Entrance for Studies in Finance

テスラの非公開化

2018年8月7日、テスラモーターズのイーロン・マスクCEOが非公開化(=上場を取りやめること、すなわち株式を非公開化すること)を検討していることを発表した。同社は2010年にナスダックに上場。2017年9月には389.61ドルの上場来高値を付けたがその後は株価は低迷している。巨額の投資が先行するなか、赤字幅は拡大。最近は資金繰りの困難が伝えられていた。6日の終値より23%高い420ドルで買い取る。株主が株式の保有を続けることも可能として6ケ月ごとに株式を売買できる機会を設けるとした(こうした株主が多いほど非公開化を行うための買取りコストは小さくなる)。

四半期ごとの圧力、会社を攻撃する多くの人々、などを株式公開の問題として挙げて、非公開企業の方が効率が高いとした。これにたいして、マスコミには非公開化に大義があるかといった記事が書かれた。しかし起業熱にかかわらず、NYSEやNASDAQで上場会社数が減少していることを考えると、企業が大きくなると証券市場で上場するという神話や、証券市場を通じたガバナンスを受け入れねばならない、というお題目が本当に正しいかをそろそろ疑っていいように考える。株価は、企業経営者の経営判断を超えて、日々変動するが、投資家は企業の成長をかんがえているのではなく、投資資産を守り収益を確保するために短期的な売買を繰り返している。だとするとそのような投資家に振り回されることが本当に正しい経営だろうか? もしもであるが、非公開化しても、増資による資金調達が可能であれば(たとえばPEFファンドなど)、企業は株式市場に残る意味はあるのだろうか。

この非公開化には720億ドルが必要とのこと。ファンドによる買収としては過去最大になる。この情報でテスラ株は一時急上昇した。

8月16日 ウオールストリートジャーナル紙はSECが2017年からテスラの情報開示をめぐり調査していたと報道した。

ところが このマスク氏の行為はヘッジファンドの売りに対するマスクウ氏の虚偽情報との見方が出て問題になっている。最終的に8月24日 テスラは非公開化を撤回した。株価は非公開化計画発表前を大きく割り込む水準まで低下している。

背景にあるのはテスラの業績悪化だ。投資が多くて採算が改善しない。

9月18日 司法省が捜査をはじめていることがわかった。

清水勘「減少するアメリカの上場企業」ニッセイ基礎研2017/12。・・・・清水さんに言わせるとアメリカでは起業は依然盛んだが、VCやPEなど上場に代わる資金調達手段が整備される一方、上場の敷居が高くなっていることが、上場会社数の減少につながっているとする。新興企業についてはこの言い方や分析は妥当。ただ私たちの関心初めて、大企業にむしろあるのだが。つまりは大きな企業が非上場化する問題。非上場化は戦略的な選択で再び戻るのか、あるいは永遠に戻らないという選択も可能なのか。
太田珠美「IPO市場の動向と国際化」大和総研2017/03
株価の回復にもかかわらずIPOが回復しない理由として上場審査体制の整備を挙げている。
太田珠美「上場会社数の減少が続く国内証券取引所」大和総研2011/12日本国内でのMBOによる非公開化に着目。背景として株価が低迷するなか金利低下などによって社債・借入などのコストが下がっていることに注目。注目されるのは上場のメリットへの疑いが出ていることを指摘していることだ。資金調達の問題のほか、知名度を上げるといった点では情報発信についてはさまざまな手段が登場していること。他方、上場により株主構成が複雑化して、短期的な視点での経営判断に縛られること。開示コストのほかなどさまざまなコンプライアンスコストが負担になること。当然にように前提されている企業が成長すると、上場せねばならないのか?ということが改めて論点になっている。
日本政策投資銀行(NY)「米国における非公開企業と非公開化の動向」2006/03・・・・中堅中小企業の非公開化について、ソックス法(サーベンス・オックスレー法)の影響による上場コストの上昇、PEなど代替資金手段の整備などを挙げている。注目される分析として、非公開企業の理念を調べて、非公開企業が従業員にとってむしろ「働きやすい企業」である可能性を示唆していること。非公開化される企業が次第に大規模化していることも。長期的な企業の存続を考えたときに、企業の上場・公開が唯一の選択肢ではなくなっている可能性がある。改めて公開企業が本当に企業の効率性改善に役立つかは議論される必要があるだろう。
大崎貞和「非公開化の意義と問題」資本市場クオータリー2005Aut.(野村資本市場研究所)
非公開化について日本で進むMBOを通じた非公開化とアメリカにおける非公開化の動向を並べて論じている。注目されるのは戦略的非公開化と永続的な非公開化を分けていること。ただ非公開化の問題点を述べるだけでなく、公開を義務として受け入れるべきといった主張を述べるのは客観的分析からは少し外れている。

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2018018 

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