玉名女子高等学校は、熊本県玉名市にある1925年に創設された女子高校です。玉名市は熊本県北部に位置し、小岱山、有明海に面しており、玉名平野には滔々と一級河川の菊池川が流れています。人口7万人弱の商業や農業、湯の町です。
学校敷地内に「日本赤十字社発祥之地」と標した記念碑が建立されていますが、これは1877年西南の役に際し、佐野常民さんが「同じ日本人同士である。敵味方の区別なく救援の手を差し伸べねばならぬ」と、この地において博愛社設立を出願し、救護班の活動を開始したことによります。
さて、今や全国のトップバンドの中でも人気急上昇のバンド、玉名女子高等学校吹奏楽部。「吹奏楽の甲子園」ともいわれる全日本吹奏楽コンクールや全日本マーチングコンテストで、最近は最優秀の受賞が続いています。
彼女たちの演奏からあふれ出る「楽しさ」、「一体感」、 そして聴いた人を一瞬で虜にしてしまう「あたたかい」歌心あるサウンドが評判です。
「吹奏楽の甲子園」と呼ばれる全日本吹奏楽コンクールで2012年から20115年までの間に3回の金賞、1989年から2011年までに4回の銅賞を受賞。楽器を演奏しながら隊形を組む全日本マーチングコンテストは、2015年まで18回出場して15回の金賞と3回の銀賞を受賞しています。
今でこそ、全国の強豪と言われていますが、そこまで行くには苦労がありました。現在、吹奏楽部の顧問を務めているのが米田真一先生。熊本県出身で武蔵野音楽大学音楽学部器楽学科(ホルン専攻)に入学し、在学中、故田中正大(元NHK交響楽団主席ホルン奏者)に師事。1992年に音楽科教諭として着任しています。翌年から吹奏楽部の指揮をして、いきなり県大会で最優秀賞のグランプリを獲得し、1994年には全国大会に出場し、銅賞を受賞しました。
しかし、それから無冠の十数年が続きました。何をどうしたらいいのかがよく判っていないままで、全国大会に行ってしまったことが原因だったと米田先生は言っています。そこから、何かを変えなければと思い、いろんな人に話を聞き、埼玉・春日部共栄高、埼玉栄高などの全国大会で金賞の学校の演奏を楽譜を見ながら聴きまくり、何が違うのかを分析してたそうです。そして、当時、春日部共栄の演奏が最も素敵に聞こえたこともあり、毎日毎日ずっと聴き続けて、そこの模倣から入ってそうです。すると、「何か玉名女子高、変わったね」と言われて、だんだん評価が高まっていったそうです。
米田先生が目指す音楽というのは、合唱のように聴こえる音楽、メロディーから言葉が聴こえてくるような音楽だそうです。楽器は金属や木の固まりだから、無機質な音になります。人は無機質なものからは温かさや感動を感じないので、楽器を通して、無機的なものを音に変えて表現することだそうです。
そして、聴いている相手が人である以上、人に親切であり、人に理解してもらうことが重要だそうです。音楽の中には標題的に捉えやすく作ってあるものと、そうでない曲があるので、自分たちで物語を作ったり、情景を考えたり、配役を作る中で、より自分たちに身近に、音楽に有機性を持たせた形で演出をすることで、しっかりと動機付けをして音楽作りに入るのが、玉名女子高校の音楽作りの特徴になるといいます。
金賞を取り始めて、周りから言われることは「情景が浮かんできます」「森のにおいがします」「木のにおい、緑のにおいがします」とのこと。「自分たちが意図して作り上げ、イメージしてきたものが、感動していただいた時に、たまたま金賞に結びついているんだろう」とのことです。
一人一人が短い時間の中で質を重視して練習しているそうです。朝は7時45分に合奏室に集合しているそうですが、これは練習のためではなく、練習の準備や環境を整えるため。この時間で合奏室の掃除と楽器の手入れを行っています。練習は放課後の16時過ぎから19時までの短い時間の中でしています。
また、通常の部活動ですと、一年生が一番動かなければいけなく、一番気を使わなければいけないのですが、これをひっくり返しているそうです。逆に三年生が一番きつい思いをして、一年生が一番優遇される部活動というのを心がけているそうです。要するに一番弱い人間に、一番つらいことを最初からさせるというのはどうかなということです。三年生は卒業した後は社会人になる訳ですから、一番つらい思いをした後に社会人一年生になっていく方がスムーズに活躍出来るのではないかなと思っているそうです。
そして、すべての時間を生徒と一緒に費やすようにしているそうです。どれだけ時間をかけたか、どれだけ手をかけたか。現場にいて、どういう手立てをしてあげることによっていい演奏につながっていくんだということを、生徒と一緒に悩み苦しまないと、いい演奏は出てこないと言います。
それだけ、かなりの時間をかけて音楽を作っていかないと出来上がらないということで、コンクールに出ることについては、「正直命がけ」だそうです。やる以上は言い訳はしないこと。「もう少しやれば出来たな」とか「今年は40%くらいで県大会で金賞をとれるくらいで作ろう」とか、そういう音楽に失礼なことは絶対にしてはいけない。「出る以上は100%、出ないんだったら0%」といつも言っているそうです。
確かに100%の力を費やすには覚悟が必要です。ただし、それには100%以上の準備をすることだと思います。その準備が出来なければ、本番で100%の力を発揮することは出来ません。結果的に本番で上手く行かなかったとしても、100%以上の準備をしてきたことが、これからの自信にもなり、反省にもなることですからね。
玉名女子高校吹奏楽部の歌声が聴こえてくるような、人間味あふれる音楽が再び聴かれる日が早く来てくれたらいいですね。
きっと、熊本県民の方々が安心して聴いていられる日が来てくれると信じています。