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富士ゼロックス不適切会計事件(2017)から米ゼロックス買収問題(2018)へ

2017年6月 発覚した富士ゼロックス(富士フィルムHD子会社) の不適切会計事件で会長の山本忠人氏と副社長の吉田晴彦氏の退任が決まった(6月12日発表 6月22日の株主総会で正式決定)。この会社は山本氏が経営の責任者で社長の栗原氏は執行の責任者とのこと。

問題を起こしたのはニュージーランドとオーストラリアの海外子会社。なお日本でも不適切な会計処理があったとされる。問題の背景として、厳しい営業ノルマ 営業成績連動型の報酬 海外子会社に対する管理の甘さなどが指摘されている。リース会計の処理を悪用(利用想定量を過大に計上) 販売促進費用を売上高に加算などをしたとされる。海外子会社幹部たちは不正経理の結果の売上目標達成により多額の報酬を得ていたとされる。損失額は6年間累計で375億円。

富士フィルムHD(助野健児社長)は親会社にもかかわらず 富士ゼロックスを長年放置してきた。それが今回の大規模な不正につながった。背景には富士ゼロックスの大きさがある。売上高が約1億と親富士フィルムの連結売上高の約半分を占める。そのため長年 独立王国になっていた。他方、吉田副社長は2016年10月の富士フィルム側の問い合わせに対して、不正会計の事実を否定する不誠実な態度をとった。また今回の不正をおそくとも2015年7月には認識していたにも関わらず、問題を先送りしてきた(なお非上場会社であったことが問題の先送りを可能にした側面もある)。このような事実上の犯罪を行ってきた副社長を富士フィルムが、単に退任であるのは全く理解できないところだ。確かに直接、不適切経理をしたのは海外子会社ではある。それらも問題ではあるが、しかし問題認識後、適切な是正策を取らず、米ゼロックス(2015年8月)や富士フィルム(2016年10月)からの問い合わせに対して、隠蔽を続けた態度はあまりにモラルがなく、企業人として最低。社内外からもっと厳しい責任追及があってしかるべきだろう(背景になにがあったかは気になるところだ)。

この不適切会計問題からほぼ半年たった2018年1月31日。富士フィルムは米ゼロックス買収 61億ドル(50.1%)を発表した。ここで誰しも疑問に思ったのは、富士フィルムという会社の将来である。富士フィルムは写真フィルム事業の縮小をみすえて医薬などに業務転換した。ところが今回買収する米ゼロックスの主業務である事務機は、ペーパーレス化の流れの中で縮小が見込まれる業態。その市場は日米欧の成熟市場が75%と中心を占める。なぜいま成熟市場の事務機に本格進出なのかと。これに対して新興国になお大きな市場が残っており、市場の縮小スピードはわずかにすぎないというのが公式の回答。また買収資金は富士ゼロックスが銀行から借り入れ、富士ゼロックスから富士フィルムHDに富士ゼロックス株買い戻しのお金として支払われる。富士フィルムHDがこのお金で米ゼロックス株を取得したあと、米ゼロックスがその富士ゼロックス買戻し株をこのお金で取得することでお金は富士ゼロックスに還流する仕組み。つまり富士フィルムHDとしては、富士ゼロックスの株の代わりに米ゼロックスの株を取得する結果になる。米ゼロックスの既存株主には米ゼロックスから25億ドルの特別配当が支払われる。

このスキームは、富士ゼロックスを米ゼロックスの100%子会社にして、富士フィルムHDとの直接の関係をなくすことが目的であるようにも読める。つまり、事務機事業をむしろ切り離す準備をしたともとれる。事務機事業をめぐる富士フィルムの真意はわからないが、ペーパーレスの大きな流れは変わらない。合理化だけでなく、新事業をどのように展開していけるかにも注目する必要がある。

この買収計画に対して米ゼロックス大株主のカール・アイカーン氏らが反発。問題は既存株主にとってのメリットだ。新株発行(株式数は倍増)で株式価値は希薄化し、経営権は富士フィルムに移る。61億ドルでの取得(1株24ドル前後)という想定も希薄化を想定している(ゼロックスの株価は30ドル程度)。ゼロックスの株主が得るのは一時的な特別配当だけ。これは1株につき10ドル前後で総額25億ドル。経営統合メリットは富士フィルム側に生産・研究開発の効率化として計算されているが、ゼロックス側のメリットは示されていない。61億ドルはEV/EBTDA倍率では6倍程度。アイカーン氏たちは1株40ドル以上(同10倍以上)を要求している。

問題はこの買収が、ペーパーレス化の大きな流れの中での富士フィルムという会社の中の効率化だけを考えたものであるように見えること。確かにゼロックスという会社、その会社の株主や従業員の立場が無視されているように見えるのはいかがなものか。もちろん富士フィルムの側からすれば言い分はあるのだろうが、富士フィルムの側に米ゼロックスをまるで実質子会社のように考えている節が見えなくはない。米ゼロックスの経営再建を埒外にして、富士ゼロックスー富士フィルム側の都合だけではゼロックスの株主だけでなくその経営陣・従業員の協力が得られないのは当然ではないだろうか?


富士フィルムの社風:リストラを繰り返すため社内の雰囲気が荒れていることが指摘されている。(2016-06-20)
富士フィルム 不正会計問題 古森体制 社債発行との関係(2017-7-21)
Xeorx CEO is ousted Bloomberg 2018-05-03

2018-02-01投稿 2018-05-28更新

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