日
 東京金融取引所 コメルツ銀に対して過怠金300万円の処分 2009年12月21日

それではFX取引とはそもそもどのようなものか
FXの基礎知識(ひまわり証券)
 FXとは(大証)

 個人投資家の外国為替証拠金取引のうち、取引所取引である東京金融取引所「くりっく365」の取引(2005年7月開始)が急拡大している(このほか大阪証券取引所が「大証FX」を2009年7月に開始)。個人投資家の短期的な動きを反映していると見られている。海外では普通の主婦が取引に参加しているとしてMrs Watanebesともてはやされる。
 個人のFX取引は東京外国為替市場の3割程度を占めるとされる。また取引所取引はFX取引全体の1割程度とされ(店頭取引が大半)、全体像を把握しにくい市場になっている。
東京金融取引所 クリック365
大証FXの特徴について

 1998年の外為法改正をきっかけにした外国為替証拠金(FX)取引は、外貨預金より安いコストで個人に外貨取引を可能にした(証拠金倍率を1倍にすると手数料は銀行の外貨預金の場合の約20分の1)、プロとはことなる個人の参加で市場変動をなだらかにしたプラス面がしられる。この自由化は疑問の多いものだった。
 その取引には、相対取引とこのような取引所を経由した取引とがある。現在は相対取引が主流だとされる(取引所取引はFX取引全体の1割強と推計されている)。なおFX業者は金融商品取引法による登録制。
 2005年7月改正金融先物取引法施行で金融庁への登録義務化(電話勧誘禁止、自己資本規制比率120%以上) 400社ほどあった業者が100社強に減少 商品先物会社や専門会社から取引業者のすそ野が拡大。大和証券が2006年2月に、また東海東京証券が2006年5月に参入するなど。
 第一種金融商品取引業登録案内
 外為どっとコム(最大手)商品概要
 ひまわり証券商品概要
 セントラル短資FX商品概要

 金融庁は従来、規制に消極的だったとされるが、この消極姿勢はまったく理解できない。FX取り扱い業者の業界団体である金融先物取引業協会では店頭FX(相対取引)の数値をまとめている。2005年度第4四半期に50兆7305億円だったものが、2008年度第4四半期には587兆237億円と4年間に10倍以上急成長している。
 金融先物取引業協会統計

 2007年8月のサブプライムローン問題をきっかけとした登録業者の破たんを受けて、金融庁がFX業者の緊急実態調査をした結果、顧客資産と自己資産を分別管理していない業者が4割を占めるなどの問題が明らかになった。それにも関らず、金融庁の姿勢はその後もゆるやかで急がないものだった。こうした事態はもともと規制を緩和したときに予想されたこと、それを取引規模が拡大して破たんが生ずるまで放置してから、分別管理の強制へと進むのは行政機関の態度として疑問が残り金融庁のこのような行政姿勢には強い疑問がある。
 問題が起こることが予測されているのにそれを放置して、問題を確認して規制するというこのステップには、納得がゆかない。

 2007年10月17日 エフエックス札幌(札幌市) 取引の強制終了宣言
2007年10月22日 エフエックス札幌 札幌地裁に自己破産申請
         北海道財務局 業務停止命令 業務改善命令 など出す
         債権者588人 負債総額23億3000万円 資産1億4000万円
 2007年11月5日  アルファエックス(東京都港区) 電話不通 HPダウン
 2007年11月6日  アルファエックス 東京地裁に自己破産申請
         9月末現在565口座 預かり証拠金約21億円
 2007年11月9日  金融庁 アルファエックスに業務停止命令など出す
 2007年12月3日  金融庁 日本ファースト証券(東京都中央区)に対し業務停止命令・業務改善命令(2006年12月27日に続き再度 分別管理の不備 自己資本比率の不足など)
顧客約850人。
 2007年12月17日  金融庁 日本ファースト証券に対して登録取り消し
          東京地裁に破産手続き開始・保全命令 申立
 2008年4月4日   金融庁 ニッツウトレード(東京都千代田区)について東京地裁に          破産手続き開始申立。業務停止命令、業務改善命令。
         顧客数約500人 預かり保証金約10億円

 2009年8月。金融庁は本当にようやく一連の規制実施を決めた(規制強化を遅らせた理由は不明)。まず2010年2月からロスカットルール(損失がある水準に膨らんだところで強制的に取引を終えること)の適用、証拠金の金銭信託として信託銀行に預けることを義務化。そして2010年8月に証拠金倍率を50倍までに制限することである。証拠金倍率については2011年8月には25倍まで引き下げる方針。これは相対取引を強力に取引所取引に誘導するものとされる。
 これを受けてFX業者は商品メニューに取引所取引を加え始めている。
 クリック365 大和証券2009年11月参入 外為ドットコム2010年5月参入予定
 大証FX 岩井証券2009年11月参入 松井証券2010年1月参入 マネックス証券2010年5月参入予定

なお金融商品取引法による登録をしていない海外の業者が、顧客を勧誘する恐れが指摘されている(このような業者の営業は禁止行為。このような業者と取引して資金の持ち逃げなどの問題が生じても保護されない)
 金融庁 外国為替証拠金取引について

取引の現状
取引が多いのは高金利の豪ドル・円取引。米ドルと円取引だったが、ユーロ円取引が急拡大した。高金利通貨の代表格は豪ドル。逆に低金利通貨の代表格は米ドル、ユーロである。
流動性の面では米ドル、ユーロが高い。米ドル、ユーロは輸出入に伴う実需も多い。

2010年5月 ギリシア財政危機でユーロ・ドル急落。個人投資家は損失確定売りを迫られる。豪ドルには南アフリカランドとともに資源国通貨の顔もある。南欧諸国の財政不安とともに、金利と為替収益をともに稼げる資源国通貨に投資マネーが集まっている。日米欧が低金利を続けると思われるなか、新興国とともに資源国が利上げに踏み切るとみられることも材料になっている(2010年4月豪中銀が政策金利引き上げ)。

5月中旬に入り豪州ドルが対円で急落。個人投資家は損失確定売りに走った。そしてヘッジファンドが豪ドルを手じまう中で、個人投資家が逆張りで豪ドルの買いに入っている。個人投資家には短期的な逆張り好きな特性がある(プロの投資家が行なうキャリー取引が相場変動を拡大するのに、このような個人投資家はリスクをとりやすく市場の変動をならす効果がある)。しかしこの手法は、市場の流れが一貫して強いと損失を膨らませる結果に終わる。

FX取引が個人の短期的動きを示すのにやや中長期的動きを反映するのは、外貨建て投信をめぐる動き。新規購入により該当外貨の買い・円売りが生じる。また解約により外貨売り・円買いが生じる。つまり買い越しになれば円売り、売り越しになれば円買いとなる。
豪ドル、ブラジルレアル、インドルピー、南アフリカランド、トルコリラなど資源国・新興国通貨建ての投信が人気だ。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author. originally appeared in June 20, 2010
corrected and reposted in Sept.19, 2010
Corrected and reposted in July13, 2011

キャリー取引 FX取引 外国為替相場
為替介入の再開(2010年9月15日)
ドバイショックについて(2009年11月25日)
ギリシャへの資金支援で合意(2010年5月2日)
アイルランドへの金融支援決定(2010年11月28日)
ポルトガル EUに金融支援要請(2011年4月6日)
綱渡りのユーロの信認(2011年7月11日)
back to the top

財務管理論講義
証券市場論講義

人気ブログランキングへ
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「Economics」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
2024年
2023年
人気記事