Entrance for Studies in Finance

パナソニックによる三洋電機買収 完全子会社化 新体制(2012年1月)

Panasonic completd acquisition of Sanyo
松下電器産業(1918年に松下幸之助氏が創業 メーンバンクは三井住友銀行)は2008年10月1日社名をパナソニックに変更した(ナショナルブランドは1925年以来のもの パナソニックはAV機器のブランドとして55年から使用してきたもの)。社名とブランドを1本化することでブランドを浸透させ海外事業展開を加速する狙いがある(松下の弱さとしてブランド力の低さは有名 つまりパナソニックに変えてもパナソニックもブランド力が低い これに対して三洋は、携帯用電池をフィンランドのノキアに納め、自動車用電池でドイツ、フォルクスワーゲンと提携、アメリカではウオルマートでテレビを販売するなど、グローバル力ではパナソニックを上回っている。とくに新興国市場には傾注していた点はパナソニックにとって魅力的だった)。その1け月後 パナソニックは三洋電機買収の方針を固めた(08年11月7日協議開始を発表)。しかしその後、買収交渉は買収価格をめぐり難航したが、国際的な経済金融情勢の悪化もあり、08年12月17日にパナソニックと金融3社の交渉は妥結した。
 それからほぼ1年経った2009年11月5日。パナソニックによる三洋電機TOBが開始された。これで2009年内に子会社化が完了することになった。連結売上高は約9兆5300億円(09年3月期)で日立製作所の約10兆円に迫り、国内最大級の電機メーカーとなる。
国内外の競争法(独占禁止法)審査クリアに時間がかかった(弁護士費用や資料翻訳費用は100億円を超えた 両社合併後 リチウム電池事業で4割超 ニッケル水素電池で米国・中国では約8割)。審査を受けた国は11ケ国・地域に及んだ。

 パナソニック(松下)の強みは内製率の高さ(垂直統合モデル、自前主義)と総合力(あらゆる製品を提供できるソリューション型ビジネス)。08年3月で営業利益率5.7% ROE7.4%国内ではトップクラスだが海外の優良企業は2桁台で見劣り。2007年8月にはAV製品で重複するビクターを分離。ビクターはその後2008年10月にケンウッドと経営統合。
 2007年12月に松下は日立 キャノンと薄側パネルで提携。兵庫県姫路に液晶テレビ用パネル工場を新設(3000億円)。兵庫県尼崎市ではプラズマパネルの新工場を建設中(2800億円)。プラズマではパイオニア(08年度中撤退決定)、日立が松下からの調達を決め(40-50型で松下より外部調達)、国内メーカーは松下に集約され、松下は供給責任が背負う(プラズマ 2007世界シェアでは松下が34.5%で首位)。松下は大型でプラズマ、中小型で液晶のすみわけをはかり、海外では日立のチェコやメキシコの工場が松下から薄型テレビの組み立てを受託。
 ソニーや東芝は液晶パネルの調達先にシャープを加えた。この結果、国内の生産はプラズマはシャープ。液晶はシャープと松下に集約することに。
 次は有機ELとされる。光源が不要となるため薄くできる。ミリ単位。現在でも2-3ミリ。液晶、プラズマは1cm-2cm。省エネになる。高画質が可能。現在はコストや寿命に課題。07年12月ソニーが11型テレビを初めて販売。08年7月末には松下が大画面の有機EL商品化を計画していることがあきらかに。09年春に姫路工場に試作ライン。11年にも発売開始へ。
 このほか有機ELの利点はエネルギー効率がよいこと(LED=発光ダイオードも省電力それに長寿命が注目され普及が進んでいる 普及により低価格化が進むとも これは有機ELにも成り立つ法則となりそう なおLEDについては高速通信に応用する可能性が検討されており2009年中にも実現化するという。これが実現すると照明の光によって情報配信や高速通信が可能になる)。また有機物を使うので環境にやさしいことなどなど。テレビ、携帯画面のほか、照明に使う研究が進んでいる。
 有機EL中小型では2009年秋に東芝ー松下連合(6-4出資)が量産体制へ(携帯電話や車搭載モニターは画像が鮮明な有機ELへシフト)。すでに量産体制に入っているサムソンーSDIを追撃。このような薄型テレビへの投資は過大との懸念。それでも首位を目指すのはそれが電機メーカーの顔だからといわれていた。
 2008年暮れ当時、三洋電機を合わせたパナソニックの連結売上高は11兆2200億円(09年3月見通し)で、買収は日立の10兆9000億円を抜き国内最大の大手電機メーカー誕生を意味するとされた(なお09年3月期の実際は連結売上高は約9兆5300億円(09年3月期)、日立製作所も約10兆円にとどまった)。いずれにせよほぼ10兆円企業にパナソニックはなる。
 環境・エネルギー分野で出遅れているパナソニックスにとってリチウム電池1位の三洋は魅力的。三洋は、携帯用電池やバッテリーではグローバルなブランド力もあり、廉価型TVでは北米で一定のシェアをもつことが評価された。三洋は充電池や太陽電池で強みがある(リチウムで世界首位約28% 太陽電池で7位)。この分野はまさにパナソニックに不足しているところ(パナソニックのリチウムは5位10%弱)。統合によりリチウム電池でのシェアは40%近くに達し、生き 残りと高収益企業の必要条件である圧倒的シェアという条件に近付くことができる。
もともとトヨタ自動車とパナソニックは車載用電池で共同出資会社をもつなどトヨタとの関係が深い。トヨタは、ハイブリッド車用電池を三洋(現在はホンダとフォードにニッケル水素電池を納入、ドイツフォルクスワーゲンにリチウム電池を2009年度内に納入開始)から調達することを決めた(2009年8月19日日経報道 納入開始は2011年)。背景にはハイブリッド車の販売が爆発的に伸びていうこと、量産効果・安定調達に優れた1社調達、調達リスク削減・競争によるコスト削減効果・急成長時の安定調達にすぐれた複数購買の間の選択がある(三洋がパナソニックに買収される前提で考えると依然1社調達であるが)。なお電池事業については、日産はNECグループから調達、ホンダはGSユアサとそれぞれ組んでいる。
 その後、三洋はフランスのプジョー(PSA)ともハイブリッド車用電池(ニッケル水素電池)の供給で合意した(2011年供給開始)(2009年11月1日日経報道)。

買収価格をめぐる投資銀行とパナソニックの交渉
 この間、電機業界は世界経済減速の影響をまともに受けてきた(過当競争を背景にする供給過剰による価格低下)。その中で財務基盤の高い企業だけが、不況期にもM&Aを含め、投資を継続できる。三洋買収で国内電機メーカーの中でパナソニックのみが名乗りを上げたのは、パナソニックの財務体質が、国内のほかのメーカーに比べて堅固であることが背景になっている。MBAの教科書流の、余剰キャッシュを絞り、借入レバレッジ(債務)を効かした経営はここでは完全に否定された形だ。
 2008年暮れ当時、三洋電機(井植歳男氏が1947年創業)は三井住友銀行 大和SMBC ゴールドマンサックス3社主導下でリストラ推進中だった。3社の優先株保有割合は16.6%,41.7%,41.7%の順。
 3社のもつ優先株は普通株10株に転換することができる。転換すると優先株主は普通株の70%に達する。TOBでは金融商品取引法により買い付け側の保有比率が3分の2を超える場合、すべての株式を買い付け対象とする全部買付義務がある。この買収で争点になるのは、最初のTOB実施時に買付価格で優先株と普通株に差をつけるか。転換による希薄化をどうみるか。成長性をどうみるか。優先株主の金融機関は市場での現在の評価で買い付け価格の決定を望んでいる(GS側は過去3か月間の平均に3割程度の上乗せした200円台後半を要求)が、パナソニック側(アドバイザーはメリルリンチ証券)はそれでは高すぎるとした。優先株を普通株に転換した場合の希薄化が無視できないとした。

2008年11月24日(月)にパナソニックが提示した買収価格は1株120円(11月25日終値は156円)。算定の根拠は不明だが、多くのアナリストが予想した、優先株を普通株に転換したあとの理論価格である100円前後にプレミア2割を乗せた価格でまずは妥当なもの。しかし200円台後半主張するGSは25日に交渉打ち切りを通告した。パナソニックにとって120円なら全株買収コストは7389億円(金融3社に入るのは約5000億円)。これは同社の手元流動性の全額に近い。金融3社が望む200円台後半270円なら同じくは1兆7389億円(金融3社に入るのは約1兆2000億円)。買収価格には大きな差が生ずる。パナソニック側は、優先株を普通株に転換した場合の希薄化を問題にした。

2008年12月3日(水)に大和と三井住友銀に、また4日にGSに、パナソニックが席を分けて再提示した価格は130円とされる(3日の終値169円 4日の終値148円)。つまり理論価格にプレミア3割の線である。パナソニック側のロジックからはこれが限界だろう。GS側には選択肢として①単純に売却に応じない、②大和と三井住友銀の保有株を買い取って、パナソニックと交渉する、③前言を覆して売却に応じるなどがある。パナソニック側には、想定されるTOB後の出資比率についていくつかの選択肢があった。GS側があくまで売却に応じないのなら、過半数支配にとどめるのも選択肢であった。というのも買収コストはそれだけ小さくて済みGS側は資金を塩漬けにすることになる。そうすれば困るのはGSなど投資銀行の側のはずだった。

粘ったパナソニック リスク投資への十分な果実を得た金融3社
 金融3社側とくに投資のスタンスであるGSと大和SMBCプリンシパルインベストメンツは、提示価格に不満を示したがなかんずくGSは、強い不満を示した。ここで2008年11月27日にパナソニックは2009年3月期の業績見通し大幅に引き下げ、国内2工場を閉鎖し生産を集約する方針を明らかにした。電機業界の経営環境は急速に悪化していた。三洋電機買収の渦中での業績見通し下方修正発表については、パナソニック側が財布に余裕がないことを金融3社に対して明らかにしたものとの受け止められている(cf.『エコノミスト』2008/12/16, 15)。2008年12月17日 パナソニックは買取価格を1円上げて131円を提示。GS側もこれも譲歩と了解して、3社の交渉は決着した。3社分についての買収額は5600億円。他方、GS側には金融2社の株を買い取れる権利があり、株数を増やしてパナソニックと対峙することはできたが、その資金力はなかったようだ。
 優先株を普通株に転換して売却した場合、大和SMBC、GSは1089億円、三井住友は400億円強の売却益。普通株に換算した場合の取得価格は1株70円とのこと。2009年9月に三井住友と大和は合弁を解消を発表したものの、大和SMBCは共同出資のままであるため、大和の売却益の一部、4割が三井住友に帰属することになった。こうした調整後の三井住友の売却益は600億円、大和の売却益は560億円前後と2009年11月に報道された。金融3社は2006年のリスク投資の果実を3年後に得た格好だ
 その後のパナソニックに関する経緯は以下のとおり。合併に伴い、三洋電機のリストラにエネルギーをかけすぎ、急ぐべきだったパナソニック本体の切り込み、赤字のテレビ事業の見直しなど、が後手に回った印象が強い。

2009年
2009年5月 三洋電機HV用リチウム電池新工場を兵庫県加西事業所内に建設。ニッケル水素電池も今年度中に2.5倍に増産する。
2009年8月 三洋電機滋賀工場2太陽電池パネル組み立て新棟建設 2011年7月めどに生産能力を現在の2倍の年20万kwに。
2009年8月 トヨタ 三洋電機からリチウム電池(ニッケル電池より2倍以上 高出力大容量)調達へ(現在はパナソニックとの共同出資会社からニッケル電池)
2009年11月5日 TOB開始 11ケ国地域の競争法審査のため時間かかる
2009年11月 三洋電機 欧州での太陽電池パネル生産能力の引き上げ
2009年11月24日 米FTCが独占禁止法の審査終了
2009年11月 三洋電機 シリコン結晶を使った超薄型の太陽電池開発
2009年12月9日 パナソニックによるTOB終了 50%超の取得は確実 買い付けは1株131円4000億円超
2009年12月21日 三洋電機 パナソニック子会社になる(50.2%取得)その後 半導体事業・物流事業等低採算 非中核部門を相次ぎ売却
2009年12月24日 三洋電機佐野社長 記者会見で重複事業の整理に否定的姿勢示す
2009年12月25日 業界最大容量のリチウム電池生産を2011年度に開始する

2010年
2010年1月8日 リチウム電池などのエナジーシステム事業売上高を18年度に3兆円以上に高める  
2010年2月25日 三洋電機は物流子会社の三洋電機ロジステスティックスの売却方針を明らかにした。パナソニックの物流子会社との重複を解消するめの措置。
2010年4月26日 三洋電機が家庭用エアコンの開発生産から撤退方針をかためたことが明らかになる。白物家電など不採算事業の売却・撤退 リチウム電池 太陽電池等拡大
2010年5月 三洋電機 物流子会社の三洋電機ロジステイクスを投資ファンドのロングリーチに売却すると発表。
2010年5月31日 パナソニック 三洋電機の国内系列販売店1400店にパナソニックブランドの家電を供給
2010年6月 三洋電機 世界最高の発電性能を持つ次世代太陽電池(HIT太陽電池)を2013年度に商品化
2010年7月15日 三洋電機 半導体事業子会社の三洋半導体を米半導体メーカーのオン・セミコンダクターに約330億円で売却。三洋は三洋半導体の全株式と同社に対する590億円分の貸付債権を譲渡。代わりに現金約116億円と214億円分のオン社の株式を受け取る。
2010年7月29日 パナソニック 三洋電機とパナソニック電工の完全子会社化を発表(年内にもTOBや株式交換)最大8184億円のTOBを実施する。商品ブランドをパナソニックに統一する。2012年1月に ソリューション 消費者向け製品 デバイスの主要3部門に事業・販売を統合
2010年9月 インドネシアでリチウム電池増産へ(増産に向けて設備投資)
2010年10月6日 パナソニック TOB終了を発表 2社の株式とも3分の2超取得
2010年10月 グループの16事業部門を2012年1月に9部門に集約する組織再編を発表(環境革新企業への脱皮目指す 幅広い環境配慮型商材に特徴)環境エネルギーなどの新分野で稼ぐ計画
2010年11月 米テスラに3000万ドル(24億円)1.5%出資へ(すでにトヨタが5000万ドル出資)
2010年11月 タイで2011年3月から長寿命アルカリ電池生産始める

2011年
2011年2月 カーエレクトロニクス関連売上高を2015年度に2009年度比5割増しの1兆円に伸ばす計画発表 新興国向けに拡販
      テレビ販売台数伸びるが損益は価格低下で赤字 2次電池 半導体などデバイスは利益大幅減 白物家電好調
2011年4月 医療機器向け微小電子機械システムに参入へ
2011年4月 リチウム電池で中国への生産シフト進める 国内から設備を移す 2015年に中国での生産比率を5割に 製造コストは3割下げる
2011年4月28日 2010年3月末比で4万規模の人員削減発表(35万人以下) リチウム電池今後2年間で550億円投じて中国での生産一貫体制整備 薄型テレビ 新規投資凍結 生産の海外移管進め販売台数は前年度比2割増 2012年度黒字化 パナソニックとの合併検討 2011年4月に完全子会社化した2社の事業を2012年1月に統合 環境新エネルギー分野で2015年度に3000億円以上の新規事業創出
2011年6月 三洋電機 住宅事業から撤退 三洋ホームズへの出資分19.9%をすべて投資ファンドのアントキャピタルパートナーズに約5億円で売却へ
2011年6月15日 三洋電機 国内太陽電池生産能力を高め2009年度の2.4倍に 2010年度末までに年間29万kwに高める
2011年7月 ハイアールの三洋の白物家電売却で基本合意
2011年8月 デジカメ 新興国開拓 インド ブラジルなど
2011年9月 産業用太陽電池事業強化へ
2011年9月 調達物流の拠点をシンガポールに移しアジア・中国での調達増やす 11年3月に53%の調達比率を13年3月期には60%へ
2011年10月 プラズマテレビ用パネルの生産拠点尼崎第一工場 中国への生産移管 太陽電池の増産のいずれも撤回
2011年10月 11年度内に半導体事業縮小へ 外部への生産委託増やし 従業員は削減へ
2011年10月 不採算のテレビ、半導体事業縮小へ リチウム電池は2012年度中国に新工場完成 太陽電池はマレーシアに一貫生産体制
2011年10月18日 三洋電機 ハイアール(海爾集団)に白物家電事業売却で最終合意 売却額は100億円前後 グループ関連社員約3100人がハイアールに転籍。
2011年11月 パナソニック 約500億円抱えて2012年度にマレーシアの太陽電池の工場建設へ(海外で一貫生産へ)
2011年12月 電機各社 液晶パネルやシステムLSIなどで自社生産の維持困難に 外部調達に切り替え(トップシェアとれないまま巨額投資続く)

2012年
2012年1月 3社の事業を統合 新体制発足 コンシューマー ソリューション デバイス
2012年1月 中国ハイアール 三洋電機から白物事業買収
2012年1月12日 パナソニックの株627円 昨年来安値(12年3月4200億円の連結最終赤字 タイの洪水被害 三洋電機ののれん代減損の追加損失で赤字幅拡大観測)
2012年2月29日 パナソニック次期社長 海外売り上げ高50%を60%へ エコ&スマート
2012年5月 2012年3月最終赤字7700億円(日立製作所の09年3月期7873憶円並ぶ前 前期は740億円の黒字)テレビ事業のリストラ 三洋電機の採算悪化 円高 家電では音響より白物家電が好調 買収に伴うのれん代約2500億円の減損処理
2012年5月 本社の従業員7000人を半減する方向で調整 1933年事業部制導入 事業部間の壁 障害に 本社で意思決定 その結果 本社が聖域化 意思決定の遅れへ 2012年度内に携帯部門1000人削減へ 
2012年5月 ソニーとパナソニックが有機ELテレビ量産技術開発で提携交渉

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
originally appeared in Dec.20, 2008.
corrected and reposted in July 9, 2012

三洋電機の再建 東芝とマツダ 企業研究:東芝・日立・パイオニア・シャープ 
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