Entrance for Studies in Finance

principal investments


 証券会社の業務として自己資金による投資業務(プリンシパルインベストメントprincipal investment)が重要になっている。従来、証券会社が自己資金でやる投融資業務としては株式や債券のトレーディングや、投資家への貸付(信用取引における貸付)があった。
 しかしプリンシパル投資と呼ばれるものは、こうした従来の業務とは異なっている。投資対象が伝統的な株式や債券から、非公開株式や不動産に広がっていること。投資において戦略が重視されること。そして自己資金はもちろんだが、投資家から投資資金(ファンド)を集め、その収益の最大化を目指すものもあるようだ。
 日本の大手証券各社が持ち株会社の100%出資子会社としてプリンシパル投資会社を相次いで設立したのは2000年から2001年にかけてである。
 調べてみるとゴールドマン・サックスは、プリンシパル投資を始めたのは自分だとホームページで書いている。それによると1982年頃から自己資金による投資銀行業務と証券仲介業務での投資を始めた。1986年には外部投資家を誘っての非公開株投資が始まり、1991年にはプリンシパル投資分野(principal investment area)を創設した。これは、株式や劣後債、不動産などを購入し、経営者などの協力を得ながら購入した資産価値の改善を追及するものだとと定義されている。
 プリンシパル投資について自己資金による面を強調するのはJPモルガンで裁量的にリスクを取ったり、長期的投資戦略によることで、投資収益の最大化を目指すものだと定義している。モルガンは私的投資proprietory positioningという言い換えも使っている。
 これに対してモルガンスタンレーは自社HPの中で、プリンシパル投資という言い方を注意深く避けている。こういった各社の記述からゴールドマン・サックスがこの分野のパイオニアとみてよいだろう。
 また自己資金投資業務(プリンシパル・ビジネス)という言い方が最近増えている。こちらが言葉として定着する可能性もある。
 日本の大手証券各社が設立したプリンシパル投資子会社のホームページをみると、概ね共通する業務は非公開株(private equity)への投資、MBOなどの非公開化(delisting)、企業買収など戦略的投資、ベンチャ―企業への投資などである。企業再建投資、不良債権など金銭債権投資、不動産投資などに言及しているものもある。
 このようなプリンシパル投資について、私自身は証券会社の業務との間の利益相反conflict of interestsの可能性を懸念している。
 たとえば非公開株をプリンシパル投資で保有している状況で、同系列の証券会社がその株の公開について審査を行う場合。その審査が、厳正に行われることが望まれるが、一方で公開により自己保有株式で多額の利益を出すことが、見える状況で審査は公正に行われか疑問がある。
 あるいは最近は資産の証券化が盛んであるが、証券化商品や証券化の対象の不動産をプリンシパル投資の対象とされている場合にも、証券化に関わる審査が厳格に行われるか、質が悪い不動産が証券化の対象にならないかなどの懸念がある。
 また企業買収の対象企業の株をプリンシパル投資の対象としている状況で、証券会社が買収側あるいは被買収側のアドバイザーを勤めることは、依頼先の企業との間での利益相反だけでなく、インサイダー取引を誘発しやすいという点からも好ましくないと考えられる。
社名主な投資先企業
野村プリンパルファイナンスすかいらーく ミサワホーム ミレニアムリテイリング ハウステンボス
大和証券SMBCプリンシパルインベストメンツ丸善 三洋電機 三井鉱山 三井住友建設
日興プリンシパルインベストメンツベルシステム24 西武HD タワーレコード 
ゴールドマンサックス証券三洋電機 USJ フジタ イーモバイル
モルガンスタンレー証券全日空ホテルズ オリコ 三井生命保険

2006年12月に表面化した日興コーディアル証券の不正会計問題の舞台になったのはここで取り上げた日興プリシパルインべスツメンツ(NPI)だった。NPIは特別目的会社NPIHを設立してベルシステム24株を04年8月に大量取得。その後04年9月NPIHにベルシステム24株を対象とする他社株転換債(EB債)を発行させてこのEB債を購入。発行日を勝手に操作してその間の株価上昇の評価益(実際にはNPIHが取得するのだが)をNPIが得たことにして親会社の日興の利益を水増しした。不正会計として問題にされたのはこの2004年の部分だが、2005年7月にNPIがベルにNPIH保有のベル株を買い戻させて、その結果NPIHに発生した利益を配当としてNPIに還流させて親会社の利益にその一部を計上した件も問題視された。
 この日興のケースでは、親会社の証券会社が企業買収の仕掛けを使い、特別目的会社やEB債などの道具も使って、株価上昇を利用して利益の数値を操作をする状況が明らかになった。これは収入の多様化というプリンシパル投資の意義から離れ親会社の利益操作の道具にされていたことを意味する。
 100%子会社が行う自己資金投資といえどもコンプライアンス(法令順守)がまず大事だという教訓を、この事件から証券関係者は汲み取るべきだろう。
 なお2007年8月10日に農林中金が日興プリンシパルを買収する方向で、シティグループと調整に入っていることが報道された。 

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author. 
originally appeared in April 25, 2008.
更新2023-08-23


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