Entrance for Studies in Finance

日本で初めてのペイオフ事案(2010年9月10日) 

日本で初めてペイオフ発動へ(2010年9月10日)
 日本振興銀行は9月10日朝、債務超過に陥ったと金融庁に申請。金融庁は同行の経営破たんを認定。3日間の業務停止命令を出した。これを受けて自見金融相はペイオフ発動を表明した。ペイオフは2005年4月に普通預金を含めて全面解禁後、初めての発動。
 預金保険制度は1971年導入。1986年に資金援助方式導入。1996年4月全額保護の時限措置導入でペイオフ発動は凍結。しかし2002年4月に定期預金について、また2005年4月には普通預金についてペイオフは解禁された(なお利息のつかない決済性預金は全額保護になった)。
 2003年8月に銀行免許を予備申請、2004年4月に中小企業専門銀行として発足した振興銀行の直近の預金者は12万6779人。預金総額約5820億円のうち一部は依頼戻されない預金は110億円程度とされる(2010年9月10日現在)。また預金種類は定期預金だけで、当座預金や普通預金など決済性預金は扱っていない特殊なビジネスモデルだった。
 9月10日に全業務を停止したあと名寄せ作業を進めた。その結果、一部払い戻しがカットされる預金者数は3423人(預金者の2.7%)と確定した。13日に一部店舗で営業再開(店頭あるいは郵送で受け付け最短で15日から払い戻し可能)。9月16日の営業終了時までの預金解約申し込み件数は7883件 解約額は約291億円、破たん時の預金総額約5820億円の5%超に達した。約8ケ月後、承継銀行に営業譲渡されるまでは現行金利が維持されるため、期間の長いものが解約の中心だったとのこと(1000万円までとその利息は、いつでも払い戻しが受けられるとのこと)。

自殺者が出た(2010年8月2日判明)
 社外取締役で取締役会議議長を務める、弁護士の赤坂俊哉氏は7月31日に自宅で自殺したことが、8月2日に分かった。何を知っていたのか、なぜ自殺せざるとえなかったのか。

木村前会長逮捕(2010年7月14日)
 日本振興銀行(全国125店舗 総資産6469億円 2010年3月末現在)の木村剛前会長(48)が2010年7月14日、金融庁検査を妨害した疑いで逮捕された。木村氏は1962年生まれ。1985年に東京大学経済学部を卒業して日本銀行に入行。1998年に退職してKPMGコンサルティングを設立。2004年4月の振興銀行創業時からの同行の主要メムバー。2010年5月27日に金融庁の一部業務停止命令が出されるが、その直前の2010年5月10日に会長職を辞職した。
 同時に逮捕されたのは西野社長(54)と二人の執行役(43)(38)。また一人の元執行役(38)。直接の容疑は2009年6月から始まった金融庁の立ち入り検査に際して業務に関するメールを大量に削除、また事実に反する虚偽の説明を行い、検査を妨害したというもの。しかし検査妨害のほか、融資先企業との間で過半数の役員の受け入れ 企業の株式の担保としての提供などを強要した(優越的地位乱用の疑い)、出資法違反の疑い、親密企業との不透明な取引など多数の法令違反の可能性がすでに指摘されており、これらについても捜査が行われた。

金融庁による放任についての疑い
 この事件が不可解なのは、免許を得た経緯を含め振興銀行設立前後からたくさん問題の指摘がありながら、木村剛氏の行動が長期間放任され摘発に至らなかったことである。法の盲点をくぐり、倫理的に問題があっても違法とはいえない取引を繰り返したということかもしれない。金融庁がこの木村氏の行動を長期間放任し自由にさせた姿勢には、強い疑いを感じざるを得ない。
 ようやく2009年6月に金融庁検査が始まる(2010年4月まで。その後2010年5月27日に検査忌避など重大な法令違反が見つかったとして新規大口融資の禁止など一部業務停止命令)。しかしもっと早く手を打てたはずなのにこのときまで放置したのはなぜか。金融庁の怠慢は極めて不可解である。
 そこで木村氏は金融庁顧問であった人物。だから放置していたという疑いを指摘する声が残るのはやむを得ないことだろう。
 以下のブログが示すように振興銀行の存在そのものが政治的である。だからそこに検査に入るということ自体、政治と無関係ではなかった。たくさんの報道があり、注目されていたことは金融庁の慎重さにつながったのかもしれない。
 金融庁としても検査に入る前に相当な事前の検討と覚悟が必要だったはずだ。なお2009年6月は佐藤隆文長官時代である。
竹中金融庁が生んだ木村日本振興銀行 永田町異聞 2010年7月15日
植草一秀 木村逮捕について 2010年7月15日
木村剛の転落(2010年6月16日)(こちらの記事は最初から法律違反をしようとしていたわけではないとして木村氏に同情的である。ミドルリスクの世界では銀行同様に紳士的にはやれないとするものだろうがそこに木村氏の限界を見ている。ところが一部の報道では木村自身がかなり強引な発言を融資先企業に対して行っていたとされている。それはかつて日銀の力をかさに強引な発言を繰り返したとされることとどこか重なる。)

新銀行東京との違い
この間、新たに設立された銀行のなかで、金融庁からみて問題を抱えた銀行が2つある。一つがこの振興銀行(2004年4月設立)、もう一つが新銀行東京(2005年4月)である。ところが新銀行東京は表面的には体質の改善が進んでいる。そのため振興銀行に注目が集まりやすくなっている。

再び問題になる福井俊彦日銀総裁の甘さ
 福井俊彦日銀総裁は在任中、村上ファンドへの出資を問題視されたが、もう一つ問題にされたのは木村剛氏への異様な肩入れである。実は総裁の立場を利用して振興銀行に日銀口座をもたせようと画策したとされている(『日本経済新聞』2010年7月23日夕刊5面)。
 村上ファンドの村上世彰氏(1959- 1983東大法卒業後通産省 1999退官 M&Aコンサルティング設立)にせよ、木村剛氏にせよ、日銀総裁に近付けるほど、日本の社会のエリート集団のトップに近いところにいたということだが。
 この件で福井さんについて、あまりにも守りが甘く、人を見る目がないと批判するのは容易だ。ただたまたまこの3人は前後して最初の勤務先を離れている。1935年生まれの福井氏が日銀を一時離れたのは木村氏と同じ1998年。村上氏が退官したのはその1年後。福井氏が日銀に総裁として戻るのは2003年のこと。世代は違うものの、戻るあてなく日銀を一時離れた福井さんが、同時期に同様に民間に飛び出し世間の評価にさらされた同窓の若き後輩二人に関心をもち心を通わせたことは、人間として分からないではない。

新銀行東京は表面上改善進む
 新銀行東京はクレジットスコアリングモデルが失敗したとされるケースになったが、急速に改善されようとしている。
 2009年5月29日の発表によるとまた2009年3月期は、有価証券や劣後債の前倒し償還で利益30億円以上を確保して赤字額を前期に比べ大幅に圧縮した(167億円から105億円に)。
 2009年6月8日には7月1日付けで委員会設置会社から監査役設置会社に移行するとした。銀行業務の経験のない社外取締役が監督するという当初の理念的モデルが否定され、銀行出身者で常勤取締役を固めた体制に変更された。この体制移行は教訓的である。 
 また2009年6月29日に開催した定時株主総会で、トップに民間銀行(旧UFJ銀行)出身の寺井宏隆氏(三和銀行ーUFJ銀行執行役員ー新生銀行専務執行役)を迎える決定を正式に行った。同行のトップは当初トヨタ自動車から迎えたほか、2007年11月からは東京都港湾局長の津島隆一氏に就任を求めるなど、銀行経営の素人を繰り返し抜擢。それが混乱の一因になったとみられる。
 2009年11月20日に発表された2009年9月中間決算では、貸出金の減少で貸倒引当金からの戻り益を20億円計上、最終損益で10億円の初黒字となった。本業が不振であまり褒められた内容ではないが、ともかく前に進んでいるといえよう。
 新銀行東京問題

江上剛社長の登場
 なお逮捕された西野社長の後任について、作家の江上剛氏(56)だと新興銀行は発表した。江上氏(56)は1954年生まれで本名は小畠晴喜。早稲田大学政経学部卒業後、1977年から2003年まで第一勧業銀行(現みずほ銀行)に勤めておられたとのことであるから経験には問題がない。事態の深刻さと責任は十分感じておられるはずだ。
新銀行東京と比較しても、振興銀行は、経営トップに民間銀行の経験のない人物が座り、独断専行で業務を進めた類似のケースと思われる。日銀出身の木村氏が、民間銀行の立ち上げだけでなく立ち上げた民間銀行の日常経営を見よう見まねで行うことは、そもそも無理があった。ここでも経営と執行の分離システムが存在し、また機能しなかった。経営を監視する取締役会が機能しなかった。そのトップが江上氏である。江上氏の前任の西野達也氏もみずほ銀行(旧DKB)だ。江上氏は、同じ銀行の後輩西野氏や、信頼する木村氏をけん制する立場にあった。

0riginally appeared in July 16, 2010.
Corrected and reposted in September 20, 2010.


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