現在、日本においては外国からの侵略やテロ、騒乱などの有事や、大きな自然災害、事故など日本としての独立と安全における危機や国民の生命、財産が脅かされる重大で切迫した事態に対応するための基本的な法律がありません。
朝鮮民主主義人民共和国による不審船領海侵犯(1963年)、核兵器開発疑惑(1986年)、ミサイル発射(1993年)、核実験(2006年)や、地下鉄サリン事件(1995年)、9・11事件(2001年)などのテロ事件、イラク戦争(2003年)以降に議論になった同盟国責任問題など、危機管理のための有事法制が2003年に成立しました。ただ、国家緊急権の行使としての緊急事態基本法を2005年の通常国会で成立する予定でしたが、衆議院解散、総選挙によって実現していない現状です。
以前、国会で新型コロナウイルスをめぐる現状について、安倍晋三首相は、自治体による外出自粛の指示などが可能となる「緊急事態宣言」を出すような状況ではない、との見解を示していました。
「(現状は)緊急にさまざまな対応をしなければいけない事態ではありますが、法的に『緊急事態』であるかどうかということについては、感染のスピードが急速に拡大しているということではまだないわけでございまして」(安倍首相)
ところが、今度は今後、新型コロナウイルスの感染が急速に拡大し、重大な影響が出そうになった場合、「緊急事態宣言」を出して、外出自粛の指示などの強い措置を取れるようにするため、「新型インフルエンザ等特別措置法」の早期改正を目指しています。
こんな混とんとした状態ですので、整理された情報も発信できないのは当然のことかもしれませんが、時々刻々と状況が変わって行く中で、私個人はすでに緊急事態ではないかと思います。
ちなみに、2020年2月28日に北海道の鈴木直道知事が外出を控えるよう発表したのも「緊急事態宣言」ですが、こちらは現状では法的な拘束力のない要請や住民への注意喚起にすぎません。
先日の与野党党首会談を終えた後のそれぞれのコメントはこうなっています。
「まずは緊急事態宣言を出さなくてもいいように、これを抑え込むことが政府の責任ですよねと申し上げたうえで、安易な緊急事態宣言は避ける必要があると。私権制限が非常に大きい。万が一にも適用する場合は、事前にその必要性についての科学的根拠や解除する場合の要件などを事前に示して、それに対する質疑の時間をちゃんと確保する必要がある」(立憲民主党・枝野幸男代表)
「国家的な危機にあっては与党も野党もないわけであります。お互いに協力をして乗り越えていかなければなりません。政府としても野党の皆様にお願いすべきは率直に、これからも協力をお願いをしていきたいと考えています。特措法においては緊急事態宣言が発動できるということになっているわけでございますが、それはまさに最悪の事態を想定してそれを行うということでございます」(安倍首相)
改正しようとしている新型インフルエンザ等特別措置法は、旧民主党政権時代の2012年に成立したものです。日本政府が「緊急事態」を宣言すれば、都道府県知事が住民に外出自粛のほか、学校や運動施設、映画館など多くの人が集まる施設の使用を制限するよう要請できます。
ただし、罰則はなく、すべての感染症には適用していません。よって、日本政府は新型コロナウイルス対策で同様の措置を準備することで、感染拡大封じ込めの切り札になると期待しているのでしょう。
さて、仮に日本政府から「緊急事態宣言」が出された場合、私たちの暮らしはどうなるのでしょうか。そして、そもそもこれは必要なのでしょうか。
今まで安倍首相は、イベントの自粛や休校などを要請してきましたが、この宣言によって「要請」から、段階的に「指示」などに、より強められることになります。
現在の特措法の条文を元に、生活に影響が大きそうなところをまとめてみると次のようなことが考えられるでしょう。
■外出自粛の要請
都道府県知事は、「生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないこと」を期間と区域を決めて住民に要請できる。(第45条)
■学校、社会福祉施設、イベント会場の使用制限
都道府県知事は学校、社会福祉施設、興行場(映画、演劇、音楽、スポーツ、演芸などの施設)の管理者に対し、施設の使用制限もしくは停止を要請できる。また、イベントの主催者にイベント開催の制限もしくは停止を要請できる。(第45条)
■臨時医療施設のための土地使用
都道府県知事は、臨時の医療施設を開設するため、土地、家屋または物資を使用する必要があると認めるときは、当該土地等の所有者および占有者の同意を得て、当該土地等を使用することができる。(第49条)
■医薬品や食品など物資の売渡しの要請
都道府県知事は、緊急事態措置の実施に必要な物資(医薬品、食品その他の政令で定める物資に限る)であって生産、集荷、販売、配給、保管または輸送を業とする者が取り扱うものについて、その所有者に対し特定物資の売渡しを要請することができる。正当な理由がないのに要請に応じないときは、特定物資を収用することができる。(第55条)
■生活関連物資等の価格の安定
指定行政機関の長らは、国民生活との関連性が高い物資などが価格の高騰や供給不足が生じたり、生じる恐れがあるときは、法令の規定に基づく措置などを講じなければならない。(第59条)
日本では強硬な対応はないと思うのですが、緊急事態宣言で事実上禁止することも可能になりますので、スポーツの無観客試合についても開催は微妙だと思います。
このように、緊急事態宣言が可能になることで、即実性のある対策が行える一方で、さまざまな制限につながることもあります。
すでに法案は3月12日に開かれる衆議院本会議で可決されて、参議院に送られました。
安倍首相や専門家会議は、「この1、2週間が瀬戸際だ」との認識を示していますが、それからすでに1週間。将来への備えなのでしょうか。現実に対しては手遅れになる恐れだってあると思います。
日本政府が新型コロナウイルスにどのように対応するのか、そしてそのなかで国民の生活と権利、健康をどのように守っていくのか、日本国民ならず、海外からも注視され続けています。