Entrance for Studies in Finance

Case Study: サムソンとアップルの特許技術戦略 

サムソンをめぐる特許侵害裁判
2012年8月24日 米連邦地裁(カリフォルニア北部地区米連邦地裁)の陪審員評決は韓国サムソン電子による
アップルに対する(スマホについての)一部特許侵害を認定。サムソンに対しアップルの
損害額10億5000万ドルをアップルに支払うことを命じた。
連邦地裁では
今後判事により仮に販売差し止めを含めた最終的な命令が出されるとのこと。
ただし差し止め命令がでても製品サイクルが早いのに命令の対象は旧型モデル。
したがって実害はないだろうという言い方がある。
巨額の賠償金にしてもサムソンはすでに巨額の利益を得ており、それで
十分支払えるとも。
しかし今回の評決は不正の認定であり、サムソンのブランドイメージには打撃になる。
とくにサムソンの利益がスマホに依存している以上、
2011年にソニー、ホンダを上回ったとされるブランド価値は、今回の騒動で毀損したとみるべきだ。
そしてブランド価値毀損の販売への影響は利益の減少に直結する可能性もある。
サムソンは液晶それから半導体の価格低下が進行する中、携帯への利益依存を深めていた。逆に
いえばスマホがサムソンの業績を支えた。全営業利益に占める通信部門
の比率は2011年7-9月に6割。2012年1-3月には7割に達した。
8月の評決はそのスマホでのサムソンの不正を認定したもの。

連邦地裁の陪審員評決を受けて2012年8月27日韓国株式市場でサムソン電子の株価が大幅に下落した。これは販売差し止めによる
影響を懸念したもの。同日、アップルは連邦地裁に対し8機種の販売禁止仮処分を求める申請を行った。
サムソンは評決の取り消しを要求。取り消しが認められない場合は上訴。差し止め命令が出れば、判決確定
までの執行保留を求めるなど、法廷での抵抗を続けるとみられる。

なお2012年8月31日に出された東京地裁判決では逆にアップルによる損害賠償請求が
棄却されている。

2つの裁判で争われている内容には違いがあり、連邦地裁では7件の特許について
東京地裁では1件の特許のついて特許権侵害が審理されていた。

しかしその後2012年10月11日。連邦高裁がこの地裁による行政処分を破棄して、裁判を地裁に
差し戻す判断を示す。状況は一転してサムソンに有利、アップルに不利に変わっている(後述)。

サムソンとアップル
 サムソンは2011年後半にはスマホ(ギャラクシーシリーズ)の販売でついに
アップル(アイフォン)を抜いたとされている(パネルの大型化 有機パネルの内製化
5.3型有機ELパネル搭載で差別化)。
 サムソンのスマホの出発は連邦地裁判決のわずか2年前の2010年6月のギャラクシーノートS(4型の有機ELパネル搭載 2010年末までに
1000万台発売)。その後4.3型有機EL搭載のギャラクシーSⅡを2011年4月に発売。これもあって2011年7-9月期にスマホ販売台数でアップルを抜く。つまり本格参入から主力事業への転換はわずか2年足らず。
 一貫して有機EL搭載が看板だ。消費電力が少ない、画質が鮮明、応答速度が速いなどの特性をもつ(また単価も高い)有機ELの量産、
商品化(事業化)でサムソンが世界で先行していることも示している。
 アップルが典型的なファブレス企業の一つであるのに対して、サムソンの経営モデルは、パネルや半導体をも自社生産する垂直型モデル
:量産効果でコストを下げシェア拡大も実現するもの。かつて日本の家電メーカーがとっていた同じ経営モデルで
なお成功し続けて勝因は、あくなき拡大路線だけでなく、いち早くスマホの生産に経営資源を投入する
スピード経営にもある(LG電子は携帯電話からスマホへの切り替えが遅れて2011年11月期に赤字化した)。
 その後も新シリーズ投入(2012年5月末ギャラクシーSⅢ投入)でスマホの国際的な販売で優位に立ち
首位争いで優位にたっている(そうした中で携帯電話としてかつて人気を博したノキアや
ブラックベリー(RIM)の凋落が目立っている)。そしてアップルやサムソンのよる攻勢により
かつての王者ノキアは2011年に入り壊滅的な販売台数減に追い込まれた。
 そしてサムソンの急追によって、2011年後半から今度はアップルさえもが販売台数を減らし始める。2011年7-9月期
サムソンはスマホの販売で、アップルを抑えて世界首位になる。

 いまやサムソン電子の利益の半分をスマホが稼ぐようになり(2011年後半に半導体との関係が逆転 2012年に入ると利益の
7割を通信部門が稼ぐように変化)、サムソンは半導体だけで稼ぐ一歩足打法(DRAMとNAND型フラッシュメモリーで世界首位)からの克服に成功したともされる。
 ところで2010年から2011年にかけて先進国の景気低迷から薄型テレビやパソコンの市場が伸び悩み
パソコンに使うDRAM, 薄型テレビやパソコンに使う液晶パネルなど、デバイスの価格が下落した。
世界のほかのエレクトロニクスメーカーが業績の落ち込みに悩むなか、サムソン電子はスマホの販売によって
収益を下支え、一人営業利益を伸ばすことになった(2011年1-3月期を底に営業利益は2012年に入っても
好調を維持した)。
 なおその後2012年9月,アップルのiPhone 5の投入に対抗して、同月、サムソンは
ギャラクシーノートⅡの投入を発表した。大画面やペン入力でアップルとは差別化を図っている。

連邦地裁での訴訟は2011年4月に米国でアップルがサムソンを提訴。サムソンも逆提訴していたもの。
サムソンはその後日本(4月) ドイツ(4月) 米国(4月) 韓国(6月)イタリア・英国(6月)で提訴。
各地に拡大している(付随して販売禁止の仮処分申請の問題もある)。泥沼化ともされる。

それぞれの結果はドイツでは2011年8月にドイツの裁判所がサムソンのタブレットの一部の販売一時差し止めを命令。2012年1月に
アップルが勝訴。しかし英国では2012年7月にアップルによるデザイン盗用の訴えが退けられた。
なお2012年7月 アップルが、中国での商標権をめぐる訴訟で、唯冠科技深�祁に対して6000万ドルを
支払う和解に応じたことが公表されている)。
また韓国では偶然というには大変奇妙だが同じ8月24日(米国時間では23日の米国での陪審員評決に先立つ時間)に、アップルについて2件
サムソンについて1件それぞれ侵害を認定する判決がだされて両社に損害賠償を命じられている。
意外なのはアップルが必ずしも勝っていないことだ。その中で連邦地裁の評決は、米国という大市場でのもので
あるだけに貴重な一勝といえた。

米連邦地裁の陪審員評決での認定が世界各国で進んでいる裁判に
与える影響も少なくないと見られた。サムソンに不利な認定や判決が世界各国で続いて
copy cat Samsung(モノマネサムソン)との評価がつくことは、サムソンにとって好ましいことではない。
今後、このような法律リスクを回避するために、開発のあり方が制約を受けることが、サムソンにとり
重荷になる可能性もある。
この米国での訴訟については2012年4月から5月には和解交渉も伝えられたが、結局7月30日より審理が開始され
8月24日の陪審員評決に至った(なおタブレットについては侵害が認められなかった)。

(なおサムソンはアップルにとっては液晶パネルや半導体の調達先。逆にサムソンにとっては有力顧客。
アップルがサムソンと訴訟しつつサムソンからの調達を続けているのは奇妙に見える。アップルがサムソンに
発注を繰り返すことが、サムソンの利益をささえている。なぜアップルがサムソンに頼るのだろうか。
たとえばこの訴訟合戦の渦中で2012年3月にアップルが発売した「新型iPad」用パネルの初期投入分を
受注したのはサムソンだという。

訴訟相手が事業のパートナーというこの両社の関係は私たちには大変奇妙に思える。アップルの訴訟する相手に
注文するやり方は理解を超えている。しかしファブレス型企業の一つである
サムソンは供給能力で群を抜いた存在で外せないのかもしれない。ということはこの物語には
一般に勝ち組のはずのファブレス企業の弱点の所在が示されているのかもしれない。

ファイアウオールの配慮(2011年夏)
なおサムソンでは2011年7月にデバイス部門の責任者を置いて、完成品部門から独立させる組織改革を実施。
さらに2011年12月には部品部門と完成品部門とをそれぞれ独立運営とする組織再編をさらに実施。
両部門間で製品情報の
やりとりを遮断して(=ファイアイウオールの構築)、アイフォン側の懸念に対応している。金融機関の場合
顧客との利益相反の恐れから、ファイアウオールの構築はよく話題になる。しかしメーカーでも部品と完成品を
ともに生産するメーカーは、顧客の完成品メーカーの懸念(情報流出)に対応してこのような措置をとることが
必要であることを示すもので大変興味深い。
(なお2011年10月 韓国サムソン電子のイ・ジェヨン李在鎔社長とアップルのクックCEOが会談して2014年までの部品供給に
ついて話し合ったとされる。両社が訴訟を続けるなかで、経営トップが話し合いを行い、部品供給について
またそのための体制について、約束あるいは条件を交わしたのではないかと思われる。)

サムソンの特徴:垂直統合、自前主義
サムソンの経営は生産から販売からまで自社で手掛ける「垂直統合」
部品を自社生産するこの方式は自前主義とも呼ばれる。基幹部品の大量生産で生産コストをさげ(そのためには巨額の設備投資)、その成果を
独り占めするもの(高い利益水準の確保)。自社生産した半導体やパネルでテレビやスマホを量産する体制を整えた。
ちなみに世界シェア2割の薄型テレビの2012年の販売台数は5000万台(2012年4月時点予測)。
この方式の前提は、投資(生産)水準の拡大(あるいは高い設備投資水準)に見合った販売(シェア)の拡大。
それがなければ稼働率低下で財務状況が悪化する。

followerを恥じない
技術開発の面では自社開発にこだわらず海外からの技術吸収 ヘッドハンティングを柔軟に進める。
fast followerと自ら位置付けているとのこと。

サムソンの知財戦略:まず技術の共通、標準化
サムソンは、標準技術の部品やソフトを世界で安く調達し、組合せ、そこそこの製品を圧倒的に安いコストで作る。
相手から模倣を責められたら、クロスライセンス契約に持ち込む。そうすれば利用料は最大で製品出荷額の5%程度。
製品を作り続けてコストや製品力で相手を負かしてしまう。コスト削減でカバーできる(小川紘一さんの指摘)。

アップルのオープン&クローズ戦略
標準技術を使ってコストを下げるオープン領域。
特許や秘密を徹底的に囲い込むクローズ領域(組み込みソフトのブラックボックス化)。この両者を明確に区別。
⇒ トヨタが燃料電池車の普及でオープン&クローズド戦略

日本のメーカーはこのため自前主義から、委託生産や外部調達に依存する経営に転換しつつある。
これに対してサムソンは垂直統合でなお利益を上げ続けている。

このほか創業家支配を続けていること。結果主義の信賞必罰の人事で求心力を維持していることなどが
よく指摘される。また韓国国内の人口が5000万弱と、市場として小さいことから量産規模を確保するため
海外市場の獲得に熱心で、巨額のマーケッテイング(知名度を上げることなど
ブランド力の向上)費用を投じているともされる。(2011年のインターブランド社の
ブランド価値ランキングではなおアップル、トヨタに及ばないものの、ソニー、ホンダを圧倒している)

米連邦高裁が地裁による行政処分を破棄して形勢は逆転
2012年8月 米連邦地裁がサムソンに不利な評決
その後 2012年10月11日 米国での訴訟について新展開があった。ワシントンの連邦高裁が問題の地裁による
サムソン電子のスマホ「ギャラクシーネクサス」の販売差し止め仮処分」を破棄し、カリフォルニア連邦地裁に差し戻した
のである。アップル側がサムソンの特許侵害を十分に立証できなかったとも伝えられた。
アップルにとって連邦地裁判決は貴重な一勝だったはず。それが覆った影響は大きいのではないか。

その後はサムソンの反転攻勢を伝えるニュースだけが伝わる。
サムソンはスマホ市場の拡大を見越して2010年頃からDRAMの製造装置をスマホ用に入れ替え、2010年6月発売の
ギャラクシーS以降、自社製品にモバイル用DRAMを大量搭載して初期投資をいち早く回収。パソコン価格の下落
に伴うパソコン用DRAM価格下落を乗り切った。これ(モバイル用DRAM)とクラウドコンピューテイングの拡大に伴う
サーバー用DRAMとがサムソンの収益を支えた。同様に有機ELパネルでもギャラクシーSへの搭載で初期投資を回収
する戦略を実行した(有機ELパネル市場でのシェアは9割。すでに圧倒的に先行)。
2009 iPhone3GS発売
 2010年6月 ギャラクシーS発売
 2011年4月 SⅡ発売
2011年7-9月期 スマホ市場でサムソン電子がアップルを抜いて首位になる
 2011年10月14日 iPhone4S発売
 2011年10月19日 ギャラクシーネクシス発表(OSはグーグル開発のアンドロイド4.0)
 2011年11月 ギャラクシーノート発売
 2012年5月 SⅢ発売
 2012年5月 和解交渉するもまとまらず
 2012年8月 米国での陪審評決で完敗(タッチ画面操作など)約830億円の損害賠償
 2012年8月 東京地裁がサムソン勝利の判決 サムソンの特許権侵害認めず
 2012年9月 ノートⅡ発売
 2012年9月 アップルiPhone 5発売(サムソンはCPUの受注価格を引き上げる。アップルはサムソンを主要調達先から排除) 
2012年11月にはサムソンがアイフォン5向けCPUの受託生産価格を引き上げた。
2012年12月にはサムソンがアップルからNAMD型フラッシュメモリーを大口で受注したとも。やはり
アップルはサプライヤーとしてのサムソンを外せないようだが、
このサムソンとの取引の維持をアップルが望んでいるとはとても思えないのだが。
2011年サムソンはアップルに10兆ウオン以上(7300億円)の半導体や液晶パネルを販売 対決しつつ最大顧客
2012年12月期の営業利益見通しは29兆100億ウオン(約2兆4000億円)となっている。
 2013年2月 東京地裁でサムソンの特許権乱用を認めた判決 アップルが勝訴
 2014年1月 裁判所の呼び掛けにより和解交渉

サムソンの弱点 同族経営
スマホでアップルに優位に立ったサムソン(アップルを超えるスマホメーカーに成長した 2011年―2012年と連続で世界首位)だが、
アップルは音楽やアプリを配信して収益を上げるシステムを構築している点では、サムソンに大きく先行している。訴訟の行方もなお予断をゆるさない。OSをグーグルに依存していること、今後の新興国での販売競争での台湾や中国の企業(台湾の宏達国際電子HTCや中国の中興通訊ZTEなど)との低価格機の
開発競争なども、世襲人事(イ・ゴンヒ李健熙会長から長男イ・ジェヨン李在鎔への継承 2012年12月副会長に就任)とともにサムソンの懸念材料とされる。
同じような同族経営はLG電子でもみられる(グ・ブンム具本茂会長から弟グ・ボンジュンへの継承 
2010年10月副会長への就任 それとともにLG電子はサムソンに対してしばらく続いた協調路線から
対決路線に切り替わったともされる)

スマホの成熟市場化 単価下落へ
 2010年6月 ギャラクシーS発売
2011年 世界でのスマホ販売 通年で僅差でサムソンが首位に 19.1%と19.0% パソコンの出荷台数(3億5239万台)をスマホ(4億9140万台)が上回る ネット接続機器の主役がスマホに代わる(2010年10-12月期にスマホがパソコン上回る)
 2012年5月 ギャラクシーS3発売
 2012年10-12月 過去最高の営業利益達成 サムソンのスマホ世界出荷台数シェア29%で首位
 2013年1-3月 連結営業利益前年同期比53%増の8兆7000億ウオン(7400億円) ただし前期比では2%減
 2013年4月4日 米国で家電量販大手のノベストバイと提携
 2013年4月14日 ギャラクシーS3の発売発表(5型の有機ELパネル採用 目の動きや音声による操作機能)
 2013年4-6月期 最高益 反面 スマホ部門が1-3月期に比べて減益 先進国での飽和 新興国では中低価格品が売れ筋 サムソンはそれでも半導体やDPなど中核部品を内製しているため利益をだしやすい 営業利益は9兆5000億ウオン(8300億円)前年同期比47%増
 2013年5月23日 ギャラクシーS4 日本でNTTドコモだけに販売(アップルと組んだKDDIを外す 日本国内デサムソンはシェアが伸びない
8%台で足踏み)誤算 ソニーノエクスペリアに顧客が集中 値下げに踏み込む NTTドコモのツートップ戦略 ソニー サムソン以外はNTTドコモに対して不信感強める結果になる
 2013年6月6日 JPモルガンのレポートがギャラクシー4Sの失速を予測
 2013年7-9月期 連結売上高前年同期比13%増の59兆800億ウオン。売上高営業利益率17.2%。営業利益26%増の10兆1600億ウオン(9200億円) スマホ向け需要好調 半導体 メモリー スマホ。不調(減益)はDP部門と家電部門。

2年ぶりの前年同期比減
 2013年10-12月期 連結営業利益8兆3000億ウオン(8100億円)前年同期比6%減 前年同期比減は2011年7-9月期以来ほぼ2年ぶり スマホの販売単価下落 テレビ用パネル単価下落 ウオン高など落ち込み要素 スマホ サーバー向け メモリー半導体の伸びはあったが落ち込みを補えなかった

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