Entrance for Studies in Finance

米連邦債務引き上げ問題と米国債格下げ(2011年8月5日)

連邦債務の上限引き上げ問題の難航 妥協 そして格下げ

  米連邦議会による2011年8月2日までの債務引き上げ承認が必要だが
 (なお現在の上限は14.3兆ドル)民主党と共和党の間の協議が難航した。
  実質的な期限は7月22日までともいわれた。新規国債が発行できない場合年1兆ドル(80兆円)近い債務欠陥

  野党共和党は引き上げと同額の歳出削減を要求。また増税に反対。
  加えて1兆ドル規模の個人・法人減税を主張した。財政悪化の主因は
  社会保険・医療関連の給付の膨張にあるとして、オバマによる医療保険制度改革(人口の15%4600万人の無保険者を保険に
  強制加盟)に反対して 制度の州への移管 民間保険を柱に据えた新制度を主張している。
 これに対して
  2010年の中間選挙で大敗した下院民主党は2012年の選挙での勝利のため 社会保障拡充は譲れない
  オバマ政権は2兆ドル台の引き上げと富裕層向け減税の廃止などを狙っている。
  財政赤字については軍事費こそ主因として軍事費の見直しを進めている。しかしオバマもイラクから撤収すすめるも
 アフガンに増派するなど矛盾した側面がある。しかしすでに6月22日にアフガニスタンからの撤退計画を発表。 
  リビアでは消極的態度を保つなど軍事費削減への布石を打っている。 

S&Pは米国債格付けを2011年8月5日についに引き下げた。この影響は大きかった。
 与野党協議難航を受けて格付会社は、確かに米国債格下げの可能性を繰り返し示唆した。したがって予告はしていたものの、世界経済を混乱させた責任はある。
 オバマ大統領と米議会与野党代表者は7月31日夜合意にこぎつけ8月2日には債務上限引き上げ法案が可決成立したが S&Pは財政再建策が不十分だとして 8月5日(金)ついに米国債格下げと発表した。週明けの8日 世界の株価は暴落した。FRB幹部が金融緩和を明言する中での株価下落は金融政策の限界(実態経済の悪さ 7月の米国の失業率は9.1%と高止まり 2011年7月末の発表では、2011年4-6月期の米国のGDP速報値は、年率換算で前期比1.3%増と低成長。1-3月期の数値は1.9%増から0.4%増に下方修正された。日本政府による日本の2011年度実質経済成長率見通しは2010年12月には1.5%。しかし2011年8月発表では、0.5%に下方修正。2011年4-6月の日本のGDP速報値は実質で年率換算1.3%減のマイナス。)を示すものと指摘されている。
 
2011年春以降の格付け機関の米国債への対応
 4月18日 S&P アウトルック(中長期見通し)を安定的⇒ネガテブ に変更
 6月2日  ムーディーズ Aaaを見直す可能性があるとする。
 6月8日  フィッチ  上限引き上げがみとめられなければ格下げすると警告
 7月13日 ムーディーズ Aaaを引き下げ方向で見直すとする。
 7月14日 S&P クレジットウヲッチ(短期見通し)を安定的⇒ネガテブに変更
90日以内に引き下げる確率が少なくとも50%
      S&P 債務上限の引き上げが信頼に足る財政再建(今後10年で4兆ドル規模)を伴わない場合 トリプルAから格下げの
      可能性があると警告
 7月18日 フィッチ 上限引き上げ認められない場合の格付けの引き下げを再度警告
 7月21日 S&P 合意がなされずデフォルトに陥ったときの混乱について警告
 7月28日(水) 米金融機関大手のCEO financial service forum 連名で大統領と議会に週内合意求める
 7月29日 ムーデイズ 米国債 利払い継続されればAaaを維持する方針示す
 8月2日  ムーデイズ フィッチが米国債の最上位格付け維持を表明
 8月5日夜 S&Pが米国債格下げを発表(初めての格下げ 1941年の現行制度のもとで初めて)
      AAAからAA+へ 長期的格付け見通しをネガテブに 向こう2年間に歳出削減の動きが鈍ったり金利急上昇
      などへ財政の圧力が高まった場合はもう1段階下げる(AAへ)

 また欧州での財政問題が、米国債にマネーを集める展開が、米国の危機の深刻さを
覆い隠しているとも。
 保守派の草の根運動の広がりに、共和党が振り回され債務上限引き上げに強硬に反対
 増税を拒み歳出削減だけにこだわることに。しかし妥協をせずに交渉を長期化させることには
共和党支持者の間にも疑問の声は強かった

2011年7月中旬以降 大統領と議会の動き
 7月16日 米連邦債務が法律で定められた上限(14.3兆ドル)を突破したと
ガイトナー財務長官が発表。 
 7月19日 下院共和党が今年度比で300億ドル減少ない1兆200億ドルとし
 今後10年間の歳出額をGDPの約2割とする案を発表。この主張はかなり強硬な姿勢を
示したもので、オバマ側に妥協を促した形。強硬姿勢の共和党の裏には2010年の連邦議会
選挙で共和党支持に回った証券業界やヘッジファンドがいるとされている。
 7月19日 上院の超党派グループが増税含む3.7兆ドル赤字削減案提示
 7月21日 7月22日(期限)までの妥協は困難との報道
      3兆ドル規模の赤字削減案(増税は2012年に先送り)で大統領側・共和党下院議長間で協議に着手
      しかし下院共和党を中心に増税に強い抵抗
7月21日 欧州首脳会議 ギリシャへの第2次支援で合意
 7月22日 財務省・FRB・NY連銀が、債務上限が間もなく引き上げられると確信しているとの共同声明を出した
7月22日 共和党ベイナー下院議長が交渉からの離脱を表明(同時に23日のホワイトハウスでの協議には応じるとした)
7月28日 下院 ベイナー議長案 採決見送り(赤字削減不足とみる党内反対派が抵抗)
7月29日夕刻 下院がベイナー議長案を賛成218票 反対210票で可決 9000億ドル引き上げ 来年1月にふたたび超党派検討委員会
之合意により1.6兆ドル引き上げを認める2段階案
 7月29日夜 上院 下院送付を案をただちに否決
7月31日深夜 大統領 米議会与野党幹部 妥協に到達 連邦債務上限2.1兆ドル引き上げ 10年間で2.5兆ドルの財政削減など
     9000億ドル強の歳出削減(増税含めず民主党が譲歩) 超党派の委員会を設置して11月下旬までに 公的保険改革・税制改革などで今後10年で1.5兆ドルの削減策決定(今後10年で累計7兆ドルの財政赤字が見込まれ 巨額の財政赤字残る)
     合意できない場合は強制的歳出削減する仕組み(強制的歳出削減)を発動
 8月1日夜 下院が同法案を賛成269票 反対161票で可決 民主党の半数(公的保険縮小の恐れなどに反対) 共和党の3分の1(歳出削減規模少ないなど)は反対
 8月2日 上院が債務引き上げ法案を可決(財政赤字の本質構造は改善されず S&Pが格下げに踏み切るとの観測あり) 
 歳出抑制が景気を圧迫する懸念

2011年4月以降 株式市場の動き
 4月下旬 1万2800ドル台に回復(昨年11月3日直前 1万1200ドル弱 4月下旬まで半年かけて1600ドル強 14%上昇)
 6月10日 3月18日以来の1万2000ドル割れ 米景気失速懸念 1万1951ドル 1万2000ドル割れ 6周連続の下げ
 7月1日 終値1万2582ドル 景気回復鈍化懸念
 7月5日 終値 1万2569㌦
 8月2日 ダウ 200日移動平均線割り込む 終値1万1866ドル 前日比265ドル安 下げが8日連続
 8月4日 ダウ工業株終値 500ドル以上急落 512ドル安 終値11,383㌦ 取引時間中に年初高値からの下落率が1割超える 全上場株の95%が下げる全面安 取引時間中買い戻されることなく下げ続ける 開始してほどなく200ドル安 正午で316ドル安の1万1580ドル安 午後2時過ぎ400ドル安
 7月21日からの10営業日で1,340ドル下げる 11.1%下げる
 8月4日 東京 日経平均は一時9,264円09銭まで下げる 円は一時78円台半ばまで上昇
 8月5日 正午現在 1万1,173ドル 東京市場も下げる 日経平均終値9,299円[9300円]割れ)
 8月5日終値 1万1,444ドル 少し戻したが不安定
 8月8日 世界中で株価が暴落
 8月9日 FRB ゼロ金利の2年継続を表明

よく議論されていないが日本でも似た問題がある
 赤字国債発行法案審議がこう着している。8月末之会期末までに成立しなければ予算執行の抑制となるとも。92.7兆円の2011年度予算の
うち37兆円の財源(その成否)を赤字国債発行法案が握っている(7月5日閣議)。
 なお実際には財務相証券の発行で一時的な資金不足は補えるので、当面の実害はないともされる。
 これは奇妙にみえるが3月29日に2011年度予算案は成立。また5月2日に第一次補正予算も成立しているが、赤字国債法案について
自民党と公明党は、民主党の政策の変更をもとめる人質として通していない。
 その後 7月25日には第二次補正予算も成立しているが 赤字国債法案が通っていない状況である。これは予算案については衆議院の
優先が認められているが、赤字国債法案は一般法案として、参議院での可決承認が必要となる。参議院で多数を占める自民党と公明党
は、赤字国債法案を人質に民主党に政策変更を迫る構えを一時示した。

cf.Laura Litvan, "Default: The GOP's well-played threat" Bloomberg Businessweek,
July 11, 2011, pp.26-27.
なおアフガン戦略については
  アフガン撤退計画と米共和党 エコノミスト2011年7月12日 p.68
オバマのアフガン・パキスタン戦略 エコノミスト 2011年7月19日 pp.76-77
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