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蔡英文政権への支持率が2017年にかけ一時減少

 2016年5月20日  蔡英文氏が総統に就任した(民進党政権は8年ぶり 2014年から民進党主席)。就任演説で対話による現実路線、中華民国の現行憲政体制維持を掲げた(中国からの観光客が減るのを懸念する意見もある)。台湾大学法学部卒 ロンドンスクールオブエコノミクスで博士 政治大学教授のあと政治に転じた。民進党は立法院で過半数をおさえたものの(113のうち68)、安全を証明したうえで米国産豚肉の輸入解禁する(TPP参加を目指す)、沖の鳥島を岩との主張を取り下げる(日本の排他的経済水域EEZを認める)、ヒマワリ学生運動に対する告訴取り下げ、などの蔡英文政権の主張に、国民党は激しく反発したとされる。

 2016年5月の就任時50%近くあった蔡政権の支持率が、その後低下し2017年6月には半分以下の21%まで低下した(他方 不支持率は3倍の63%に上昇)。IT産業を中心に、経済は好調 株価も上昇であるなかでの不支持率上昇は不可解だ。

 2016年末に実施した労働基準法改正(週休2日制の完全実施、時間外手当の引き上げなど)に経済界から反発でている。これには手取りの減った労働者にも不満があるとされる。年金制度の改革では高齢者の離反を招いたとされる。

 台湾の外からの解釈に過ぎないが、中国の圧力が強まることで、台湾の将来に懸念が高まったこと、これが支持率低下の一因ではないだろうか。2008年の馬英九国民党政権誕生の翌2009年からオブザーバーとして参加していた国際機関への参加から連続して外されることになった。国際民間航空機関ICAO総会(2016年9月)、国際刑事警察機構ICPO総会(2016年11月)、そして世界保健機関WHO総会(2017年5月)と出席が認められなかった。中国の空母が台湾を1周して圧力をかけた問題と合わせて、中国による圧力が露骨であるだけに、台湾の将来への懸念が(支持率の低下という形で)広がることも理解できる。しかし他方で、あまりに露骨な圧力は、台湾の人たちの独立心に火をつけ、蔡英文政権への支持を高める逆の可能性もあることを中国政府は考慮するべきだ。

 そもそも台湾の企業の中国との蜜月関係も近年変化がある。台湾の企業が中国の赤いサプライチェーン網から締め出される、あるいは中国を生産拠点とする経済モデルが、技術情報漏えいリスクがあるとの指摘もあるなか、中国の人権費高騰によって、中国の低廉な労働力を使うモデルに限界にきている。つまり中国で工場を展開するという台湾企業の在り方はすでに曲がり角にある。

 2017年に入って、タッチパネルのTPK、金属ケースの可成科技catcher technologyなどが アップルの恩恵で急速に業績をのばし、株価(加権指数)が2017年に入って半年で9200台から10000台に一気に上昇している。この状況での、蔡英文政権の支持率急減は、この株価指数の動きと相反している。はっきり言えることは、台湾経済はともあれ好調を維持していること。つぎに中国との緊張は不安材料で支持率低下の一因だが、それが台湾国民に与える影響は、蔡英文政権に対する支持率低下に常になるとは限らないということであろう。露骨な圧力は、中国への嫌悪感を高め、蔡英文政権支持率を高める可能性がある。

 もともと蔡英文政権の誕生をもたらしたのは、国民党の馬英九が、対中融和を急ぎ過ぎたことに原因があったことに思いを致すべきだ。

 馬政権の対中融和策(2008年就任 2008年中国との直行便実現 2010年経済協力枠組み協定締結等を次々に実現。台湾の域外投資の6割が中国。過度に中国に依存した経済は後戻りが利かない状態になった。しかし他方、中国では人件費が急増、投資環境は悪化。こうした中国との関係の見直しが課題になっていた。こうした中で馬は中国との協定の採決を急いだ。

台湾版天安門事件 2014年3月24日馬英九政権(2008年に総統に就任。2010年6月に中国と経済協力枠組み協定締結 2012年1月総統選挙で再び当選 13年6月にはサービス貿易協定を締結)は中国とのサービス貿易協定に反対する学生たちを行政院の建物から強制排除。多数のけが人をだした。これを台湾版天安門事件と指摘する声がある。「ひまわり学生運動」ともよばれる。
 馬政権は3月17日に同協定を立法院委員会で強行採決。これに抗議する学生が18日夜から立法院の議場を占拠する事態になった。(おそらくはこのことを手土産に国民党の連戦名誉主席は中国を訪問。習近平国家主席と3月18日午後に会談している。この訪問には台湾の企業人などが同行し約80人の訪問団をなしている。また19日のイエレン米連邦準備制度理事会議長が来春にも事実上のゼロ金利政策解除する可能性への言及は外国人投資家のリスクマネー引き上げにつながるとの指摘もあり、19日以降台湾株価は下げが続いた)さらに委員会での審議やり直しを求める学生との対話を拒否したうえで3月24日に強制排除を行った。
 馬政権そして馬英九のイメージはこの強行策で内外で決定的に傷がついた。それは国民との合意形成を軽視した非民主的独裁政権というもの。背景には、中国との関係については、現状維持を大多数の国民が支持している現実がある。馬政権が、この国民の意識に比べ行き過ぎたのだ。
 その後 行政院が中国との協定を結ぶ際に情報公開と立法院などによる監査(監督)を義務付ける監督条例草案をまとめ、決定。王金平立法院長が、4月6日 監督条例草案が成立しない間は、協定審査のための与野党協議を開かないことを、条件に学生に退去を促した。これを受けて学生は7日に退去を決めて10日に立法院から退去した。
 馬総統は監督条例の早期成立を強調した。馬政権(2008年誕生 2010年中国と実質的自由貿易協定締結)が進めてきた対中融和策のスピードをダウンさせる必要がでてきた。馬総統は経済成長率6% 失業率3% 一人当たりGDP3万米ドルかかげたが実現できなかった。2015年の経済成長率は約1%(1%割れとも) 一人当たりGDPは2万2400ドル。この後の2014年11月の統一地方選で国民党は大敗し民意を失っていることが明確になり、14年12月馬英九は与党国民党の主席を辞任した。経済の停滞 格差の拡大や対中融和策への不満 が大敗の理由とされる。

 2016年1月の総統選・立法院選での国民党の大敗はそれに続くもの。明らかに国民党の対中融和政策に対する不安が一因である。中国による台湾への露骨な圧力は、蔡英文政権が理性的な対応を繰り返す限り強権による横暴に見え、台湾国民の中国への反発を高め、蔡英文政権への支持率を高める方向に働く可能性が高い。

  2017/07/15
  2021/09/14   書き直し 

 

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