Entrance for Studies in Finance

Research: 中国人民元国際化の歩み

貿易での人民元建て取引の増加
 対中国の貿易での元の使用は、ドルを使うことに比べて、両替手数料の削減。為替変動リスクの軽減につながる。
これは中国に進出している中国企業にも歓迎された。
貿易決済について2009年7月から元の使用を中国政府はASEAN、香港、マカオに拠点のある海外企業と
上海、広州など国内5都市にある中国企業との貿易決済に限って試験的に認めた(決済業務も当初は中国系銀行に限定
その後2009年9月外資系銀行にも解禁した)。2010年6月には海外企業の制限をなくし
国内は20の省、特別市、自治区に広げた。2011年8月には人民元決済を全国に拡大することが発表された(背景には
人民元国際化という課題、2008年リーマンショックによるドルの信認低下の問題、
そして中国国内に入ってくるドルを抑制する問題があった。)。
さらに2012年8月には、人民元で貿易決済をする企業の書類提出の多くを免除する優遇先が発表された。
これらの措置の結果、貿易全体に占める元決済の割合は
2013年1-6月で17%にまで上昇している。
日本は1980年代から円の国際化を唱えてきたが、円建て比率は輸出で35%
輸入で20%。これに比べて元の貿易決済に占める比率の上昇テンポは速い。
 他方で金融取引では中国政府が資金移動に様々な規制を課しているため、元を入手した企業の使い勝手はよくない。
中国国内の株式、債券、不動産などにまわすことは原則できない(2009年9月に元建て国債60億元を香港で発行したのは
象徴的で元の運用の場所の増加が、元国際化のカギとされる)。
 2011年1月には対外投資の人民元建て決済を一部解禁 また輸出代金を海外口座の預金に送金できることになった
 これまではともかく国内にすべて送金させた(外貨不足だった時代のなごり なお外貨管理局は海外口座への
預金額に上限をもうけて、外貨の対外流出になお抑制姿勢 資本取引を厳しく規制する中国では一度国内に入った資金が
国外に出て行きにくく外貨準備が膨らみやすい ⇔ 金余り 元高要因)
 他方で中国は外貨準備を米国債、日本国債、ユーロ圏国債(→ユーロ不安の解消)などに投資。マネーパワーに利用した。
 (プラザ合意を受け入れた日本は円高不況→資産バブル→デフレ=長期停滞に陥った。
これを学習した中国は元高不況を避けようとしている。
しかし元の国際化が進めば、元高圧力も高まる 中国の輸出額は2009年世界1になった
2008年をピークに中国の経常黒字は減少に転じた またGDP比での経常黒字ノピークは2007年で11.0% それが2009年には
6.1%にまで減少している)
 (またこの中国の認識によれば、黒田日銀総裁のもとで、日銀が異次元の金融緩和を図ることはどう見えているの
だろうか。)

 2011年10月には人民元建て対内直接投資を一部解禁
 例外措置として、適格国人機関投資家QFIIと人民元適格外国人機関投資家RQFIIの両資格制度がある。
 中国政府が恐れているのは資金の国外流出だとされている。
 こうした中で香港などオフショア市場の役割が注目されている。もともと香港企業と中国本土との元取引が、
元建て取引の8割を占めている。
 2012年2月 日中の財務当局 中央銀行が元円の直接取引に向けた作業部会開始
 2012年4月 米ドルに対する人民元変動幅を基準値の上下1%に拡大
 2012年6月 東京と上海で人民元と円の直接取引開始

中国の人民元政策の変遷
中国は2005年7月に元とドルを固定する制度を見直した。1日に上下各最大0.3%の変動を認め
通貨バスケットを参考にするとした。この変動幅は2007年5月に上下0.3%から0.5%に拡大された。
しかしユーロが大きく下落した2008年7月からは対ドルでの固定がおこなわれ、対ドルでの調整(ゆるやかな元高誘導
:対米配慮)が意図的に行われた。
2009年7月以降は貿易決済で人民元を使うことを段階的に認めてきた
貿易決済額は2009年に36億元、2010年に5063億元(6.3兆円 貿易総額全体の2.6% 他方ドル建ては全体の7割程度)
その後、2010年6月人民銀行は元相場の弾力化を表明、相場を固定していたことを認めた。人民銀行は、2012年4月14日、
許容される変動幅は4月16日の取引から、上下0.5%から1%に拡大するとした(こうしたあり方は管理フロート制と呼ばれる)。
上海市場では中国人民銀行(中国外貨取引センター)が毎朝、対円の元相場の基準値(中間値)を決めている。
1日の変動幅はドルについては上下1%* その他の通貨は上下3%と決められている。
また通貨バスケットの本格的参照が始まり元はユーロと連動する場面が増えた。
ユーロとの連動を高めることにより、欧州向けの輸出への影響に配慮
するようになった。これは中国の貿易の最大の相手が欧州だということからも合理的な行動とみられている。
中国政府の2012年の成長目標は昨年より0.5%低い7.5%。しかし中国経済の減速感は強い。2011年末から
3度にわたり預金準備率をひきさげたほか(2011年12月 2012年2月 2012年5月)、6月と7月には人民銀行は2008年12月以来
3年半ぶりとなる利下げを2ケ月連続で発表している。またオペによって積極的に資金を市場に供給している。
懸念される物価上昇も前年同月比1月4.5% 2月3.2%3月3.6% 4月3.4% 5月で3.4% 6月で2.2% 7月1.8%と鈍化している。中央銀行が緩和に動きやすい環境。
他方、工業生産者出荷価格は6月マイナス2.1% 7月マイナス2.9%で7月時点で5ケ月連続のマイナスでマイナス幅も拡大。景気の減速を反映している。
米国向けあるいは欧州危機で欧州向け輸出が伸び悩む影響が広がっており、
(2011年後半以降 輸出の鈍化が顕著)2012年4-6月の経済成長率は
6四半期連続で鈍化。8%を下回る7.6%にまで鈍化した(11年10-12月に前年同期比実質8.9% 12年1-3月にすでに8.1%に減速)。
安定した成長軌道に戻れるか注目されている。
元とユーロとの連動を高めることで対ドルで元安になっても欧州向け輸出のダウンをできるだけ小さくする必要に迫られているのかもしれない)。

2012年6月1日 円元直接取引開始
6月1日から円と元の直接取引が開始された。これまではドルを挟んだ間接取引であった。
東京市場では6月1日から3メガバンクが。直接取引はドル以外では初めて。
参加銀行が短資会社を通じて直接交換レートを提示するとのこと。
東京市場では中国におけるような取引規制はない。ドルを挟まないことで為替手数料が安くなる
ことが期待されるが、実際はドル取引が多いためドルを介した方がコストが安いとも
指摘されている。

円元直接取引開始の思惑 東京 人民元オフショア市場構想の挫折
中国としてはドル依存からの脱却をはかり、元建て決済を増やす、元の国際化を進めるといった狙い
があるのではないか。現在日中間の貿易決済はドルを介した間接取引が大半とのこと(6割がドル建て)。
日本としては人民元市場を日本に作ることで、東京にオフショア市場を整備する狙いがある。
日中間の政治的対立にもかかわらず、中国が最大の貿易相手国という現実も変わらない。
日本政府は人民元のオフショア市場を日本で開くことを考えていた。民主党そして安倍自民党という
中国との関係を保てない政権の継続(日中間の政治的緊張)が、この構想に水を差したことは間違いない。

Area Studies Business Models Business Strategies 
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「Area Studies」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
2024年
2023年
人気記事