Entrance for Studies in Finance

証券化の功罪:サブプライム問題 文献

証券化の功罪(本文) (文章量が多いので本文とこの文献部分を分割しています。本文をまだ読んでいない方はここをクリックしてください)

おわりに-日本への影響
 日本では、サブプライムローン問題にとまどいが多かった。その一つの理由は、サブプライムのほかRMBS(residential mortgage backed secuities:住宅ローン担保証券)やCDO(債務担保証書)といった耳慣れない用語にあった。しかし日本国内での認知度は低いが、すでにRMBSは、国内での発行実績がある。
 RMBS(あるいはMBS)は住宅ローン債権(mortgage)を裏付けに発行する証券のことであるが、住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)や民間金融機関では、かねて取得した住宅ローン債権を信託銀行に信託した上でその信託受益証券を機関投資家に売却している。発行単位は1億円程度。利回りは2%程度(2007年春段階)。2006年の発行額は約5兆7000億円(うち旧住宅金融公庫が2兆4600億円)で前年比27%の増加。かつて大手金融機関は、住宅ローンを優良債権として抱え込むのではないかとの指摘もあったが、証券化により金融機関は将来の金利上昇リスクを抑制できるとあって、2004年頃より発行額が毎年増えるようになった。
 また2007年6月11日に野村證券が、旧住宅金融公庫が2006年4月に発行した住宅ローン担保証券(RMBS)(満期35年 発行額約1900億円)のうち152億円を流通市場で購入し、その後、住友信託銀行に信託 信託受益証券を販売することになった。償還期限約5年の短期部分(販売対象は大手銀行、地方金融機関など)と18年の長期部分(販売対象は生命保険会社、年金資金など)に分ける。これはRMBSを再証券化した住宅ローン担保証書CMOといえるものではないか。
 これらの日本のRMBSやCMOはアメリカのCDOとは違い、サブプライムローンとは全く無関係な商品である。だが、アメリカのサブプライム問題の影響を受けることは避けられそうにない。サブプライム問題により証券化のプロセス全体にわたって問題点の掘り出しが今後進むと見られるからである。とくに格付け機関の出す格付けを、投資判断や金融機関への規制に使ってきたことが批判されていることは影響が大きい。
 ドイツ証券によると2007年度上半期(4-9月期)の日本の証券化商品の発行額は、住宅ローン担保証券が46%減って1兆6000億円になったことを受けて、全体で3兆8800億円と前年同期比20%減となった。商業用不動産を担保とする商業用不動産ローン担保証券CMBSは9100億円と8%増えた。海外投資家が買い控えたものの、国内投資家の需要は堅調だった(「証券化商品の発行額20%減」『日本経済新聞』2007年10月4日)。
 ここまで進展した証券化がこれで弱まるとは思えない。しかし証券化商品の格付けや価値評価に弱点があることが、サブプライム問題では露呈した。また証券化が銀行から貸付の審査や監督の動機付けを奪ってしまうという深刻な問題も露呈した。これらの問題点への回答が迫られている。

なお関連して以下の報告をまとめています。
サブプライム問題の政策的論点
サブプライム金融危機(2007年8月)について
サブプライム危機後のアメリカ経済
ナイトの不確実性とケインズの合成の誤謬
ヘッジファンドについて

References (selected material in historical order)
福光寛「アメリカの住宅金融に対する新たな視点 証券化の進展の中でのサブプライム層に対する略奪的貸付」『成城大学経済研究』170, 2005.
北原徹「証券化における資産担保とマネジメント裁量性」『立教経済学研究』58(3), 2005.
David J.Reiss, "Subprime standardization: how rating agencies allow predatory lending to flourish in the secondary mortgage market" Florida State University Law Review 33, 2006.
Frank Partnoy and David A.Skeel, "The promise and perils of credit derivatives" University of Pennsylvania Law School Paper 125, 2006.
Peter Jefferey, "The pros and cons of securitization" Finance Week , Aug.15, 2006.
Joseph R.Mason and Joshua Rosner, How Resilient are Mortgage Backed Securities to Collateralized Debt Obligation Market Disruptions?, presented at Hudson Institute, Feb.15, 2007.
Bethany Mclean, "The dangers of investing in subprime Debt" CNN Money.Com, Mar.19, 2007.
Bank of England, Financial Stability Report, Issue No.21, April 2007.
IMF, Global Financial Stability Report, April 2007.
John Park, "The Impact of Subprime Residential Mortgage-Backed Securities on Moody's-Rated Structured Finance CDOs: Preliminary Review", Moody's Special Comment, April 2007.
Jody Shenn, "Overlapping subprime exposure mask risks of CDOs, Moody's says",Bloomberg News, April 4, 2007.
Mark Pittman, "S&P may cut $12 billion of subprime mortgage bonds", Bloomberg News July 10, 2007.
David Evans, "The poison in your pension" Bloomberg Markets, July 2007(updated in July 26, 2007)
Seth Lubove and Daniel Taub, "The subprime sinkhole" Bloomberg Markets, July 2007(updated in July 26, 2007)
Richard Tomlinson and David Evans,"The rating charade" Bloomberg Markets, July 2007(updated in July 26, 2007)
 "Subprime: The ugly American hits Europe" Business Week, Aug.9, 2007.(http://www.businessweek.com)
Sebastian Boyd, "Europe asset-backed commercial paper ratings are safe", Bloomberg News, Aug.16, 2007.
John Kiff and Paul Mills, "Lessons from subprime" IMF Survey, Aug.23, 2007.
Sebastian Boyd and Neil Unmack, "SachsenLB fund may sell assets amid debt market rout" Bloomberg News, Aug.23, 2007.
David Evans with reporting Sree Vidya Bhaktavatsalam, "Unsafe havens" Bloomberg Markets, October 2007 (updated in Aug.24, 2007)
Neil Unmack, "Omicron's Exenberger says markets facing ceredibility crisis", Bloomberg News, Sept.6, 2007.
"Securitization News: April 2007 onwards to Sept.2007"in Vinod Kothari's Securitization Website.(http://www.vinodkothari.com)
"When it goes Wrong" The Economist, Sept.22, 2007, 70-72. (http://www.economist.com)
 竹森俊平「不確実性への備え急げ」『日本経済新聞』2007年9月13日
"Stress-Testing the Modern Financial System"Moody's International Perspectives, September 2007(prepared remarks for Sept19, 2007 teleconference).
Natalie Harrison, "Financial crisis triggers for stress test" Reuters, Sept19, 2007.
 無署名「サブプライム問題を機に高まる格付け機関批判の常識」『金融財政事情』2007年9月24日
Testimony of Joseph R.Mason, Hearing on the Role of Credit Agencies in the Structured Finance Market: Committee on Financial Services, US House of Representatives, Sept.27, 2007.
「インタビュー アラン・グリーンスパン バブルは防げない」『日本経済新聞』2007年9月29日
Jane Wardell, "Securitization caused the subprime crisis: Greenspan" Associated Press, Oct.2, 2007.
 重藤哲郎「欧州銀の"長かった春"もようやく終わる?」『エコノミスト』Oct.16, 2007.

サブプライム問題に関するvideo clips集(量が多くなったので別の場所に移しました。clips集に入るにはクリックして下さい)

表1 金融機関の貸付審査の弱体化
要因内容
証券化貸付債権の流動化が可能になり、バランスシートから外しやすくなった
信用デフォルトスワップ信用リスクを抱え込む必要から見かけ上は解放された
過剰流動性資金コストの低下からリスクをとりやすくなった


表2 CDOの変質(サブプライムRMBSの担保資産プールに占める比率)
CDOのタイプ**2003年2004年2005年
ハイグレード34%43%46%
メザニン43%53%48%
平均41%49%47%
資料:Park(2007)

表3 CDS-CDOの投資(模式図)
CDS-CDOの投資(買い方・売り方)CDSのプール=CDOCDSの出し手(多数)


表4 Stress Test(5年間住宅価格がこの年率で変化したときの損失範囲)
Tranche-8%-4%0%+4%+8%% of deal
AAA0000075.0%
AA0000010.1
A4800004.5
BBB1009632002.9
BB1001001002500.7
資料:IMF(2007)1999-2005年の間のサブプライム住宅ローン債権を担保とする資産担保証券についてのLehman Brothersのシミュレーション例。このほか非格付け分が6.7%ある。Bear SternsやJPMorganのストレステストも類似の結果である。

表5 格付けをめぐるモラルハザード(無責任の連鎖)
立場内容
格付け機関格付けの内容・公益性よりは量をこなすことで利益
格付けを受ける側質の低いもの(デフォルト率が格付け機関の想定より高いもの)が高い格付けを受けることで利益
投資家サイド投資格付けがついてさえいれば自らは免責



表題:証券化の功罪:サブプライム問題を振り返る
執筆:福光寛(成城大学)
成城大学経済研究所研究報告として発表予定(下書き Oct.14, 2007)
目次
はじめに:証券化と信用デリバティブの功罪
1.サブプライムローン自体への批判
2.証券化:時代の旗手か諸悪の根元か
3. 問題はエクイティ部分のリスクだけではなかった
4.ABCPへの波及
おわりに:日本への影響
参考文献
付表


 
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