Entrance for Studies in Finance

Case Study: Softbank ソフトバンク

ソフトバンクによるスプリント買収提案(2012年10月)
 2012年10月 ソフトバンク(孫正義社長)が米スプリントネクステル(米国携帯3位)買収に動いた。さらにスプリントの高速通信子会社クリアワイアの完全子会社化を発表した。しかし2013年に入って、米衛星放送会社ディッシュがクリアワイア争奪に参戦。2013年4月にはスプリント買収についても対抗してきた。ここに至って、ソフトバンクの買収の成否は、スプリントの株主の判断にかかる事態になり、混沌としてきた。
 米国携帯1位はベイライゾン・ワイヤレス6月末10520万件 2位がAT&A同9420万件)。3位のスプリントネクステルは6月末契約数5600万件。首位ベライゾンは高速データ通信サービスの展開(2010年12月に開始)で優位にたっている(人口カバー率は89%)。AT&Tは2011年9月開始。カバー率は大きく見劣りする。スプリントは2012年7月に開始したばかり。
 このスプリント(10月12日の時価総額172億ドル 1899年創業 2005年にネクステルを買収。)が新たに発行する80億ドル分の新株予約権付社債を引き受けることを2012年10月15日の取締役会で決定して同日発表した。米国に設立する新会社がスプリントと合併。さらに市場から120億ドル分(70%)の株式を買い取る。スプリントの7割の株式取得へという内容(1株あたり7.3ドル・・・用意された現金は121億ドル。これを現金の希望が上回った場合は現金と新スプリントの株1株になる。・・・この買収については、受取方法が確定しないこと。新スプリント株の価値が見通せないなどの問題あると指摘がある)。
 ソフトバンクはさらにスプリントを通じて2012年12月13日米クリアワイヤの買収を発表。12月17日には、金融機関から1兆6500億円のつなぎ融資を発表した(買収規模で日本企業として過去最大の北米投資)。12月18日契約。総額1兆6500億円のつなぎ融資(返済は1年以内 中長期資金に借り換えを予定)。みずほコーポレート銀行、三井住友銀行、三菱東京UFJ銀行、ドイツ銀行東京支店。うち2500億円については21日に実行。スプリントの転換社債購入で減少した手元現金を補う。残りの1兆4000億円でスプリント買収の経費を賄う。借入契約手数料は約170億円で2013年3月期連結決算に計上。
 モバイル分野の世界一を目指す(スプリント買収で当面は世界3位 契約数でNTTドコモの1.6倍の規模)。
 12月17日 スプリントとクリアワイアとの間で完全子会社化で合意。未保有の49%の株式すべてを22億ドルで買収というもの。これが実現すると、高速通信に利用可能な周波数が一気に増加反転攻勢の可能性が生まれる。

ディッシュの参戦はソフトバンク完全勝利で決着 しかし市場は慎重
 その後 後述するように衛星放送会社ディッシュの参戦で、一時事態は混とんとしたが2013年6月18日にまず、ディッシュはまずスプリント買収からの撤収を表明。さらに6月26日には ディッシュがクリヤワイヤ買収取りやめを発表(スプリントの臨時株主総会で了承も得られ)、ソフトバンクの勝利が確定した。事態の転換に決定的だったのはいずれもそれぞれの買収額の引き上げだった。
 まず6月11日 ソフトバンクはスプリントの買収金額を15億ドル積み増した(1株あたり対価を7.30ドルから7.65ドルに引き上げ 10日の終値は7.18ドル これでディッシュはスプリント買収を断念6/18)。さらに6月20日にはスプリントがクリアワイア買収額を引き上げた(買収額を1株3.40ドルから5.00ドルに引き上げた。買収額は5割高の39億ドル。ディッシュのTOB価格4.40ドルを上回る。クリアワイア取締役会は全会一致でスプリントの新提案支持を表明 臨時株主総会を7月8日に行うこととした)。こうしてデイッシュはクリアワイア買収を断念した(6/26)。
 ディッシュはさかのぼると2013年1月に対抗買収を提案。5月にスプリントが買収額を引きあげるとその1週間後にさらに上回る買収額を提示して、TOBを実際に開始したとされる(裏の交渉は分からないが、この一連の買収合戦によりスプリント、クリアワイアが当初の想定よりいずれもが想定より高い買い物になった可能性はある 後述するように当初の計画でスプリントは2.97ドル)。つまり半年に及んだ攻防は2013年6月末に決着を迎えたことになる。これを受けて、2013年7月5日、米連邦通信委員会は、ソフトバンクによるスプリント買収計画、そしてスプリントによる、クリアワイヤの完全子会社計画の双方を承認した。13年7月11日買収完了を発表(クリアワイアの完全子会社化含む 買収総額216億ドル 13-14年設備投資に160億ドル投資してベライゾンワイヤレス、AT&Tを追う)。
 これによりソフトバンクは顧客ベースが日米で1億人を超える巨大会社(NTTドコモを抜いて世界4位の携帯電話会社)となった。しかしスプリントは12年12月期まで6期連続の最終赤字会社。高速データ通信サービスの遅れなどから、顧客ベースは減少が続いており、経営の立て直しがうまくゆくか懸念されている。また今回の買収(円換算買収額は1兆8000億円)で巨額の負債が増える中、スプリントの再建には巨額の設備投資がさらに必要。どこまで成長を伸ばすことができるか、市場は冷ややかな声があることも事実だ。

TモバイルUSの買収
スプリントを約1兆8000億円で買収で世界4位につけたソフトバンクだが、米国内ではベイライゾンワイヤレスやAT&Tの半分程度の契約数で劣勢。そこでドイツテレコム傘下(67%)のTモバイルUSの買収がソフトバンクの次の方針とされた(2013年12月)。買収予定金額は2兆円規模。
 しかしプリントの買収資金に加え、スプリントの負債335億ドル(3兆3500億円)も加わって、ソフトバンクの2013年9月末の有利子負債は8兆8400億円 3月末の2.4倍に膨らんだ。2015年3月期の支払利息は約3000億円となる。しかしソフトバンクの14年3月期連結営業利益見通しは1兆円以上(NTTドコモをここでも抜き)あり、これを十分カバーできると主張された。

スプリント3位によるTモバイル4位の買収を米FCCが認めず断念(2014年8月上旬)

 しかしTモバイル5024万件(2014年6月末の携帯電話契約件数 値下げ路線で顧客増やすドイツテレコム傘下 Tモバイルの競争姿勢は ソフトバンクの戦略にはマイナスに働いたとされる 2011年にAT&TによるTモバイルUSの前身会社との合併をFCCなどが反対してとん挫させた経緯がある)買収について米FCCウイーラー委員長はスプリント5426万(1-6月期1社だけ契約件数純減 人員削減で増益目指す ソフトバンクからの資金でLTE整備)による買収を認めない(合併についてはTモバイルとの合意 親会社ノドイツテレコムとの合意などは行われたとのこと 認められれベライゾンワイヤレス12352万件(全米でLTEに対応 高価格路線) AT&A11,663万件と並ぶ1億件以上の契約電話件数になる)判断を2014年8月に入り明示。なおFCCが認めても司法省の関門もあった(実はFCCなどは構想が明らかになってから一貫して反対姿勢を示していた。反対姿勢が覆らなかったということだ)

 これを受けてソフトバンクは2014年8月上旬までに買収による規模拡大を断念することになった。スプリント買収(1兆8000円億円)でソフトバンクの有利子負債は9兆円超え。年間利払いは3000億円超え(2015年3月期)「。Tモバイル買収には1兆7000億円以上が必要だった。買収実現の承認にも1-2年かかり重複投資の手控え:設備投資手控えによる競争力低下が懸念されていた。買収によるこうしたマイナス懸念を買収断念は取り除く効果もある。

 ソフトバンクのEBITDA有利子負債倍率はスプリント買収前の1.4倍が約3倍になる(S&Pがスプリントが負債依存度の高いクリアワイアを買収する結果、連結財務を通じてソフトバンクの負担が増すことを指摘 ソフトバンクを投機的格付けに落としている20130708 これも注目してよい論点だろう)。ただし2006年のボーダフォン買収では買収直後のこの数値は5.6倍だったとのこと。ソフトバンクの経営を支えているのは、高い営業利益水準だ。
 懸念されるのはスプリントの業績(600億円強マイナス)だが、急速に回復するとの見立てがある。2013年春に連結対象としたガンホーの株式の再評価益(1500億円)とウイルコムの株式再評価益(1000億円)が利益に加えられ、スプリントの赤字を吸収した。37%出資するアリババG(中国の電子商取引最大手)が2014年中に香港上場の観測(企業価値は1500億ドル15兆円と試算される)も、ソフトバンクに有利に働いている。

 アリババは2014年3月に米国での上場準備を明らかにした。ソフトバンクはアリババグループ(馬雲会長)に対して36.7%出資。上場すれば時価総額は10兆円以上(2012年のノフェイスブック以来の大型上場になる)。ソフトバンクの持ち株(簿価317億円)の含み益は3兆円以上になる見込み。
 この株式再評価益で黒字を出す手法は、スプリントにも移植され、2013年10月末のスプリントの決算は、クリアワイヤの株式再評価益を利用して13年7-9月期について、6年ぶりに黒字転換を示すものとなった。
 ソフトバンクについては、11月22日 ソニー株を保有してソニーに経営上の注文を付けたことで注目されているサードポイントが、ソフトバンク株を取得したこと(10億ドル以上 発行済株式の1%程度を取得)が明らかになり、注目された(サードポイントはソニーに対してエンタメ事業の分離上場を求めたが、ソフトバンクに対しては海外買収戦略を評価し、経営改革を要求せず純投資と位置つけているとのこと)。なお22日の日中、ソフトバンク株は一時時価総額が10兆円を超えた。11月25日には終値での時価総額10兆円超えが報道された。これを上回るのはトヨタ自動車だけ(22兆円)という世界だ。

安値攻勢とリストラ

Tモバイル買収交渉を中止したあと、スプリントは新価格戦略で巻き返しを図った。米国市場大手4社でで一人負け(赤字)が続くスプリントを抱え込んだソフトバンクは かなり苦しい戦いを進めている。

LTEのインフラ投資に1兆6000億円投資。有利子負債の急増でソフトバンクの支払い利息も増えている。買収先の早期黒字化が課題。国内携帯事業は伸びが鈍化。アリババb集団のNY上場による保有株の含み益5631億円を計上(15年3月期)。前期にもガンホーオンラインエンターテインメントの子会社化の利益2500億円を計上している。しかしこのマジックはそれぞれ1回限り。2016年3月期については、契約は純増は勢いは落ちたが続いた。スプリントの合理化(リストラ)、円安による売上高増効果、アリババの持ち分法投資利益も寄与14年7月スプリントを子会社化(負債335億ドルがソフトバンク本体に入る)。8月18日の発表では20ギガバイトのデータ通信と最大10回線を100ドルで利用できる家族向け新料金プラン(新規契約者向け)だったが、21日にはより割安感がわかりやすい、定額制月額60ドルで音声通話とデータ通信が使い放題になる定額プランを投入とした。これは業界主流が従量制の料金体系に2011年以降転じたのに反旗をひるがえすもの。2014年12月の年末商戦では乗り換え客に半額にするキャンペーンを始めた(12月2日)。

14年度大型の社債発行。

スプリントは3位から4位に転落(15年6月末)。スプリントは2016年にキャッシュ不足になるとの観測が流れている。


 
2013年に入ってからのソフトバンクの資金調達
 ソフトバンクは2013年3月に事業会社としては過去最大の個人投資家向け社債3700億円を発行したほかドル建てユーロ建てと米ドル建てあわせて総額20億ドルの発行(約1940億円で7年物)をきめている(2013年4月8日発表 現時点の格付けはJCRがシングルA S&PとムーディズがトリプルB 2%強から3%強ていどの利回りと予測される)。これらはつなぎ融資を長期化するねらい。ソフトバンクは4月19日、予定していた外貨建て債の規模を約1300億円引き上げ、米ドル建て24億8500万ドル、ユーロ建ては6億2500万ドルにすると発表した。
 断念となっても。為替予約で巨額の為替差益。違約金(6億ドル)を受け取れるが、今回の買収は、ソフトバンクにとって海外展開の好機。

 ソフトバンクは2004年日本テレコム買収で固定通信事業参入。2006年には英ボーダフォン日本法人を1兆5000億円で買収して携帯電話事業に参入。2010年には経営破たんしたPHS最大手ウイルコムを傘下に。
 同社はボーダフォン買収時には、1兆3000億円を4%台の金利で借り入れた その後 資金を証券化で確保したことは資金使途の制約:財務上の制約という問題を派生させた。純利子負債は2012年3月に5500億円まで縮小。買収攻勢に転じることに。

2012年のイークアセス買収 2013年ウイルコムの完全子会社化 注目される戦略構想力
 ソフトバンクの2012年8月末国内契約数3014万件 10月1日に携帯国内4位のイーアクセス同6月末413万件を買収を発表 その買収金額は1800億円超の見込み(買収目的は携帯電話利用周波数の拡大とインフラ投資拡大)。KDDIに対抗するため時価の3倍を提示したとも(KDDIはイーアクセスを買収する交渉で先行していたにも関わらず、買収の好機を生かせなかった)。新しい周波数帯(イーアクセスは1.7ギガヘルツ帯の周波数を保有)・顧客基盤の獲得、ネットワーク共用などを評価したとし、イーアクセス買収は有利子負債を増やさないため株式交換方式によるとのこと。2013年2月までの完全子会社化をめざしている。
 2013年1月には株式交換方式(2200億円相当の自社株)で全株取得後、各国の通信機器メーカー(サムソン電子など)やリース会社(オリックスなど)にその一部を売却(最終的な出資比率は3割)。得られた資金で日米で通信網を整備するとの戦略をしめした。保有株比率を意図的に下げるもの(67%を売却 33%3分の1未満に引き下げ)。
 2013年7月には2010年12月に傘下に加えたPHS会社のウイルコムを連結子会社にする。
 つまり国内では本体のソフトバンク、ウイルコム、イーアクセス、海外にスプリントを配する体制を2013年7月に構築する。2013年3月現在の加入者数はそれぞれ、3247万 535万 431万 5521万。総計で9734万という規模である。市場の冷ややかな声は声として、この企業グループを成立させる緻密な計算、戦略の力はやはり注目されてよい。

 米携帯3位のスプリント・ネクステルは、スプリントが2005年にネクステルを買収したものだが、ネクステルの顧客の他社への流出続いている。またLTEのサービス提供で上位社に出遅れている。ベライゾン2010/12- そして AT&T2011/9-に対し、スプリントは2012/7-。スプリントはネクステルのサービスとの重複がコスト負担にもなっているが、これは2013年中に終了。
 ソフトバンクはスプリント(10月12日の時価総額172億ドル)が新たに発行する80億ドル分の新株を引き受けることを10月15日の取締役会で決定 同日発表した。米国に設立する新会社がスプリントと合併。さらに市場から120億ドル分の株式を買い取る。スプリントの7割の株式取得する。
 資金はみずほコーポ銀など大手3行とドイツ銀行から総額1兆5000億円規模の融資(低金利と円高が買収資金の環境を整備 現在の長期金利は0.7%台 1%強の金利の見込み)。手元資金と借り入れで201億ドルを投資(増資をしない戦略で株価は反発へ)。スプリント(競争激化で株価は下落していてお買い得になっていた)の70%の株式を取得するとのこと。この買収については、日米で周波数帯が違い 相乗効果はすぐに生まれないという指摘がある。
 またスプリントを通じてメトロPCSコミュニケーションズ同930万件買収を検討。
 スプリントはアップルを採用。ソフトバンクは買収により、規模拡大を実現 アップルとの交渉力を改善することができるとも。 
 ソフトバンクの経営は、投資をcash flowの範囲内で行い手元資金を厚くする、近年流行の経営手法とは真逆。リスクを取る経営は日本経済を活性化するとして賞賛する声は多いが。
 
 AT&Aは業界4位のTモバイルUSA同3320万件買収に動くがFCCが競争を阻害するとして阻止。Tモバイルの親会社ドイツテレコムはTモバイルを5位のメトロPCSコミュニケーションズとの合併を2012年10月3日に発表したばかりだった。スプリントはソフトバンクの後押しを受けてこのメトロPCSコミュニケーションズ之買収を進めている。10月18日 スプリントは出資する高速無線通信会社クリアワイヤ(米国で高速無線通信網WiMaxを展開)の経営権取得を発表 出資比率を48.1%から50.4%へ。2つの案件が実現すればソフトバンクは携帯大手2社と高速無線通信の計3社を米国で取得することになる。

 なお国内でアップル端末発売でソフトバンクと競合するKDDIは、住友商事との間でJCOM(ジャスダック上場)とJCNの統合をまとめた(2012年10月24日の取締役会で正式決定:相互販売力の強化、コンテンツ調達この相乗効果には疑問の声もあるが、相互販売力の強化、コンテンツ調達力強化などに使うとのこと)。2013年秋に統合させるとのこと。まず両者でジャスダック上場のJCOMを2200億円で完全買収して非上場会社化、その後JCNを100億円で買収するとのこと。
 これにより国内最大のCATV網、自前の光回線網で、NTTに対抗する体制を整え、また海外にシフトするソフトバンクに対しては、光回線(固定通信)と一体化したサービスでセットで割り引く囲い込む国内重視戦略で対抗をさらに強める構え(2011年にアイフォン販売を発売できるようになったことが大きい セット契約でスマホのータ通信料を割り引くサービスが好評)。
 興味深いのは投資家の反応。2012年10月24日の決算発表会での社長会見を受けてKDDI株は25日大きく上昇し年初来高値となった。これに対して、スプリントの買収発表後、ソフトバンク株は財務体質の悪化に不安を持つ投資家による売りが目立つ展開になった。 
 アイフォンのタブレットの発売開始(2012年11月)とあわせると、CATV スマホ タブレットなど端末を選ばずコンテンツ配信を可能とする体制を整えた形(11月28日にKDDIは子会社JCNと共同で、既存のテレビで多チャンネルと高速インターネットを組み合わせた「スマートテレビ」サービス提供を12月初旬から始めるとした)。これは、有利かもしれない。

Originally appeared in Nov.1, 2012
Corrected in August 26, 2015

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