Entrance for Studies in Finance

Case Study : Idemitsu Kosan 

出光興産とシェルの合併計画に創業家が反対 : 創業家の意向を踏みにじった出光興産経営陣

 大変驚くべきことに、創業家とのコミュニケーションを欠いたまま出光興産の月岡隆社長ほか経営陣が昭和シェルとの合併を進めていたこと(2015年7月に経営統合で合意。2015年11月合併で合意を公表 2017年4月に合併を予定 公正取引委員会で審査中)が判明した。常識的にこの展開は異常で大株主の意向をないがしろにした経営陣に非がある。2016年6月28日の定時株主総会で月岡隆社長の取締役再任への賛成率は52.3%にとどまり、今後、合併に向けた臨時株主総会を開いて特別決議を求めても、創業家側の33.92%を中心に否決票が出て、合併案が否決されることが確実になった。経営陣が増資によって創業家の持ち分を低下させることは可能だが、それは株主主権を否定する経営陣の横暴とみられてもやむを得ないやり方。現経営陣に残された道はできるだけ速やかな辞任だけだと考える。どちらがルールを曲げているかといえば、月岡社長だ。

 創業家が主張する公の理由の一つは出光とイランとの密接な関係。サウジアラムコからの出資を受ける昭和シェルとは異なるとする。もう一つは企業文化の違い。

 経営陣は石油需要の減少が続き、給油所がこの20年で半減したことに示される経営環境の厳しさの中で規模の拡大により統合効果を出すことは不可欠と主張したる模様。しかし創業家の理解を得ないで合併準備を強行。その結果、両者の交流が進んだという理由付けは、実態を進行させて合意を得たいというもので、無茶苦茶なやり方だ。創業家の理解を得られなかった時点で自ら進退を決するのが経営者のあり方ではないだろうか。

 第三者割り当てで創業家の比率を比率を下げるというのは、経営者の横暴を極めた案。また大株主が、創業家の主張に全く同調しない前提だがそれはどうか。(創業家との交渉の行きつまりから2017年7月3日 経営者側は公募増資で4800万株 約1400億円調達するとした。これは創業家の出資比率を下げる狙いと考えられる。しかしこれは株主にとってはいい迷惑。翌4日、利益の希薄化で株価が値下がり、売りが殺到した。他方、創業家は公募増資に伴う新株発行の差し止め仮処分を東京地裁に申請した)。明らかに創業家の持ち株比率を下げる目的の増資であることもあって、東京地裁の判断が注目される。東京地裁は7月18日 差し止め請求を却下する決定を行い、出光側の主張を認めた。出光側が創業家の議決権割合を33.92%から26%程度まで下げる狙いははっきりしているが、公募増資による新株発行は、2016年末の昭和シェル株取得時の借入金返済のためであり、著しく不公正な方法とはいえないとした。これにより出光は発行済株式数の3割に当たる4800万株を発行、約1200億円を調達するとのこと(7月20日払込)。

 この高裁の判断の理由は、ただちに株主総会を開いて、昭和シェルとの合併承認を議題にするとは言えない点。ということは会社側が臨時株主総会に動けば、創業家は合併差し止めを求めることになる。問題の根本は現在の経営者が、創業家の信頼を失っていること。問題の解決は、現在の経営者陣の辞任ではないだろうか

  この間に、出光はロイヤルダッチシェルから昭和シェル株を約31.3%取得(2016年12月 33.24%を取得 8%超を信託銀行に預託する計画)。2017年4月から生産・物流での協業を進め、合併の既成事実化を進めている。しかし他方で、創業家代理人を務めていた浜田卓二郎氏が代理人を辞任(2017年2月)。その原因は、経営側との対立解消に向けて浜田氏が動いたためとされる。後任は鶴間洋平代議士。

経営陣は速やかに全員が退陣し創業家は経営に復帰して経営責任を果たすべきではないか

 指摘されているのは昭和シェルを合併するとき、発行株式数が増やしてそれをダッチシェルの株主に割り当てるために、創業家の持ち分比率が3分の1超を維持できなくなる可能性。しかしそのことを含め、創業家の理解を得ないまま合併を決定した経営陣の無責任さにはあきれるほかない。もっと早く創業家との意見の食い違いを社会に明らかにして自らの進退を決すべきではなかったのだろうか。他方、創業家は、こうして反対して現経営陣に退陣を求めた以上は、経営に復帰して、経営者として責任を果たすべきだとも思える。

  ところが創業家は経営に復帰する意向はないとのこと。反対はするが、経営陣の交代すべき相手を提案しないところは、創業家の主張にも無責任さ、疑問が残る。

 なお経営者側は出光文化福祉財団や出光美術館が企業の経営方針に異議を唱えることができないと主張してもいるが、これは株式保有というものの原則から考えると「おかしな」主張ではないか。公益性の高い財団法人が保有株について、株主としての権利行使をできない、とすると様々な影響が出てくるようにも考えられる。そもそもこれらの財団がおそらく出光家の財産の管理の役割を実際は果たしていたと思われることからも、会社側の主張には無理が感じられる。

 つまり経営陣は、創業家の理解を得ずに、合併話を進めた責めを負って身を引くべきだろう。創業家は創業家でこうして合併話をつぶす以上、その後の経営について責任をもつべきだ。極めて奇妙だが、創業家の反対にもかかわらず、経営陣は合併を推進する構え(2016年9月上旬)。経営陣は、創業家が最後は折れると思っているのだろうか? 問題は株主の意志を無視する経営陣の傲慢さにある。

JXHDと東燃ゼネラル石油の経営統合にも影響

 出光興産と昭和シェルの合併合意は、JXホールデイングスと東燃ゼネラル石油の経営統合を促し2015年12月、両者は合意を発表した(国内ガソリン販売シェア5割)。正直にいえば、出光とシェルの合併(シェア3割強)ができない状態で、JX-東燃の合併が公正取引委員会で審査に出された場合、寡占を指摘される可能性は高まったのではないか。そもそもこのように統合による規模拡大を図り合理化を図るもの。世界の石油メジャー(ダッチシェルやエクソンモービルなど)が規模に任せて、上流の油田ガス田開発を進める中(巨額の開発費用と原油価格下落時の損失に堪える体力が必要)、日本勢は中流下流のサービス力を生かして精製販売、製油所建設・給油所運営事業などの強化を目指している。背景にある問題は、人口減やエコカーの普及によるガソリン需要の減退。そして2015年末まで続いた原油価格安

 なお原油価格はバレル25ドル近くまで下がった2016年1月の水準から次第に回復。5月末には45ドルを超えるまでになった。6月上旬には50ドル台。こうした原油価格の持ち直し(背景にシェールの減産 OPEC加盟国の減産)は石油元売り会社の、在庫の評価損益や、資源開発分野の採算をを改善している(2016年4-6月期)。

 その後 2016年8月31日JXHDと東燃ゼネラル石油は経営統合契約締結を発表した。今後の焦点は公正取引委員会による統合審査に移るとのこと。審査はそもそもは出光―昭和シェルの合併とセットのはずが話が違ってきた。

 2016年7月21日(2017年7月5日更新)

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