Entrance for Studies in Finance

日銀 インフレ目標で方針転換+追加的金融緩和措置(2012年2月14日)

2012年2月日本銀行は前年比1%を物価安定のめどとするいわゆるインフレ目標の公表を開始した。日本銀行は2012年2月14日の金融政策決定会合で、金融政策を運営するうえで望ましい物価水準(中長期的な物価安定のめど)を当面1%にすると決定した。デフレ脱却に向けて、日本銀行は頑迷なその姿勢を転換(事実上のインフレ目標採用に踏み切った)した。
国際的なタイミング(欧州中央銀行が2011年11月12月に連続利下げ 3年物で4890億ユーロの資金供給 2011年12月と2012年2月とでは総額1兆ユーロの資金供給 を実施 2012年1月には米FRBが政策金利0-30.25%の2014年終盤までの維持を決める また長期の物価目標前年比2%上昇 失業率も5-6%を望ましいとして追加的金融緩和QE3も辞さない構え示す 2月から3月にかけてはギリシャが無秩序なデフォルトをとりあえず回避 米国の景気回復の兆し 中国の軟着陸シナリオ など 世界的な株価上昇につながる 日本については輸出関連株 復興需要による内需株 などに期待)も重なり、日銀自身の追加的金融緩和措置の効果もあり、すぐに株価や為替が(市場が)反応したことは、注目されてよい。

2012年2月 ECBが再度期間3年の資金供給オペ
2012年1月 FRB ゼロ金利政策を14年終盤まで継続するとの見通し発表
2011年12月 ECBが期間3年の資金供給オペ実施
2011年11月30日 日米欧の主要中央銀がドル資金供給の拡充で合意 中銀間でドルと他通貨を交換する際の上乗せ金利の幅を1%から0.5%に引き下げるなど(米銀のFRBの公定歩合が0.75%であるのに、欧州銀はECBを通じて0.6%程度で資金調達できることになった 現状は1.1%程度かかる)
2011年10月27日に追加緩和 国債買い入れ5兆円増額55兆円に。31日から総額9兆円の円売り介入。
10月25日 円が一時75円73銭
その前は2011年8月4日に基金総額10兆円増額 円売り介入4兆5129億円。
その前は2010年10月5日 4年ぶりゼロ金利導入 5兆円の買い入れ基金創設検討
欧州中銀は昨2011年12月以来100兆円超える資金供給、米FRBに量的緩和第3段が議論される。先進国は金融緩和競争を行っているようなもの。

欧米の金融緩和は一段の円高を招きやすいものだった。しかしこのあと為替は円安に振れる。

2012年2月14日 金融政策決定会合の内容
物価安定のめどの導入 
年1%の物価上昇率が見通せるまでは(デフレを意識して)強力に金融緩和を推進する 追加金融緩和 バレンタイン緩和とも呼ばれる
 資産買い入れ基金を10兆円増額して65兆円(国債の買い入れ額を10兆円増額する 対象は年限1-2年の国債 買入額を従来の3000億円から5000億円に拡大 なお65兆円のうち35兆円は固定金利オペ)⇔
(景気判断の変更せずに買入額を増やしたのは異例)結果として日銀の長期国債買い入れ規模は年間40兆円に拡大(2012年度の新規国債発行額44兆円に匹敵 借換債含む国債発行総額の2割強に)
 1-2年物対象にした買入増額の背景:円ドル相場は日米2年債の金利差により最もよく説明される 円高の進行に対して 国債買い入れ増額で対応することも有効
 効果:2年債利回りの低下につながり円高修正効果あり
 2012年3月にかけて 逆に長めの国債の利回りが上昇(景気回復期待反映)
 物価安定のめど導入の背景:FRBが2012年1月25日に長期物価目標(長期的なゴールlonger run goal)を2%と明示 
        ⇒ 日銀の姿勢のわかりにくさに内外から批判一層強まる
 イングランド銀行は目標(target:1992年から。目標は財務相が設定 これより1%超振れるとBOE総裁が釈明の公開書簡を財務相に送る)2% など
 中長期的な物価安定の理解understanding(2006年3月 9人の政策委員の見通しの中心値 ⇒ 目標か 決定か 意味不明でわかりにくい) 2%以下のプラスの領域、中心は1%程度 従来は4月と10月の展望レポートの中で2006年から公表 これが見通せるまで事実上のゼロ金利を続ける(FRBの目標に比べ期限と責任不明確)
 すでに2006年から政策委員が物価安定と考える値を集めて幅で示すことを始めていたがしかしこれには分かりにくいとの批判があった。「理解」という表現はあいまいでわかりにくいという批判も。そこで今回から中長期的な物価安定のめどprice stability goal(2012年2月 意見をまとめて組織の決定であることを明示) 2%以下のプラスの領域 当面1%をめど となった。
 なお政策金利は0-0.1%程度に据え置き
 シナリオは日銀の緩和 円安 株高
     
注目されるのは顕著な効果がすぐに現われたこと(従来の日銀の政策の誤りの露呈⇒求められる日銀の政策転換)
 10日後の2月24日には 日経平均9600円回復 円連続下落1ドル80円56銭
 米国経済の好転下での金融緩和は日米金利差拡大の思惑をもたらし 円売りへ
 物価目標の導入 円高の進行は物価下落要因 したがって日銀の国債購入増加へつながると理解され10兆円超える効果があった
 (逆に円売り介入は難しかった 欧州および米国は政府による為替介入には否定的)
    そして3月9日には日経平均が一時1万円台を回復した(7ケ月ぶり)

3月の政策決定会合
3月13日 金融政策決定会合 基金の規模拡大は見送り 成長分野を支援する貸出制度(2010年6月に導入決定 9月に資金供給開始 環境エネルギーなど成長分野に融資する金融機関が対象 資金枠は3兆円 2011年6月には 在庫や売掛債権を対象にした動産・債権担保融資 貸出枠は5000億円 2012年3月7日現在の利用見込み額は 前者が2兆9998億円 後者は891億円 貸出金利0.1%)の拡充を決める
 2回続けて緩和を行わない慣例に従った。 
3月13日 10年債利回り0.970% 前日比0.005%低い 日銀の金融政策決定会合結果発表前に追加緩和への思惑で買い優勢に
    円相場は前日比16銭円安の82円38銭 午後に入り 金融緩和姿勢継続判明で円安進む 
3月14日 1.010%に上昇(3ケ月ぶりの高さ) 米市場で株高債券安が進んだことを受ける 円下落が債券売り加速
    13日の米FOMC声明で米景気見通しの引き上げ受け量的緩和3弾の期待後退 米金利上昇 円売りドル買い進む
    終値83円23銭 
3月15日 日経平均1万0123円 1万円台回復 7ケ月半ぶり 米国景気の回復(米国で雇用指標改善) 円高修正が背景 輸出企業の業績改善期待高まる 海外勢の買い意欲強い 中国の内需拡大 ⇒ 1万1000円まで進む
     円相場 一時84円19銭 11ケ月ぶりの安値 米景気の回復期待(米金利上昇を予想 しかし年後半からは米景気の鈍化予想)のドル買い 日本の貿易赤字 日銀の緩和姿勢などは円売り ⇒ 85円台まで進む(買い戻し入り安値にも限界 2月初旬の76円台から急速な円安) 終値は83円73銭
     新発国債10年物 一時1.060% 約3ケ月半ぶりの高値 ⇒ 1%を上回る水準で推移(一方では投資家のリスク志向強まり債券は売れやすいが、反面では金融機関は金利が上がったところでなお押し目買い。したがって一本調子では上昇しない)終値1.055%
3月16日 10年債利回り1.045% 前日までの相場急落の反動で押し目買い入る
     前日までの円安の進展で利益確定の円買い入る 終値83円53銭

4月3日 国債売り広がる 入札応札倍率3.26倍 前回の3.26倍に比べ低下
4月3日 10年債利回り1.030% 円反発17時時点で1ドル82円07銭-08銭 ユーロは109円47銭ー51銭と大きく反発 

参考 上野泰也「"物価安定の目途"導入と10兆円追加緩和」『金融財政事情』2012年2月27日号, pp.32-34 この論文で上野さんは政治の圧力に屈したことは問題がある。またインフレ目標導入や10兆円の追加緩和がデフレ脱却を引き寄せるとは考えがたいとして、実体構造を前向きに是正する政府の政策が必要だとしている。日銀の金融政策については、ほぼゼロ金利の状態と高水準の当座預金残高が常態化してかなり前から「から雑巾を絞っている」ような状態だったとしている。しかし実際には、物価上昇率のアナウンスと追加金融緩和に市場は反応した。ということはどちらが間違っているのだろうか。
   安達誠司「評価できるインフレ目標導入 問題は実現に向けた姿勢」『エコノミスト』2012年2月28日号, pp.13-14.安達さんはインフレ目標導入は評価するものの、今回の10兆円だけでは不十分とし、一定のペースで追加緩和を実施することで本気度を示す必要があることを示唆している。
   加藤出「金融政策 FRBのメッセージを読み解く」『エコノミスト』2012年3月6日, pp.34-35.
   深谷孝司「キャリートレードが円安をさらに加速させる」『エコノミスト』2012年3月20日, pp.24-25.
会田卓司「円高阻止の日銀緩和で2005年の円安局面再来か」『エコノミスト』2012年3月20日, pp.26-27.追加金融緩和の効果は限定的でも目標の明示により、機動的な金融緩和を市場が期待(解釈)

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