Entrance for Studies in Finance

マツキヨと日本調剤が提携協議打ち切る(09年9月24日)

ドラッグストア業界
Hiroshi Fukumitsu


業界最大手マツモトキヨシの動向
 ドラッグストア業界の中では従来の店舗だけで成長力の維持は困難であることから医薬品に頼らない事業形態を模索する動きもある。セイジョーが有機野菜を扱う店舗「セイジョーマザーズ」を開業。アインファーマシーズは化粧品専門店「トルぺ」を出店。マツキヨも2008年内に雑貨専門店開業(安売りのイメージのあるマツキヨブランド使わない)している。

日本調剤との提携協議公表(2008年10月30日)
 2008年10月30日にドラッグ店最大手のマツモトキヨシHDは調剤薬局2位の日本調剤と業務提携に向けて話し合いが進行していることを発表した。
 背景には2009年6月の改正薬事法施行により、スーパーやコンビニ、家電量販店などが大衆薬販売に本格的に参入。薬剤師でなくても新たな登録販売者(高卒以上で医薬品販売で1年以上の実務経験が要件)の資格を得れば大衆薬販売が可能になった。スーパーや家電量販店などが大衆薬の販売に乗り出し始めた。大衆薬の値下がりが予想され、これまで定価販売で利益をあげてきた大衆薬販売業界は利益が低下する可能性が大きい。
 マツモトも調剤薬局の機能をもつ店舗を増やすことで大衆薬に過度に依存した業務体質の改善を図るとした。このような店舗の運営、薬剤師の採用、医薬品の仕入れなどで日本調剤の支援を期待している。他方、日本調剤も併設型店舗への進出を検討しており、両者の思惑が一致したという。

ローソンとの提携発表(2009年8月24日)
 日本調剤との業務提携報道からほぼ1年経った2009年8月24日。マツモトキヨシ(ドラッグで首位。2位はスギ。3位にツルハ)がローソン(コンビニで首位のセブンイレブンに次ぎ2位。3位はファミリーマート)と業務提携を結ぶことが明らかになった。これはコンビニ側の医薬品の扱いを拡大したいニーズと、ドラッグストア側の食料品などを扱いたいニーズがまさに重なったものだが、強者連合と呼ばれた。
 報道初表資料によれば、2009年内に共同出資会社を設立して、2010年春にもコンビニとドラッグストアを融合した新型店舗(通常のコンビニの2-3倍の規模である売場面積300平方メートルで徒歩圏にいる顧客に対して食料品と医薬品をまとめて買える利便性を提供)を展開する。医薬品や食料品など双方が手薄な分野については、商品の相互供給も進めるとした。男性客が多いコンビニ、女性客が多いドラッグストアの融合は、顧客層の拡大につながるほか、医薬品と食料をまとめ買いできるのは高齢化社会をにらんだ店舗戦略といえ、業務提携は好意的に報道された。

日本調剤との提携協議打ち切りを公表(2009年9月24日)
2009年9月24日、マツモトキヨシと日本調剤はそれぞれ業務提携協議の打ち切りを発表した。2010年4月設立予定の調剤事業会社の設立比率で日本調剤は折半を主張したのに、マツモトは過半を主張して折り合えなかったとされる。他方、9月15日のロイター電は、2009年6月の改正薬事法施行により、第一類医薬品の取扱いをやめるドラッグストアが続出。薬剤師の確保がしやすくなったことが背景にあると指摘している。

鈴木孝之氏の指摘
鈴木孝之(西友ストアを経てメリルリンチ証券調査部、現在プリモリサーチジャパン代表 小売業界の実態に詳しい)は、ドラッグストアと調剤薬局の統合は理想的に見えるが、生活者相手のドラッグストアと、病院医師に顔を向けプライドの高い調剤薬局との融合は難しいとしている。他方、コンビニとドラッグストアの提携については、コンビニが登録販売者の人件費を吸収して、新たに必要とされる医薬品などの販売面積を生み出すのは容易でない。可能性があるのはドラッグストアが、コンビニを兼ねる業態だと指摘している(鈴木孝之「薬事法改正で台頭するドラッグストア」『エコノミスト』2009年9月29日号, pp.76-78.)。

イオンによるCFS独立阻止 
 ところでスーパー主導でドラッグを取り込む動きがこの前にあった。イオンによるドラッグストア統合の動きである。これは突然始まったものではなく、1990年代に始まっている。
 2007年から2008年にかけてその中のドラッグストアCFSコーポが、イオンの意向にさからって調剤大手アインファーマシーズとの統合に走り、イオンは、その阻止に動いた。
 イオンが、オリジン東秀に対するドンキホーテの買収において白馬の騎士の役を演じた余韻が残る2007年暮れに、イオンは、15%の株式を保有するドラッグストア大手CFSコーポレーション(年商1422億円 うち調剤72億円 ドラッグ901億円 2007年2月期)による調剤薬局大手アインファーマシーズ(年商813億円 うち調剤668億円 ドラッグ143億円)との経営統合阻止のため、グループのドラッグストアとの共同仕入れなどで効率を高めるなどの対案を付けたうえで委任状を集めた。阻止のためには3分の1以上の株式が必要だった。
 イオン側は1990年代からドラッグストアに出資してグループ形成を図ってきた(グループ全体の年商は2007年半ば頃は6000億円の規模とされたが2008年半ばの記事では8000億円を超えた規模とされる)が、出資比率を低くしてゆるやかな統合を目指していた。CFS側は、その隙をついて造反を図った。CFS側にどのような不満があったかは明らかではアではないが、独自の成長戦略を描きたかったのではないか。スーパーが売り上げが伸び悩むなか、ドラッグは成長している。
 2009年に改正薬事法が施行されるとスーパーなどが医薬品販売に参入できるとされるなかでイオンにとり造反は心外だったであろう。これまでは医薬品の販売は薬剤師の常駐が必要だった。2009年6月からは改正薬事法施行で資格がとりやすい登録販売者を置けば、いわゆる大衆薬など大半の一般用医薬品は扱えるように規制緩和が行われる(大衆薬を副作用リスク別に3種類に区分。登録販売者は、1類を除く2類と3類の販売が可能。区分ごとの陳列と、薬剤師の書面説明を義務つけた第一類は直接消費者の手に触れないところへの陳列を義務付け。通信販売は原則として副作用リスクの低い3類のみとした。)。
 他方でドラッグストア業界の2007年度の市場規模は4兆9600億円(2008年度は5兆2000億円 過去8年間で2倍に増える)。上位5社(1位マツキヨ 2位富士薬品G 3位スギHDなど)のシェア22.5%で寡占度は高まりつつあるが、なお再編余地があり、活発なM&Aが予想される。生き残りの上で2000億円の売上高が目標となっている。08年9月に関西のキリン堂(業界12位)とアライドハーツ(業界13位)が経営統合で合意(業界7位へ浮上)。他方でグローウエル(業界8位 イオン系)が中堅の寺島薬局(同じくイオン系)にTOBを実施(08年9月下旬から08年10月)などの動きがみられる。いずれも2000億円というレベルを目指したもの。
 CFS側では、大衆薬(市場規模1兆円前後)市場と調剤薬局との関係。今後規制緩和でコンビニやスーパーが大衆薬販売にのりだし競争が激化すると、薬局はドラッグだけでは生き残りはむつかしく、調剤機能をもつ必要があった。薬局の中身は、調剤機能はもっている薬局ともっていない薬局(いわゆるドラッグストア)とがある。規制緩和で、調剤機能をもつことを急ぐことになるという解釈があった。マツキヨが日本調剤との提携機を望んだのと同じ理由で、CFS側はその意味でアインとの提携を望んでいた。CFS側は、独自の成長戦略を描こうとしたのであろう(両社の歴史をみると、2000年にイオンの出資を受けて4年後の2004年、CFSは関係の解消に動いている。両社の相性はもともとよくなかったといえよう)。しかし同時にイオンからの独立を図った点にCFS側に謀反の意図があったといえる。
 ドラッグストアの市場規模は前年度比で6%増。2000年代までは年率2ケタの伸びがあったがここ数年は5-6%にとどまる。小売り業界の中では依然として成長分野。(なおこのようなドラッグストアの成長で薬の卸が収益を圧迫されているという。卸のほうも規模を拡大して対抗している。最大手はメディセオ・パルタックHD:08年4月 コバショウを完全子会社化。2位がアルフレッサHD。3位はスズケン。4位が東邦薬品)。
 イオンは首都圏でその中核のCFSの脱落を防ぐ必要があった。しかし大手小売とそのグループ企業の委任状争奪は異例でこの事件は社会的注目を集めた。
 2008年1月22日の臨時株主総会でイオンは議案否決に必要な3分の1以上の42.8%の反対票を得た。イオン側の統合比率がCFSに不利との主張が、ほかの株主の共感を得たとされる。
イオンの社長の岡田元也氏は創業家の2代目社長。早稲田卒業後、アメリカでMBAを取得後、入社、社長となった。委任状合戦になるまえにCFS側が関係を悪化させない交渉は可能だった。岡田氏を怒らせたこの造反は、CFSの敗北で終わった。2008年3月1日 CFSはイオンからの出資を15%から33%に高めた。アインとの統合を進め謀反を起こした会長兼社長が引退したのは当然の結果だろう。CFSはイオンの支援を受けて経営再建に臨むことになった。
 しかし反面、今回の件でイオンは、従来の出資比率を抑えた提携の見直しを迫られたといえる。出資比率を抑えてきたのは、相手企業の独立性を配慮してきたからだが、今回のようなCFSのような信義則に反した造反があると、この政策の限界も見えてきた。
 イオンはこれまでイオン・ウエルシア・ストアーズというグループを作ってきた。店舗数2400超 売上高8200億円(2007年)。しかし出資比率はこれまで1割弱から3割でゆるやかなグループにとどめてきた。スーパーや百貨店が売上高を減少させているなかでなお年率5%程度の成長を保っているドラッグ事業部門は魅力的。イオンの中では海外事業とともに成長分野の位置付けとされる。
 なお総合スーパージャスコを運営しているイオン(2007/03 ダイエーと資本業務提携15% マルエツをも実質傘下に22%→33.2%07/09)は2008年度中にも持ち株会社に移行。グループ企業を9つの事業領域にくくり直してグループ経営の効率化を図っている。その中で、緩やかな連帯に限界がでてきたのではないか。今後は、大型SCの出店、新規出店、スピードを落として、売上よりは収益性を重視する。しかしドラックストアはその中で国内事業としては強化の有力な柱。
 このような経過でCFSコーポレーションはイオンの出資比率引き上げを受け入れた(業務提携・資本提携についてのの文書の日付けは2008年3月17日)。
しかし話はこれで終わらなかった。2008年8月、調剤薬局最大手のアインファーマシーズ(全国に400店超を展開)がセブン&アイホールデシィングスからの出資受け入れを決めた。16億円7.8%出資。今後は共同出店。SC内への出店など。この出資でドラッグストア業界で大手流通を主役とする再編が始まったともはやされることになった。その後、セブン&アイの低価格ドラッグストア全国展開の構想が明らかにされた。
 このように調剤1位のアインファーマシーズが08年8月にセブン&アイHDと提携。他方、3位のクラフトにイオンが間接的に20%出資している(イオンはクラフトHDで)。クラフトはクラフトFHで保有され、クラフトFHをクラフトHが保有する形。そのクラフトHにイオンは20%出資している。
 こうした中でマツキヨは、ローソンと組む(2009年8月24日)一方で、薬剤師不足が思ったほど深刻でないとして日本調剤との提携を取りやめた(2009年9月24日)。薬事法改正のインパクトにより、ドラッグとコンビニやスーパーの融合、さらにドラッグと調剤の融合が進むことは見えてきているのではないか。

 Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
 Originally appeared in Nov.7, 2008. Corrected and reposted in Sept.26, 2009.
経営戦略事例研究 開講にあたって 経営学
現代の金融システム 財務管理論 財務管理論文献案内
現代の証券市場 証券市場論 証券市場論文献案内
サブプライム問題集中講義
東アジア論 PDF公開論文 研究文献目録
映画論 高等教育論 東京花暦 東京の名所と史跡
My Home Page
にほんブログ村 経営ブログ 経営学へにほんブログ村 経済ブログへにほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ人気ブログランキングへ
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「Economics」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
2024年
2023年
人気記事