忘憂之物

男はいかに丸くとも、角を持たねばならぬ
             渋沢栄一

提灯ジャックの嘆き

2012年10月28日 | 過去記事



近所のスーパーに買い物に行くと、野菜売り場に巨大なカボチャ、それをくり抜いて目や口になっているディスプレイがあった。「ハロウィン」だ。テレビを見ていると、阿呆な女子アナなどが「キリスト教の伝統行事であるハロウィン」とか言っているが、これは間違い。元々はケルト人の「サウィン祭」に由来する。収穫祭みたいなものになる。

ケルト人の1年は10月31日に終わる。この日は霊が家族に会いに来る。

この感覚は日本人にもわかりやすい。日本では「盂蘭盆会(うらぼんえ)」になる。まあ「お盆」のことだが、日本人はこのとき「迎え火」を焚いて御馳走を用意する。旬の果物や野菜をお供えする。それから「送り火」で帰ってもらう。盆踊りもするし「精霊」としてナスやキュウリで馬と牛をつくる。来るときは馬で早く来てください、帰るときは牛でゆっくり帰ったらよろしいじゃないですか、というのが日本的だ。

アングロサクソンは違う。せっかく帰ってきた霊をカボチャで脅かして立ち去らせようとする。子供らは家族の霊や精霊、一緒に出てくる魔女を追い返すために怖いジャックランタンを作る。それから自分らも悪魔や魔女に扮して「トリック・オア・トリート(お菓子くれなきゃ、いたずらするぞ)」と言いながら余所の家を回る。この発想は教育上、あまりお勧めできない。

テレビでは嬉しそうに「ハロウィン」を取り上げるが、そもそもキリスト教は一神教だ。その「伝統行事」がペイガニズム(多神教)に基づく「サウィン祭」なわけがない。要するに意味もわからず、単純に馬鹿騒ぎの理由とされている。だから過半以上の日本の子供は反応が薄い。日本人には直感的に胡散臭さを嗅ぎとる能力が備わっている。

しかし、日本には胡散臭いモノが大好きという変態がいる。朝日新聞だ。だから「天声人語」は浮かれている。

<いつの間にか、という表現がぴったりする。ハロウィーンの日本への浸透ぶりだ。この季節に商店街を歩くと、あちこちからお化けカボチャが笑いかけてくる>

堕落して死んだ男の彷徨える魂。天国にも行けず、悪魔との契約で地獄にも行けず、悪魔の石炭に火を燈し、ランタン片手にこの世を迷える邪悪な顔をして<笑いかけてくる>と無邪気に喜ぶのは朝日新聞も同じ心境、境遇だからか。

ま、ともかく「天声人語」は<もとは悪霊を追いはらう行事でもある。米国では「コミュニティーのお祭り」の色合いが濃い。日本でも、地域など、子どもを育む共同体で楽しめば、つながりも深まろう>と誰にでも書けそうなところでオチとする。たぶん、飲みに行く時間だった。また最近、こんな阿呆みたいなコラムを「書き写す」という奇妙な「脳トレ」もあるようだが、馬鹿にするならともかく、有り難がって書き写すなど困ったものだ。させるほうも阿呆だが、するほうはもっとアレだ。気をつけたい。

そんな朝日新聞もお勧めの「ハロウィン」だが、いまのところ我が家に「お菓子くれないとなんかするぞ」という阿呆餓鬼は来ていない。「天声人語」は<日本でも、地域など、子どもを育む共同体で楽しめば>と言うも、先に言った通り、日本には地蔵盆とか、いろいろある。わざわざオレンジ色のカボチャをどうにかしなくてもよろしい。


それからアメリカでは怖いこともあった。2000年のハロウィン。黒人俳優だったアンソニー・リーはハリウッドの仲間らとパーティ会場にいた。アメリカのテレビドラマ「ER」とか、映画「ライアーライアー」にも出ていた俳優さんだが、アンソニーは苦情を受けて会場に来た警察官に水鉄砲を向けて射殺された。会場には「警察官のコスプレ」もいた。

パーティ会場の周辺を懐中電灯で照らした警察官を本物と知らず、玩具を向けたら9発の弾丸が飛んできた。しかしながら、アメリカで警察官に銃を向けるという行為はそういうこと。つまり、警官は無罪。日本なら警察官は裁判で有罪にされるが、そこはアメリカ。アメリカ人にも、これは仕方がないとわかる。「銃が悪い」とか阿呆もいなかった。

しかし、その8年前のハロウィン。ルイジアナ州で日本人高校生(当時)だった服部剛丈さんが射殺された。16歳だった。

訪ねた家はパーティ会場の隣、ロドニー・ビアーズの自宅だった。服部さんは白のタキシードに黒のスラックス姿。「サタデーナイトフィーバー」のジョン・トラボルタのコスプレだった。後ろにいた友人、ウェブ・ヘイメーカーは包帯ぐるぐる巻きの衣装だった。

服部さんは呼び鈴を鳴らすが、なにも反応がない。間違ったのか、と思っていると、カーボートのドアがバタンと閉まった。やっぱり違う家じゃないか、と車道に戻る途中、今度はカーボートのドアが開いた。ビアーズは44マグナム装填銃を取りに行っただけだった。

そのまま立ち去ればよかったのだが、服部さんは「パーティに来たんです」と歩み寄ってしまう。車道にいた友人、ウェブは銃が見えた瞬間、戻れ!と叫んだ。ビアーズも「Freeze!」を言った。でも、服部さんは微笑みながら、もう1歩進んだ。

服部さんは玩具の銃も持っていないのに、距離2.5メートルの至近距離から、44口径(11.2mm)リボルバー用実包のマグナム弾を胸に受ける。大型銃の愛好家はともかく、本来はクリズリーを1発で仕留めることが出来る大威力の銃だ。マトモに喰らったらどうしようもない。胸部に大穴を開けた服部さんは出血多量で死亡した。最後、友人のウェブになにか言ったがわからなかった。たぶん、日本語だった、とウェブは言った。

ビアーズは逮捕されるが、同州の東バトンルージュ郡地方裁判所では12人の陪審員、全員一致で無罪判決が出た。弁護人は最終弁論で「だれでも玄関のベルが鳴ったら銃を手にしてドアを開ける権利がある。それがこの国の法律だ」と言った。たしかにルイジアナ州法では「屋内に侵入した相手」は射殺しても良いことになっている。正当防衛が認められる。しかし、服部さんは「屋内」に入っていなかった。それがマンスローター(計画性のない殺人)すら認められなかった。日本で言えば「傷害致死罪」にもならなかった。

このあとビアーズは民事で裁かれる。そこでは銃の愛好家でアル中とか、近所の野良犬を射殺して遊んでいた狂人だとか、いろいろと真実がバレてくる。それにビアーズは「ナイツ・オブ・KKK」のメンバーだった。ルイジアナ州には本部がある。ユダヤ人や黒人、有色人種は「神のたたり」だとする連中だ。つまり、白人至上主義の差別主義者だった。

オスプレイやら米軍の暴行事件で「米軍は沖縄から出ていけ」と叫ぶ朝日新聞が、アメリカの<コミュニティーのお祭り>を持ち上げて喜んでいる。普通に読めば、これはナニかある、と怪しむのも仕方がない。ジャックランタンの別名は「提灯ジャック」。朝日新聞は五星紅旗の提灯を持ってしばらく経つが、ジャックランタンの名誉のために書いておくと、このカボチャは「道案内」だけはちゃんとするそうだ。迷える旅人を騙して左の方へ、北京や平壌に誘う朝日新聞と違って役に立つこともある。




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