Entrance for Studies in Finance

株券電子化、RTGS, STP, DVPについて

 2004年6月5日制定公布の決済合理化法(正式名称は「株式等の取引に係る決済の合理化を図るための社債等の振替に関する法律」)は2009年6月までに施行とされた。同法により上場企業約4000社の株券3800億株すべてが電子化されることになった。市中に残る株券について証券保管振替機構(通称ほふり)への預託が求められた。電子化により運送保管費用は軽減され、偽造・盗難リスクが小さくなるとされた。
 電子化のメリットとして、株券が盗まれるリスクなくなる。株券の偽造は困難に。国内株主の異動状況を証券保管振替機構はいつでも通知できる。株主の把握は容易に。印紙税・印刷費不要化。株式の分割・併合、株式交換などが簡単になる。株券の受け渡し、名義書き換えなどの手続きの不要化。などが指摘される。しかし個人株主としてはこれまで複数の金融機関で分けて運用していたり、名義を書き換えずに売買してきた場合、今後は株券の保有状況や売買状況が証券保管振替機構にすべて把握されている状況は抵抗感があるかもしれない。おそらくいわゆるブラックマネーは市場にはいりにくくなるのではないか。
 その後、決済合理化法は2008年夏に2009年1月5日施行が確定した。株券電子化について(金融庁)
 電子化により株券での取引はおわり、株券は紙くずになる。しかし記念品としての意味は残ると説明本人名義は信託銀行の「特別口座」に移行するので株主としての権利は残る。ただ売買できなくなる。売買するには本人確認手続きをして取引口座へ移行する必要がある。預託しないと他人名義のものは無効化する。法律上の受け入れ期限2008年12月19日だが、各証券会社ではそれぞれの受け入れ期限を独自に前倒しに設定した。
 なお特別口座とは、株券をほふりに預託しなかった株主の権利を保護するための口座。売却するには証券会社の取引口座に振り替える必要。2009年8月末時点で約971万口座。株券保管振替機構に預けることのできない単位未満株も、特別口座へ。企業にとり1口座あたり年500-1000円の管理費用が重荷になる。
 証券保管振替機構は入手した個人データの扱いについて個人情報保護の観点から厳正なルールを守るべきだろう。またシステムが安定的に機能するか、データが紛失しないかなどの懸念もある。
 証券振替機構に預託されたものは3177億株(08/03時点 8割強)。残りは625億株(08年3月末時点)。08/09末で預託率は9割を超えたとされる。企業の保管分(295億株 持ち合い株 上場子会社 オーナー保有株など)をのぞくタンス株130億株(08/03末時点 2009年12月22日現在95%) 全体の3%(14兆円)とされていた。過去の140億株(07/09末)150億株(07/03末)よりは減少している。2008年12月5日-19日。同意がなくても保護預かりの株式を証券会社の判断で「ほふり」に預託できる特例措置(株主には事後通知)がとられた。

預託時の名義書き換え費用(企業側)。

2009年1月5日に電子化されたもの。タンス株などを除いた3587億株。新株予約権付き社債(転換社債)71銘柄。不動産投資信託REIT43銘柄。優先出資証券1銘柄。(1月26日)。

なお電子化にあわせて次のような問題の処理が進められた。
株主不明株の処理:これが残っていると発行会社側には経費負担だけが残る。そこで発行会社は公告の上で買い取り。代金を10年間信託。その後は企業の雑収入として処理を始めた。
端株の処理:1株未満株を端株というがこれは無効化する(2005年の会社法で制度としては廃止 現在あるのはそれ以前に生じたもの)。これについて発行会社は買い取るか(発行会社に資金負担・端株主側も対応処理)、株主分割・単位株制度導入(発行会社は資金負担なし・端株主も手続き不要)で処理。単元未満株には買い増しか買取請求か。
証券会社の接続対応:ほふりとの接続対応が必要。できない証券会社は上場企業株券を扱えない事態に。接続希望は約240社(08/08末)。この接続で問題が生ずれば、電子化の意義そのものが問われる。という意味で緊張が高まっている。

事業会社の保有株:預託率5割。持合い株で売却予定がない。融資・取引の担保として手元にあるものも。担保株券は53億株。ほふりに預託しないと融資継続が困難になる可能性。融資継続には借り手と貸し手が証券口座を開設、ほふりに預託して担保設定が必要。電子化後は融資金融機関の証券口座の質権欄に株券を振り替えることで名義を書き換えずに担保権設定ができる。
 なお企業は保有株について長期保有として特別口座に移行するものが半分。
個人:預託率8割。資産内容を知られたくない。データを紛失することはないか。システムのトラブルやデータ処理が円滑かなどを懸念。

電子化移行に伴う注意点
企業活動の制限
上場企業のTOB(08年11月―09年1月末)
新規上場(08年12月11日―09年2月9日)
公募増資(08年12月22日―09年1月12日)
第三者割当増資(09年1月5日―09年1月12日)など
一部銘柄の売買停止(08年12月25日から30日間 1株に満たないは株の無効化をさけるため、端株を一掃するため株式分割を実施、単元株制度導入する企業)
NTT
日本製紙G本社
電通
コカコーラグループセントラル
みずほFG
三井住友FG
りそなHD
JR東日本
大和SMBCキャピタルなど18銘柄

東京証券取引所の説明、売買(取引所)―清算(クリアリング機構)―決済(証券保管振替機構)
日本証券クリアリング機構 2002年7月に全国の証券取引所と日本証券業協会が共同して設立した。2003年1月からはクリアリング機構が各取引所の清算を行っている。このような組織を清算機関という。
証券保管振替機構 1984年12月6日発足。1991年10月9日業務開始。このような機関を決済機関という。
t+1決済 解説(野村アセットマネジメント)
証券業協会 公社債売買参考値(日次)
証券業協会 公社債売買参考値制度について 2010年5月6日

国債
 1980年2月 振替国債制度創設
 1985年6月 日本相互証券 金融機関とのディーリング開始
 1990年5月 日銀 オンラインネットワークシステム稼働
 1994年4月 日銀ネットによる国債DVP取引開始
delivery versus payment 解説(野村信託銀行)
 2001年1月 日銀 国債取引のRTGS化開始
 2003年1月 日銀で国債振替決済制度  
 2005年5月 国債について清算機関を通した取引開始
 日本国債清算機関
照合機関ー清算機関(日本国債清算機関)ー決済機関(日本銀行)
 RTGS 即時グロス決済
RTGS決済 real time gross settlement解説(野村信託銀行)
 RTGS決済 時点ネット決済との違い 解説(金融大学) 

社債 電子化により登録債 決済期間の短縮 
 証券と資金の同時決済(DVP)
 STP 約定から決済までをシステム間で自動処理すること
 STP straight through processing 解説
 1966年3月 公社債店頭気配発表開始 週1回 280銘柄
1973年7月 日本相互証券株式会社設立
 1977年1月 指標気配標準気配 指標気配14銘柄は毎日発表 標準気配77銘柄は週1発表
 1992年1月 公社債店頭基準気配を毎日発表 298銘柄
 1996 JBネット(Japan Bond Settlement Network)設立
 1996 東京証券協会(日本証券業協会の前身) 公社債店頭気配の発表開始
 1997年4月 対象銘柄数の多幅拡大 1746銘柄
1997年12月 JBネット稼働
 1998年12月 同上(市場集中義務の撤廃など) 2867銘柄
 2001年1月 日本相互証券 国債決済RTGSへ移行
 2002年4月  短期社債振替法施行(電子CP発行可能に)
 2002年6月 証券決済システム改革法成立
       社債等の振替に関する法律 改正
       社債等登録法廃止
 2002月8月 公社債店頭基準気配を公社債店頭売買参考統計値と改称して提供情報を充実
       4198銘柄 平均値→平均値・最高値・最小値・中央値
(このとき証券業協会は、事前の指摘を無視して公表銘柄数を削減を強行する致命的かつ歴史的な誤りを犯した。業界内外から厳しい批判を受ける。全体の4分の1にあたる1100以上を削減したため価格情報を得られなくなった証券会社、生命保険会社に迷惑がかかった。基準気配は市場の実勢とのかい離が大きい問題もあった)
 2003年1月  社債等振替法施行 社債一般のペーパーレス化可能に
 2006年1月  国債以外の公社債について 一般債振替制度(証券保管決済制度)
2007年4月  JBネット解散
 2007年2月  日本相互証券 CDS取引の媒介開始
 2007年6月  債券レポ電子取引開始
 2009年9月  公社債店頭売買参考値の発表銘柄数を拡大 6216銘柄 

電子手形
2008年12月1日 電子記録債権法施行 三菱東京UFJ銀行が記録機関設立 紛失・盗難のリスクがなくなる 保管費用・印紙税などのコストが下がる(手形残高 90年度72兆円から2008年度28.5兆円に 手形交換高90年度4800兆円 2008年430兆円にまで減少) 分割譲渡ができるようになる 現行同様6ケ月以内に2度の不渡りで金融機関との取引停止とされる見込み 2009年6月にも電子手形取引開始見込み。紛失の恐れなく印紙税不要。一部を分割して現金化可能。
全国銀行協会では電子債権ネットワークを設置。2012年5月から電子債権取引開始。
このほか三菱東京UFJ銀行子会社日本電子債権機構が2009年6月に記録機関の認可。
並立する取引所間で電子債権譲渡はできない。
なお電子手形はなお当初、急速に普及する気配がなかった。これについては下請企業に対して、商品受領後60日以内の現金による支払いを求めている下請法の影響を指摘する声があった。とくに同法を管轄する公正取引委員会は様子見の姿勢を批判された(ダイヤモンド2009年2月4日)が、批判を受けて2009年6月に公正取引委員会規則の改正が実現している
これの改正後、取り扱い金融機関と契約企業数とは順調に拡大している(日本電子債権機構)ようだ。金額は2010年1月末で24件約2億円。2010年9月末で4449件約1442億円であった。
日本電子債権機構HP

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
originlly appeared Dec.5, 2008.
correctd and reposted in May 6, 2010 and May 9, 2011.

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