Entrance for Studies in Finance

金融仲介論と証券化

金融仲介機関と証券化intermediaries and securitization
はじめにintroduction
 今日は金融仲介financial intermedariesについてです。金融とはお金の足らないところ(赤字単位)にお金の余っているところ(黒字単位)からお金を融通する仕組みだと考えられます。この仕組みを専門用語では金融仲介というのです。
従来、赤字単位としては企業を、また黒字単位として家計を想定してきました。個々の家計、企業には赤字のものも黒字のものもあるけれど、それを集計した、家計部門全体、企業部門全体では家計は黒字で、企業は赤字と想定されてきました。しかし実は近年、企業部門がおかしいのです。黒字基調なのです。だとすると、企業金融とは資金調達の議論だと言えるほど、企業金融論は資金調達の仕方に従来比重があったのですが、その議論の枠組みを考え直す必要があるのではないか(積極的に問題を提起するなら、企業金融、企業財務の役割は資金調達の必要ということを含めて、リスクの管理にあるのではないか)を、この講義のところでします。
 しかし結論にたどり着くために、まず順を追って企業金融のお話をしたいと思います。
 少し実務的な流れを話しましょうか。手形・小切手・当座預金・当座貸越・手形割引・証書貸付・内部資金・外部資金・直接金融・間接金融・社債・少人数私募債などを説明しましょうか。まず企業間での商取引では信用取引(掛け取引)が見られます。品物の受け渡しが先で現金の支払いが後払いになるというケースですね。このときに約束手形promisory notesで支払うということが起こります。この手形は満期まで手元に置いてもいいのですが、満期以前に現金化の必要があるときは金融機関で割り引いてもらい現金化します。企業活動に必要な新たな資金を企業は、まずは内部資金でまかなおうとします。内部資金の源泉になるのは内部留保利益と原価償却です。内部資金ではなお必要資金に不足するときが外部資金の出番です。外部資金の源泉には、企業間信用に加え銀行の融資(当座貸越 割引手形 手形貸付 証書貸付)、社債発行、増資があります。
預金の種類 当座預金 小切手と手形 当座貸越 割引手形 手形貸付 手形の更新 証書貸付 支払承諾 銀行融資 社債の発行 少人数私募債 中小企業の資金調達

 金融の仕組みを、専門用語で金融仲介と呼んでいます。実は高等学校の政治経済の教科書でも、金融仲介は紹介されていまして、赤字単位・黒字単位と呼ばれる2つの経済単位の間で、直接お金が融通されるケースを直接金融direct finance。間に金融仲介機関financial intermediariesが入るものを間接金融indirect financeと呼んでいます。直接お金が融通されるのは、黒字単位が赤字単位を信用できることを示します。それは赤字単位が誰でも知っている大企業などのケース。金融仲介機関が間に入るのは、黒字単位が赤字単位を信用できない、しかし金融仲介機関であれば信用できたことを示します。この金融仲介機関と赤字単位の間の信用力の差異は、それぞれが支払う金利の大きさに反映します。そしてこの利ざやが金融仲介機関の収入になるわけです。

 金融仲介論ではこの金融仲介機関の機能を詳しく説明しています。この機能はむつかしい言い方では、信用代替といいます。金融仲介機関は自分より信用力の劣る赤字単位に信用の面で代替しているということです。その結果、黒字単位から赤字単位に金融仲介機関を介して資金が融通されます。もう一つの機能は、資産変換機能です。小口・短期のお金を大口・長期のお金に性質を変化させているということですね。これは逆に見ると、大口・短期で運用しながら小口・短期のお金に変化させることです。
 間接金融は、銀行が金融仲介機関の中心であることから銀行型間接金融bank-based indirect financeと呼ばれることがあります。銀行業務bankingは、relationship bankingとも呼ばれるいわゆる長期的融資業務と、transaction bankingとも呼ばれる、現金管理cash management、貿易金融trade creditなどの取引を中心とする為替決済業務(商取引に関わる業務)とに分けることがあります。相対型か市場型かという区分は、この2つの銀行業務のうちrelationship bankingのあり方を議論していたように思います。この長期的融資業務には、相対型取引の側面があるからです。融資業務をcredit scoring方式でtransaction型にできないかという議論があります。しかしミドルリスクの分野は、与信、債権の保全・回収に手間が必要で、省力化がむつかしいとされています。
 ここで相対型取引といいましたが、商取引の形態には、売り手と買い手が1対1の相対型、売り手も買い手もたくさんいる市場型、どちらかが一人でその反対側は多数いる「せりauction型」の3つがあり、それぞれ特徴があります(表1-1)。

表1-1 取引の区分type of transactions
相対型取引negotiated transaction取引条件は弾力的tailor made 取引への外部者参加に閉鎖的closed 個々の取引は異質heterogeneous
市場型取引market transaction取引条件には多くの決まりごとready made 取引への外部者参加に開放的open 個々の取引は同質的homogeneous


 金融のタイプについて池尾和人『銀行はなぜ変われないか』(2003)は、経済がダイナミックに変動するときは、資本市場中心の金融システム(企業買収によって事業会社が再編されている社会をイメージしてください)が有効だとしています(表1-2)。(このような評価は池尾さんに限られたものではありません。2つのタイプの金融システムを比較として、新技術産業の発展に市場中心の経済システムが仲介機関中心の経済システムより成功したとの評価は、たとえば以下に紹介されています。Franklin Allen and Douglas Gale, Comparing Financial Systems, MIT Press, 2000, pp.403-437, esp., 434-435.この2つのシステムの対比を、資本市場中心のシステムと、銀行中心のシステムと表現することが正しくないことは今日では共通の理解になっています。銀行というものを短期信用中心に捉えず設備投資資金の貸付もする存在としてとらえているからです。Bradley D.Nashは、資産や利益に対する持ち分を表わす有価証券により調達される、固定設備の建設資金を仲介する機能を投資銀行業と呼んでいますが、近年の日本の大手銀行はこのような投資銀行業、つまり資本市場との関係を深めているといえます。Bradley D.Nash, Investment Banking in England, McGrawhill, 1924, pp.3, 47.)


表1-2 2つの金融システム(池尾和人)
銀行中心の金融システム大口債権者大株主がvoice型のガバナンス産業の発展の方向がわかっている場合は有効
資本市場中心の金融システムexit型のガバナンス企業支配権の市場が存在産業構造の組み換え 産業部門を越えたダイナミックな資本移動といった課題に有効
池尾(2003)p.90-92

 ところでもともとは相対型だった銀行の長期融資業務が、近年、市場型の要素を加えつつあるようです。このように現実を考えるときは、対象とする事実を歴史的に変化しつつあるものとして捉えることが重要です。
 銀行の長期融資について、日本では、土地(不動産)担保主義。あるいは遡及権付き(with recourse)貸付が行われてきたという言い方がよくなされます(注)。遡及権とは、担保資産を処分して債権を一部回収しても未回収債権が残る限りは返済を債務者に請求できる債権者の権利を意味しています。この側面でも、銀行が融資するときの判断の基準が、借り入れる側の不動産担保real estate based lendingからその収益力cash flowに変化しつつあるとされています(表1-3)。背景には遡及権を付けないノンリコースローンの普及があります。
 (注)これに対して1960年代から1980年代にかけて三和銀行の業務(支店や本店審査部など)の一線にいた寺田さんは日本の銀行で花とされてきたのは手形割引を中心とした短期金融とそのノウハウ(経営者の人物や融通手形を見抜いたり、融資先の実態を現場での見聞・決算書の分析から観察すること)だがそれは信用貸しのノウハウである。不動産担保付き融資の伝統もノウハウも日本の銀行にはなかった。それが信託銀行との競争や、より高い金利を取りたいという意識から不動産担保付き長期融資に走ってしまった、と指摘しています。寺田欣司『銀行員という職業』近代セールス社, 2008年, pp.175-182, 214-216.
 貸付債権の譲渡において、遡及権が付いた債権は譲渡後の権利関係が複雑になること。あるいは債権が不良化したときに、遡及権が付いたままだと回収が不能の判断が遅れやすいこと。などリコース付きローンの問題がわかってきました。そこでノンリコースローンの導入が始まりました。その結果、原則は担保を取りますし(加えて保証人を求めます)ので、あくまでも相対的な問題ですが、融資判断(開始 継続 条件変更など)において、財務数値に表れるような定量的情報の比重があがったとされています。
 このような一連の変化と、近年、スコアリングモデルによる貸付(無担保貸付を含む)、シンジケートローン、証券化、企業買収時の融資などに銀行が取り組むようになったこととは密接な関係があります。(もともと商業銀行は為替決済業務を担うことで、つまりサービスを提供することで資金調達コストを下げています。また多数の投融資を行うことでリスクの分散を実現しています。このほか長期にわたる債務者との取引経験、信用保証人制度など。金融リスクに対処する担保以外のこれらの多くの方法を思い起こすことは無意味ではないでしょう。J.R.ヒックス 新保博/渡辺文夫訳『経済史の理論(1969)』講談社学術文庫, 1995, 第5章参照。)

表1-3 貸付融資の判断区分
real estate based lending:REBL不動産など担保中心主義 遡及権付with recouse
cash-flow based lending:CFBLキャッシュフロー中心主義 ノンリコースnon-recourse→ シンジケートローンsyndicated loan 証券化securitization 企業買収時の融資
asset based lending:ABL売掛金 在庫 機械設備など動産担保などの資産をさらに担保をとることでCFBLの限界を超えたリスク融資をすること

ABLを私はこの表のREBLの意味で使っていたが、動産担保融資を考える上でABLにおける資産を不動産に限定した議論が狭いと思われること。さらに米国型ABLとの区別をつけにくいので、ABLをこの表にあるような米国型ABLの意味に今後使うことにする。 米国型ABLの入門書である以下を参照。G.F.ユーデル著 高木新二郎・堀池篤共訳『アセット・ベースト・ファイナンス入門』金融財政事情研究会, 2007.

 この変化(相対型から市場型 担保中心から収益力重視へ)という問題は、企業の側からみて、マイナスとばかりはいえません。金融取引を、金融機関から企業に対して外から与えられる外生的なものから、企業自らの創意と工夫によって、たとえば保有資産を証券化によって現金に換えるといったように、内生的(かつ内製的)なものに変化させるチャンスになっています。それを企業のリスク管理の進化とみることもできます

(1) 市場型間接金融market-based indirect finance
日本では間接金融と直接金融との中間に市場型間接金融market-based indirect financeと呼ぶべき金融分野が存在することが近年注目されるようになりました。それは金融仲介機関から資金が流れている点で明らかに間接金融なのですが、間接金融の特徴とされてきた相対型金融(取引条件の決定が相対の交渉によるものであり、取引への参加は交渉当事者を想定している その両者の関係は継続的取引関係がベースになっている)ではなく、取引への参加が交渉当事者以外のものにもオープン(あるいはオープンになりうるもの)であり、取引条件の決定で競争など市場メカニズムが利用されている点では市場型金融といいうる特徴をもっています。
 このような市場型間接金融の典型とされるのはシンジケートローンです。
 シンジケートローンでは幹事銀行(arranger)が、その企業の財務内容をベースに取引条件を決定します(入札auction方式がとられることもあります。大事なポイントは他の金融機関が参加できる透明性が求められるので、その企業の市場での評価が条件を決めるということです)。決定された条件で参加する金融機関(lenders)が広く募集されることがあります(open deal)。なお内輪のグループで引き受けるのはclub dealといいます。証券の発行において引受証券と企業が発行条件について話し合い、その後、引受証券が応募者を募集するケースに大変似た経緯ですね。証券の発行の場合も、相手方は市場ですから、発行条件はその企業の市場からみた評価が基準になります。
 シンジケートローンは金融機関にとっても様々な利点があります。まずとりまとめをする金融機関(arranger)や契約締結後、ローンの決済・事務管理を行う金融機関(agent)は手数料が得られます。シンジケートローン(協調融資)方式は、個々の金融機関にとっては融資額を抑えることにつながります。すでに見たように貸付条件は借入企業の信用力に見合ったものになります。従来型の相対型金融で金融機関は、しばしば融資をめぐる競争から企業の信用力に見合った金利を取リ損ねてきたのです。
 他方、企業にとって、単独融資ではむつかしかった大きな金額の長期融資を実現できるメリットがあります。
 シンジケートローンには、融資枠契約(コミットメントライン)型もあります。コミラインが、シンジケートローン普及を推し進めたともされています。
 それまで企業は、金融機関との長年の取引関係に頼っていました。融資の継続を信じていたのですが、1990年代に金融機関の体力が落ちて金融機関の貸し渋りを経験します。また長期にわたる不況の中で、不要の借入の整理を迫られます。
 コミラインでは、企業は、手数料を払って借入の選択権を得ます。この方式ですと借入は権利ですから、従来の暗黙に借入を期待する状態よりも、企業にとっては安心できます。また、コミライン契約を結ぶことで企業は借入を節約できます。
 シンジケートローンという形態は実は以前からありました。シンジケートローンが注目されるようになったのは、特定融資枠契約に関する法律が1999年3月に制定されて、融資枠契約における手数料が、利息制限法や出資法の規制にかからないことが明確になったことが大きいとされています。そして金融機関にとっては、手数料が稼げますし、貸出リスクは抑えられます。融資枠契約は、企業側・金融機関側双方のニーズに合っていたので急速に普及しました。
 融資枠契約が企業にとって将来の資金面でのリスク管理に役立つことも理解できますね。
なお黒木さんはシンジケートローンは事業再生の出口(exit finance)として悪用された面があったと指摘しています。この場合、幹事金融機関はその立場を利用して手数料を儲けながら、自らの融資残高を減少させたというのです。黒木正人『わかりやすい融資実務マニュアル』商事法務, 2007年, pp.58-62, 158-160.
 確かに事業再生金融が議論された時期とシンジケートローン活発化の時期は重なります。最終的に当該企業が破たんしたとすると、これはリスク分散の名を借りた不良債権の押しつけになりかえねません。シンジケートローンでは参加金融機関はアレンジャーを信用して企業の実態把握がおろそかになりがちだとされていますので、十分な注意が必要です。

(2)資産証券化asset securitization
 つぎに証券化についてお話しましょう。これはここまでの直接金融・間接金融という言葉からすると直接金融です。ですから証券化は間接金融の役割の低下financial disintermediationにつながるとみられていました。少なくとも伝統的な金融仲介機関の後退につながると見られていました。
一般に仲介機関外しの動きをdisintermediationといいます。その典型はインターネットを通じたさまざまな取引で、メーカーが顧客とダイレクトにつながる動きに見られます。このようなインターネット取引が普及すると、さまざまな仲介業者が取引から外され、メーカーと顧客がダイレクトにつながることになると議論されています。同じことが金融機関についても議論されたわけです。
 しかしfinancial disintermediationは杞憂だった、心配が過ぎていたように思います。むしろ金融仲介機関は証券化のプロセスに自分自身が入っていったと思います。自らの資産を流動化する方法として、また自らの資金の運用対象として。
 証券化についてのもう一つの論点は、証券化を通じて企業そして金融機関の資産が、証券化されたということについてです。
 これを資産証券化asset securitizationといいます。企業そして金融機関の資産は、資産証券化というプロセスにより、外部の投資家の投資対象に変化した。企業や金融機関は自分の資産を新たな資金源として活用できるようになった。保有資産というのはリスクを抱えた存在でもあります。証券化は、その資産を資金調達の手段に変えたのですが(これを内製化bring in houseということがあります)、リスク資産の大きさをコントロールする手段になっています。
証券化についてはいろいろな側面があります。リスク管理の手段としてみるべきではないかというのがここでの主張になります。(資金調達手段の多様化である、資金コストを引き下げる手段である、資産を圧縮することで資産効率の改善につながる、など様々な見方があります。しかし資産には収益を生む側面もありますので、それを売却するのはその資産保有のリスクが、企業や金融機関が許容できる保有リスク量を超えているからだと考えるわけです。)
 証券化については、実質的にオリジネーターの取引なのに、その簿外取引になるという批判があります。ただ証券化という行為そのものが、オリジネーターと切り離すことで成立しますので、こうした批判を受け入れてよいのか疑問も残ります。 証券化の進展により、近年では、既存資産(過去の投資資金の回収)だけでなくfuture assetつまりfuture cash flowが証券化の対象になったこと(新規事業資金の調達)が注目されています。
 証券化についてさらに学びたい人には次の本を薦めます。
Frank J.Fabozzi and Vinod Kothari, Introduction to Securitization, Wiley:2008


Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in Mar.31, 2009.
Corrected and reposted in August 30, 2010.

財務管理論講義
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