「run for money 逃走中」は、2004年からフジテレビ系列で不定期に放送されているバラエティ番組です。
限られたエリアの中で、ハンターと呼ばれる追跡者から逃げた時間に応じて賞金を獲得できるゲームです。ゲーム時間を最後まで逃げ切れば高額賞金が手に入ります。また、ゲーム中には逃走者にミッションが与えられ、クリアすればゲームを有利に進められたりします。
今年は2020年1月5日(日)19:00~21:00に「逃走中~ONE TEAM VS 新型ハンター」として、東京・沿岸エリアにある巨大商業施設で、番組初さまざまな新型ハンターが登場し、それぞれの性能を生かした仕掛けがミッションとして発動するそうです。
さて、2019年は保釈中の逃走中ニュースが目立ちましたが、年末最後の最後で、まるでハリウッド映画のような逃走劇がありました。金融商品取引法違反と会社法違反の罪で起訴され、保釈中うだった前日産自動車会長カルロス・ゴーン被告が日本時間2019年12月31日、米国の代理人を通じて声明を発表し「私は今レバノンにいる」と明らかにしてから、普段は(そこそこ)抑制のきいた日本のメディアも一様に卑劣と非難し、大きく取り上げています。おそらく、今年のTVニュース放送時間のトップ10にランクインしてくることでしょう。
保釈に関しては検察側が世界に強力な人脈を持つことから被告には逃亡の恐れがあると反対していましたが、ゴーン被告自身が裁判で身の潔白を証明したいとの意志を示し、東京地裁が保釈を決定しました。また、弁護団は、被告ほど顔の知られた有名人が気付かれずに逃げることは不可能だとも主張していました。
ただ、結果的には保釈決定は軽率だったということになりますし、出入国管理の根幹を揺るがす事態でもあり、日本の司法もなめられたものだと思います。
そもそも、これほど簡単に出国できるものなのでしょうか。通常、日本から出国する際には、空港などで、チケットと一緒にパスポートを提示して出国審査を受けます。この際などに手配者のデータベースとヒットすると、自動的に検察に通報され、入管で足止めされるシステムになっています。これは「国際海空港手配」と呼ばれています。ただ、検察と入国管理局(入管)は同じ法務省管轄でも別組織ですから、検察が入管に手配を依頼し、連携がなければそのまま通過されてしまいます。
また、各国で「事前旅客情報システム」が導入されていて、搭乗券を購入する際に航空会社に氏名、性別、生年月日、国籍、居住国、パスポート番号、有効期限や発行国などの情報を登録することが求められています。その情報が航空会社を通じて入管に伝えられ、出国する航空機へのチェックインが確認されると、空港警察の捜査員が逃走者を待ち構えるというカラクリになっているそうです。
そこで、その裏をかいて養子縁組などの方法で氏名を変更するといった場合が実際にあるようです。国によっては、その国への投資額などに応じてパスポートを発給してくれるところもあるということで、国籍や氏名を変えるといった、まさに映画のような手段をとる逃走者もいるようです。ただ、パスポートには写真データがあり、パスポート取得時に入管に届けられていることで、氏名や国籍などがデータベースの情報と食い違っていても、風貌が似ていると、足止めされる場合もあります。私は、どこからどうみても善良な一般市民ではあるのですが、過去にインドネシアと香港の入国審査でなぜか足止めされたことがあります。
そのため、日本では監視の目も手薄になりがちな、お盆、ゴールデンウィークや年末などの出国ラッシュで空港がごった返すような時期が狙いめでもあるのです。
さて、ゴーン被告は保釈中でもあり、海外渡航が禁止されており、発行済みのすべてのパスポートを弁護人が預かる条件となっていますので、このパスポートを使って出国しようとすると、弁護人の協力を得る必要があります。しかも、検察にも把握されているパスポートですから、当然のことながら入管で足止めされます。ただ、ニュースではフランス発行のパスポートを2通持っており、そのうちの1通は身分証明のために、鍵付きケースで所有していたとのことです。ただし、このパスポートは使われず、正式な出国履歴はなかったとのことです。
ニュースではクリスマスディナーの音楽隊を装った協力者が楽器箱に隠して、(手荷物検査を受けないという外交特権を利用して?)出国させた可能性が高いと思います。そのためには、日本内外に「ONE TEAM」として、相当数の協力者がいたはずで、事前に綿密な計画が立てられていたことだとも思えます。
ただ、ゴーン氏がレバノンで大統領と面会し、政府の警護を受けていると報じられていたり、レバノンの国務相は、「彼(ゴーン被告)はフランスのパスポートとレバノンの身分証をもって合法的に入国した」と説明し、レバノンの治安当局も、「レバノンに合法的に入国した人物については、法的措置の対象にならない」との見解を示しています。
これで、日本と微妙な立場に立たされてしまうのがフランスでしょう。フランスとレバノンは緊密な外交関係にあり、フランスはゴーン被告がレバノンにとどまる間何らかの支援を行う義務があり、それに自動車メーカーのルノーと日産を巡って、ルノーの筆頭株主であるフランス政府としては、重要な製造業を守ろうとする中で、日本と対立することは大きな懸念材料となるでしょうし。
今後、検察は警察の協力を得たうえで、銭形警部で有名な国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)を介して、加盟各国に逃走者の探索などを要請する国際手配をすることでしょう。もちろん、レバノンも加盟国です。日本が他国との間で逃走者の身柄を相互に引き渡すことは、「犯罪人引渡条約」と「逃亡犯罪人引渡法」で可能です。
しかし、日本が引取条約を締結しているのは米国と韓国だけ、引渡法はそれ以外の国とのやり取りをカバーするために制定された法律であり、他国からの要請に基づいて他国に引き渡す際の手続を定めており、相互保証という考えに基づいているので、お互いに請求に応じる場合でなければならりません。しかも、引取条約は「1年以上の懲役・禁錮に当たる罪」、引渡法は「3年以上の懲役・禁錮に当たる罪」でなければなりませんし、引渡法は自国民の引き渡しは認めていません。
そのほかに相手国の法令に当てはめても犯罪を行った証拠を相手国に示さなければならず、相手国の言語で正確に翻訳し、依頼文書を作成し、外務省を通じて外交ルートで相手国の関係機関に交付する手間もあります。現に日本が他国から逃亡犯罪人の引渡しを受けた件数は、年間0~数人程度だそうです。
ということは、レバノンが自国民であるゴーン被告を日本に引き渡すことなど考えられません。特にレバノン大統領が面会したという報道が事実であれば、まさに国と国との外交問題となり、検察や警察の手には負えないレベルの話です。それ以外の国も、どれだけ日本のために本気になってくれるかです。
日本国外に逃走した者にとってのデメリットは、国外に滞在中はいつまでたっても時効が完成せず、事件を引きずることになります。ただし、特別背任罪や金融商品取引法違反の一審は被告人が出席しなければ裁判を進めらませんし、判決も言い渡せない決まりだそうです。よって、裁判手続は打ち切りとなり、日本でゴーン被告の姿どころか、裁判が開かれる可能性も乏しくなることでしょう。
地球という限られたエリアではあるものの、アジア~中東~欧州という広大なエリアの中で、日本警察・検察というハンターから逃げた時間に応じて、自由という名の賞金を獲得させてしまうのでしょうか。
ちなみに、ニュースなどでは「逃亡」とされています。語感的には「逃走」よりもいいのですが、「身を隠している」という感じでもないので、「逃走」でもいいのでは?と思っています。
■ とう‐そう〔タウ‐〕【逃走】 の解説
[名](スル)にげること。にげ去ること。遁走(とんそう) 。「その場から逃走する」
■とう‐ぼう〔タウバウ〕【逃亡】 の解説
[名](スル)
1 逃げて身を隠すこと。「犯人が逃亡する」「敵前逃亡」
2 律令制で、本籍地・任地から他郷へかってに離れること。
どうでもいいことですが、これでカジノを中核とした日本の統合型リゾート(IR)を巡る汚職事件で、収賄容疑で逮捕された秋元司衆院議員の保釈の可能性は、ほぼ不可能に近くなったことでしょう。