2019年1月22日、日本野球機構(NPB)と労組プロ野球選手会の事務折衝のなかで、丸佳浩選手(読売ジャイアンツ)、秋山翔吾選手(埼玉西武ライオンズ)が選手代表として出席し、「ブレークスルードラフト(仮称)=現役ドラフト」の導入を要望しました。
その後、オールスター第1戦が行われた7月12日の試合前に選手会臨時総会が開催され、炭谷銀仁朗会長(読売ジャイアンツ)をはじめ、12球団の選手会長・副会長36人が集結し、現役ドラフトの導入に向けて、NPB側から前向きな回答と具体案が示されたことを明らかにしました。
選手会が現役ドラフトを最初に訴えたのは2017年で、12球団の選手会に導入の賛否を問う意識調査を実施。結果、ほとんどの賛同を得て、翌2018年にNPBとの事務折衝で現役ドラフト導入を提唱。これに対し、NPB選手関係委員会は、「選手会に具体案があれば検討する」と回答し、その後、両者の間で協議と交渉が進められ、早ければ来年、遅くても再来年から実施されるのではないかと思います。
通常のドラフト会議ではNPBに所属していない/したことのない選手を12球団が指名しますが、現役ドラフトは各球団にいる出場機会の少ない選手を他球団が指名する場を設けて、移籍先で出場機会が増えるようにするための制度です。例えるならば、「埋もれてヒットしなかった名曲を、売れている歌手によってヒットさせよう」という感じでしょうか。
原型はMLBの「ルール5ドラフト」です。名称の由来はMLB規約の第5条に規定されていることからです。
これは毎年12月のウインターミーティング最終日に行われ、MLBの40人枠(選手登録枠)に空きがあるチームのみ参加可能で、その年の優先権のあるリーグでレギュラーシーズン勝率の低いチームから指名権が与えられます。
対象はメジャー契約40人枠(エクスパンデッド・ロースター)に入っていない選手で、18歳以下入団で在籍5年以上、19歳以上入団で在籍4年以上の選手がドラフト指名できます。このため、ルール5ドラフト実施前になると多くのチームがロースターの再編成(指名されたくない自軍選手とメジャー契約を結んで40人枠に登録し、代わりに何人かをDFAなどにする)を行なう傾向があります。
また、指名選手を獲得した球団は選手の旧所属球団に10万ドル(約1080万円)を支払うことが義務づけられており、獲得選手を翌年のシーズン全期間でベンチ入り25人枠(アクティブ・ロースター)に登録しなければならない決まりになっています。
本当に指名があるのかどうか、二の足を踏みそうな条件ですが、過去には、この制度でサイ・ヤング賞投手となったヨハン・サンタナさん(元;ニューヨーク・メッツほか)、シルバースラッガー賞を受賞したダン・アグラさん(元;ワシントン・ナショナルズほか)など、脚光を浴びた選手も多くいます。
米国では毎年このドラフトが近づくとファンやマスコミが「今年の目玉候補」を予想し、さらにMLB公式サイトではライブ配信されており、定着している制度です。韓国プロ野球KBOリーグでも導入されており、こちらは2年置きに実施しています。
プロ野球は実力の世界ですから、一軍およびレギュラーは自分の力でつかみ取るものです。それでもチーム事情によって、なかなかチャンスをもらえないという現実もあると思います。過去には鉄平さん(土谷鉄平さん。現;東北楽天ゴールデンイーグルス一軍バッティングコーチ)が、中日ドラゴンズからイーグルスへ移籍し、首位打者を獲得したことがあるように、環境が変わってレギュラーポジションをつかみ、大成する可能性もあり、現役ドラフトで指名されたことをきっかけに道が開ける場合も十分あり得ると思います。
ちなみにNPBでは過去にも同様の制度が導入されていましたが、短期間で消滅しています。1970年~1972年に行われた「トレード会議」と1990年~1991年に開催された「セレクション会議」です。
セレクション会議では各球団がリストアップした選手を非公開だったこともあり、「選手を出し惜しみしている球団がある」「戦力外同然の選手しか出ていない」などの批判があったり、他球団のリストが漏れて(「桜を見る会」のリストは出てきませんが)、一部マスコミから「機密漏洩」と報じられる騒動も発生したりして、立ち消えてしまいました。
実現に向けた課題は多く、毎年開催するのか、2年に1回などの隔年にするのか。時期もシーズン中やシーズンオフなどのプランがあり12球団はもちろん、選手会側にもいろいろと意見があるでしょうし、簡単に導入できる制度ではないと思います。
それに、チャンスがあったとしても、対象になる選手の心情的な問題もあるでしょう。これは、通常のドラフトでも同じかもしれませんが、指名対象選手となったものの、指名されなかった場合です。シーズン中に開催された場合、指名対象選手に対する早い時期の戦力外通告のような形になってしまう可能性もあると思います。
サッカーJリーグは球団間のレンタル移籍など、出場機会に恵まれない選手の救済措置を設けており、NPBではどのような形になるのか、今後の展開に注目ですが、長続きのするシステムにして欲しいと思います。