Entrance for Studies in Finance

takeover bid, TOB


TOBとは(概論)
 TOB(takeover bid株式公開買い付け制度)とは(一定条件のもとに株式を購入する場合、公開買付制度(TOB)に依らねばならないという制度のことである。
 国により規制には違いがあり、日本の場合は①60日以内10名以上―多数の者から買付後5%以上 あるいは②60日以内10名以内-少数の者から買付後3分の1以上)、上場会社について株式を取得する場合、TOBによらなければならなければならないというもの(5%未満については適用除外)。具体的には買い取る株式の購入価格、買い取る株数を公表し、条件に同意した株主から取引所外で株式を公平に購入するというもの。狙いは、情報の公開と株主に平等な売却機会を与えることにある。
 TOB制度の概要 平成18年2006年の見直し内容
 公開買付制度・大量保有報告制度の現状(金融庁) 2023/08現在
TOBという表現はどうも日本的であるようだ。英文でもtakeover bidよりは、public tender offerという表現がなじむようだ。
 公開買い付け制度については、さまざまな論点がある。従来は経営者の同意を得ないで買収を進める敵対的企業買収の手段として注目されていたが、最近では経営者自身が買収者となるMBO(経営陣による買収)の手段としても注目されている。
 なお直近であるが、経済産業省で「公正な買収の在り方に関する研究会」が進められている。そこでは主として買収の進展や買収者の実態を被買収企業が早くかつ正確に把握できるように、大量報告制度などの充実が論点になっているように思われる。これまでどちらかというと市場参加者だけを見たロジックに加えて、買収される企業の立場から公正な買収は何かと言う問題を提起しているように考えられる。
 公正な買収の在り方に関する研究会第1回事務局作成資料2022/11/18
 公正な買収の在り方に関する研究会第3回事務局作成資料2022/12/26

買い付け価格決定をめぐる議論
 買い付け価格をどう決定するかは大きな問題だが、敵対的企業買収では、その水準が上がり勝ちである。これに対してMBOでは、買い付け価格の水準が低いこともある(業績予想を操作して買付価格を引き下げる手法が知られる)。またMBOに対して、買収ファンドが対抗して競合するケースもある(競合した場合、誰を買収者として選ぶかの判断権限は経営陣、取締役会にある。提示価格が高い方を選ぶことが株主からの受託者責任を果たしたことになるとする議論がある)。
 買い付け価格は、発表前3ヶ月の終値平均に対して20%~30%程度のプレミアム(上乗せ)があることが多いが、このプレミアムをどう理解するか、この幅がいかに正当化されるかについて、議論の余地がある。たとえば合併のケースでは、合併による統合効果(シナジー効果)が反映すると考えられる。あるいは、それまでの株価が不当に安かったので、発見された正しい企業価値がプレミアムに表されるのかもしれない。

株主の不満
 TOBのあと、株主数の基準が取引所の基準を下回るなど取引所の基準に抵触して上場廃止になる場合は、処分が困難になるのでTOBに応じることが多い。しかし上場が継続する場合は、あくまで買付価格をどう判断するかになる。
上場廃止が予想される場合に低い買付価格が提示されると、株主としては不満をもつことになる。

 買付価格を引き下げたことが疑われる事案は、経営陣が買収に賛同している場合に見られる。先ほどもみたように業績予想数値を低く操作することはよく知られる手法である。またTOBと同時に買収者に第三者割当を実施する(組み合わせる)ことも見られる。これは1株当たり利益は希薄化する(予想株価は下がる)ので、一般株主をTOBに誘導しやすい。

2005年~2006年の改正論議
 この制度については、これまでも改正が行われているが2005年には、ライブドアがニッポン放送株を取引所の時間外取引で大量取得したことについて形式的に市場内取引という理由でTOB手続を免れたと批判された(2005/02)。そこで時間外取引をTOBの対象に加える証券取引法改正が2005年に成立(05/06)。すぐに施行されている(施行05/07)。
 この改正で積み残しになった論点の多くについては翌2006年7月の改正で手当てされた。
 その一つは村上ファンドによる阪神電鉄株買収(2005年春)で表面化した問題でファンドなど機関投資家に対する開示規制が、ゆるやかであること(特別報告報告制度)。市場内外取引を合わせて3分の1超を取得する場合がやはり、規制の網からもれるということであった。

<平成18年2006年6月改正の内容>
 金融商品取引法平成18年2006年6月成立 そのうちTOBに関するルールは2006年12月施行(06/12/13政省令施行)。主な改正ポイントは以下のとおりである。
 市場内と市場外と合わせた取引で3分の1超の株を取得する場合も、TOBによらなければならない。公開買い付け期間を20営業日以上60営業日以内に延長(従来は20日以上60日以内)。
 すでに保有する分と合わせて3ヶ月以内に、市場内外で10%超(うち5%超が市場外)の株式を取得して、保有割合が3分の1を超える場合もTOBをしなければならないことになった。
 買い付け後の保有割合が3分の2を越える場合はすべての株式の買い付けを義務付ける(全部買い付けを前提にすると買い付け価格を引き下げる必要。また買い付け上限の3分の2以下とすることで買い付け義務回避できる)。
 買収防衛策の発動など状況が変わった場合にはTOBの条件変更や撤回ができる
 大量保有報告書のルールも変更された。原則:5%超取得後、5営業日以内に提出。1%増減後、5営業日以内に提出。
 これまで証券会社やファンドは3ヶ月に1回の基準日後15日以内の報告(開示)特例→2週間ごとに5営業日以内(証券会社やファンド向けのルールを特例報告制度と呼ぶ)

市場内取引を規制するかをめぐり議論残る
 ところで市場内取引での大量取得をなお放置しているのはなぜだろうか。
 ドンキホーテはTOB失敗(2006/02/09)後、オリジンを市場内で46%超まで買い集めて話題を呼んだ。なおこの事件はその後、イオンが白馬の騎士として表れドンキがこれに応募する展開になる(06/02下旬)。
 このような批判に重なる形で、市場内であれ一定以上の割合の取得はすべてTOBとすべきとの議論もある。
 市場内取引が規制から外されているのは、市場内取引であれば、情報が速やかに伝わるとともに、売り手の売却機会が確保されていると考えられているからであろう。しかしそこに大きな矛盾がある。買い手は、当然安く買い集めたいので、こっそりと知られないように買い集める。市場取引であれば、情報がすぐに伝播し、価格がその情報を含んで透明に形成されるとする議論は、市場の駆け引きの実態からはかけ離れている。
 だが一部の学者は、依然として市場内取引であれば公正な株価が形成されるから規制の必要はないとしている。これには大量保有報告制度の強化もあり、それを組み合わせて考えれば、あえて規制すべきではないという論理であるが、異論も多く今回は規制されなかったものの議論は続いている。

参照
MBO management buyoutについて 
企業価値評価valuationについて

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
originally appeared in April 13, 2008
corrected and reposted in October 6, 2010
2023-09-04更新


名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「Securities Markets」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
2024年
2023年
人気記事