「クリスマスソング」は、2015年11月18日にリリースされたback numberの14枚目のシングルです。フジテレビ系ドラマ月9「5→9〜私に恋したお坊さん〜」主題歌に使われました。10代、20代の「好きなクリスマスソング」のNo.1です。
この曲をBGMに、この物語をお読みください。
昔々、遠い国のある町に、大きな教会が立っていました。日曜日になると、町の人たちはみんな、この教会に出かけました。
教会の中には、大きなオルガンがあって、その音は、遠くまでよく聞こえました。
この教会の高い高い塔の中に、クリスマスの鐘というのがありました。
世界中で一番美しい音で鳴る鐘なのだそうですが、誰もこの鐘の音を聞いたことがありませんでした。この鐘は、クリスマス・イブによいささげものをしたとき、神様が鳴らして下さると言われておりました。
さて、この町からずーと離れた所に、小さな村があって、そこに2人の仲の良い兄弟が住んでいました。お兄ちゃんの名前はペドロ。弟の名前はアントニオと言いました。
ペドロ 「ねえ、おじいちゃん、どんな教会なの」
おじいさん「それはそれは大きな教会でね。日曜日には沢山の人たちがやってくるし、大きなオルガンに合わせて讃美歌を歌うときなんぞ、もう胸がわくわくしてな」
アントニオ「おじいちゃん、ボクも行ってみたいよ。ね、ペドロにいちゃん」
ペドロ 「そうだな、アントニオ。行ってみたいな。ねえ、おじいちゃん、行ってもいい?」
おじいさん「もっと大きくなってからだ」
2人は、おじいさんからこの大きな教会の話を聞くたびに、一度でいいからその教会に、それもクリスマス・イブの礼拝に出てみたくてたまりませんでした。
その年もクリスマス・イブがやってきました。おじいさんに黙って行くのはよくないと思いましたが、ペドロとアントニオは、思い切っておじいさんに内緒で出かけることにしました。その日は、雪が降っていて、とっても寒い日でした。
アントニオ「おにいちゃん、その教会はものすぐくきれいなんだってね」
ペドロ 「アントニオ、そうだって。今から胸がドキドキしちゃうよ」
アントニオ「でも、おにいちゃん、ささげものがないよ」
ペドロ 「大丈夫だ。少しずつためたお小遣いがあるんだ。ぼくたちにはこれが精一杯だ。それよりアントニオ、寒くないか」
冷たい風に吹かれて、長い道を歩くのは、とてもつらいことでした。2人は手をしっかりつないで、一生懸命に歩きました。
やがて、町のあかりが見えて、もうじき町の門です。
その時、2人は、雪道の上に、何か黒いものあるのに気が付きました。
アントニオ「おにいちゃん、あれ、あれはなあに? 人、人じゃない?」
ペドロ 「まさか、こんな雪の中に……アントニオ、女の人だよ。ちょっと手を貸して」
アントニオ「あっ、もう冷たいよ」
ペドロ 「いや、大丈夫だ。暖めればいいんだ」
アントニオ「おばさん! おばさん!」
ペドロ 「おばさん! ねむっちゃだめだ!」
アントニオ「おばさん! 起きて! 起きてよ!」
ペドロもアントニオも、一生懸命になって、おばさんの体をゆすったり、さすったりしました。
アントニオ「おにいちゃん、教会の礼拝がもう始まるよ」
ペドロ 「うん、わかってる」
ペドロはしばらく考えていましたが、やっと弟に言いました。
ペドロ 「アントニオ、お前一人で教会に行ってくれないか。この人をおいて行くわけにはいかないよ。なんとか目をさまさせて、ボクのポケットのパンを食べさせようと思うんだ」
アントニオ「いやだよ! 僕一人だけで行くのはいやだ」
ペドロ 「そんなことを言っていたら、二人ともクリスマス・イブの礼拝に出られないじゃないか」
ペドロは、ポケットの中から銀貨を取り出して、
ペドロ 「アントニオ、これを持って行くんだ。教会の祭壇の所に、誰にも見られないように、そうっとこれを置くんだ。これは僕たちのささげものなんだ。さあ、早く行っといで。戻ってくるとき、誰かを連れて来ておくて。一緒に行けなくてごめんよ」
アントニオはうなずいて、一人で教会の方に急いで歩き出しました。
教会に向かって歩いて行くアントニオの姿を見ているうちに、ペドロの目から涙がこぼれて来ました。 あれ程出たかったクリスマスのお祝い、折角ここまで来たのに、一人で冷たい暗闇の中に残ることになってしまったのです。
さて、この年のクリスマス・イブの礼拝は、本当にすばらしいものでした。今までで一番明るく、きれいだと、みんなが口々に言っているのを、アントニオは聞きました。アントニオは、目を丸くして、教会の中を見回しました。
こんなに大きくて、立派な教会は初めてだったし、オルガンに合わせて、みんなが歌い始めると、町の外にまで響き渡るようでした。
牧師先生のお話が終わると、大勢の人たちが祭壇の前に列をつくりました。ささげものをするためです。
お金持ちは、すばらしい宝石を持ってきました。ほかの人は、黄金をかごにいっぱい持ってきた人もありました。小説家は、自分の書いた本をささげました。
王様は、自分の冠をとってささげました。そうすればクリスマスの鐘を鳴らすことができると考えたからです。
ほかの人たちも、これまでになかった立派なささげものを見て、きっと鐘は鳴るにちがいないと思いました。
でも… 聞こえるのは、冷たい風の音だけでした。
今年もまた、あの鐘は鳴らなかった…。みんなが心の中で思っていました。
ささげものの行列が終わって、聖歌隊が最後の讃美歌を歌い始めたときです。オルガンを弾いていた人が手を止めました。
みんなの目が祭壇のわきにいる牧師を見つめました。牧師は手をあげて「静かにっ!」という合図をしました。
教会の中は、誰もいないかのように静かになりました。
かすかに、本当にかすかに、けれどもはっきりと、高い高い塔の上から、鐘の音が響いてきました。鐘の音は、だんだんと大きく、美しく、遠くまで響いて行きました。
やがてみんなは夢からさめたように立ち上がり、祭壇の方に目を向けました。
そこには、一人の小さな男の子がしゃがんでいました。
アントニオ「ぼく、おにいちゃんから預かった銀貨を一枚、神さまにささげただけだよ」
(お兄ちゃんの助けてあげたあの女の人は、きっと大丈夫だろうな)
贈り物というのは、高価なものであればいいというものではありません。
たとえ、高価なものではなくても、贈る人の心がこもっていればいいのです。
メリークリスマス