忘憂之物

キリンやゾウも危ないとか

「右の頬を打たれれば、左も向けなさい」という言葉はキリスト教徒でなくとも知っている。「山上の垂訓」だ。イエスが弟子たちに山で説教をした際の言葉らしいが、ここに憲法9条信者が好みそうな美しい言葉もある。一応、書いておこう。

「剣をとる者は、剣にて滅ぶ」だ。「なんちゃって平和主義者」レベルに合わせると「暴力はダメよ、ダメなのよ」となるが、普通のレベルで話せば「暴力の連鎖」を戒めるための祈願となろう。非抗戦をメインとする無抵抗主義を意味する。「非抗戦」とは「非暴力」とは似て非なり、後者は「とりあえず暴力は使わない、暴力に暴力で対処しない」という口約束程度の意味ともなる。紳士協定みたいなものかもしれん。つまり、破られることもある。しかし、前者の「非抗戦」とは、暴力に対する暴力による抵抗を放棄しているだけではなく、その暴力自体を受け入れるという行動が伴う覚悟のことである。

暴力を甘受する集団のことを「クエーカー」と呼ぶ。クエーカーたちは投獄されても処刑されても、それを信仰の証として受け入れる。初期のキリスト教における「暴力による報復の断念」はローマ帝国の弾圧にも耐えてみせ、ついには皇帝すら改宗させてしまうほどの影響力を誇った。また、ちなみにガンジーの非抗戦思想はヒンズー教でいうところの「アヒンサー」というらしいが、これを日本の憲法9条信者や似非平和主義者は混同するから馬鹿だと笑われる。

臆病や卑怯からなる安易な「暴力反対」は、いわば「暴力以外ならば何でも使ってもいい」わけだから、例えばそれはフランスで「ストライキ闘争」を生んだ。「座り込み」となった。時代が変わるにつれ、それらはもっと劣化して腐敗した。「人権至上主義」や「弱者至上主義」など、今、日本で蔓延している安モンの価値観がそれだ。世界広しといえども、未だに何でも「話せばわかる」と信じているのは日本の「良心的勢力」だけである。「何をしても良いが暴力だけはダメ」という「非暴力原理主義」だ。「どんなことがあっても暴力だけはダメ」だという「暴力反対主義」である。もしくは「話していれば殴られない」という相手の善意に身勝手な期待感を隠さぬ、情けないを通り越した危険な概念である。

それは実に単純な差異だ。

それは「使わない」のか「使えない」のか、ということに尽きる。そして、世界標準の「非暴力」とは「使わない」であり、日本の憲法9条のように「使えない」状態で安堵するような変態は非常識なのである。「使わない」には覚悟がいる。決意がいる。それは「使う」と同様、命を賭する覚悟である。常識的な議論をするならば、それはガンジー的な「非抗戦」か、キリスト教的な「非暴力」なのか、であり、何をされても暴力は永遠に放棄します、という日本的な「暴力反対」は国際常識では通じぬ阿呆の理屈であるということだ。

話は少しだけ逸れるが、「地球は丸い」と知っていたが、同時に「それは小さいものだ」とも信じていたコロンブスはバハマ諸島が無ければ死んでいた。月に照らされる白い砂浜を発見し、これで国王から褒美がもらえると喜んだロドリコという船員に「それはもう、オレが昨日発見した」と部下の手柄を横取りしたコロンブスは、この島から香辛料が手に入ると思った。カリブ海にある島を巡ってハイチには黄金があるとも信じた。喜んだコロンブスは39人の部下を残してスペインに戻った。「新大陸発見」である。

スペイン宮廷に出された報告書には先ず「我々はアジアへ到達した」との大ウソを書き、確認も取れていない黄金と香辛料が豊富だと書いた。で、その最後の一文にはこう書いた。「国王陛下と女王陛下が御所望されるだけの奴隷もおります」・・・アラワク族のことだ。

アラワク族はコロンブス一行を歓迎しもてなした。インド諸島にすむ人々、すわなち「インディアン」と名付けられた人々には、大地の精霊から授かった糧は「分かち合う」という「掟」があった。西ヨーロッパから来た金銭欲丸出しの「奪い合う」ことを「掟」とするコロンブス一行とは全く違う世界で生きていた。彼らは武器を持たないのではなく、武器を知らなかったとコロンブスは航海日誌に書いている。コロンブスの差し出した鉄製の剣を、挨拶だと思ったのか素手で掴んで手を切った。こんな素朴な部族と知り合えた喜びを、コロンブスはこう神に感謝する。

「父と子と聖霊の御名において、売れん限りの奴隷を送りつづけられんことを」

神から許されたコロンブスは罪悪感もなく、アラワク族の人々に「金をとってこい」とやった。取って来れない者は手首を切断された。ハイチには川に流れる砂金が少しだけある程度だったが、今も昔も白人は有色人種にだけは無茶を言う。当然、無い物を取ってこいと言われたアラワク族は手を切り落とされる前に逃げ出した。すると、コロンブスとスペイン人は、父と子の精霊の御名において、犬をけしかけて追いかけて殺した。武器を知らぬアラワク族は、家族を護るために木を尖らせて向かっていく者もいたが、スペイン人は鉄で出来た甲冑を着て鉄で出来た刀剣を振り回すから、とても太刀打ちできなかった。アラワク族は仕方がないから毒草で集団自決した。

「新大陸」には黄金も香辛料もないとわかると、コロンブスは奴隷狩りに精を出す。4年後、25万人いたアラワク族は500人になった。父と子と聖霊の御名において、アラワク族は1600年を過ぎると島には誰もいなくなった。アラワク族は「剣をとる者」に滅ぼされた。

今、コロンブスはアメリカでもスペインでも、そして日本でも、絵本にされて子供達に英雄とされている。勇気の象徴、海を越えて冒険した英雄だそうだが、ともかく、キリスト教的な非暴力である「クエーカー」と、ガンジー的な非抗戦である「アヒンサー」と混同することは避けたい。白人至上主義を疑わない非暴力とは、牛や豚、家畜のレベルに人がいたわけであり、ようやく彼らが「黒人も黄色人種も家畜じゃないんだってYO」と気付いてからはまだ、さほど月日が経っていない。まだ、気付いていない者もいるかもしれない。

また、日本の「暴力反対主義」はもっと下にあることも言うまでもない。友愛脱税総理もガンジーがお好きなようだが、マハトマ・ガンジーの殺生を戒める行動規範における「アヒンサー」には到底及ばない。似非平和主義者がすぐに「殺すくらいなら殺される方がマシ」というのは、つまり「殺されることを厭わないほどの殺さない」であるから、戦争などにおける必然的な「殺す」よりも強靭な覚悟を要するはずである。しかし、似非平和主義者は無抵抗にて「殺される」ということこそが最大の武器であり、最大の妥協であると勘違いしているからリアルさが無い。民主党を中心とする連立政権の無策から殺処分される30万を超える牛や豚のように、注射で殺してもらえるとでも思っているのだろうか。

無抵抗とは例えば、「今からお前の娘をレイプする」と言われれば「どうぞどうぞ」という覚悟である。それを観ながら拍手喝采、またどうぞと送り出せる覚悟のことである。産まれたばかりの我が子を煮て喰われる覚悟である。小皿を差し出し、薬味を添える覚悟である。妊娠している嫁の腹を蹴られても、ナイスキック!と太鼓を叩ける覚悟である。鼻を削がれようが目をくり抜かれようが、黙ってじっと相手が満足するまで我慢できる覚悟のことである。縛られた親が生きたまま火にかけられても、その火で煙草を吸える覚悟である。似非平和主義者は知らないかもしれないが「殺される」より耐え難いことはある。




「リアルさが無い」とは覚悟のなさを意味する。



麻生前首相はカップラーメンの値段を知らずに叩かれた。麻生さんからすればカップラーメンにリアルさはない。買わないだろうし、知らないだろう。ホッケの煮付けで叩かれた。知らないんだろう。だからリアルではないことを言う。これで国民目線が分からないとか言われた。サラリーマンがちょっと背伸びすれば行ける程度のバーで叩かれた。鳩山はもっと高い会員制のバーで飲んでいても叩かれない。

鳩山総理がメシを喰いに行けばマスコミは「日本料理屋」と書くが、麻生さんなら「料亭」と書いた。麻生さんは言い間違いレベルの読み違いで、とことん叩かれた。国会の場で漢字クイズまでされた。鳩山総理も朝令暮改と朝三暮四の意味を違えていたが、まさに己のことなのに、あまり叩かれなかった。自民党には四字熟語クイズをするような阿呆はいなかった。

鳩山総理は沖縄にある米軍基地が抑止力だと最近知った。もう、怖いほどリアルさは感じられない。要するに覚悟が無い。いや、覚悟とは何なのかが分かっていない。だからその場その場で何でも言う。覚悟を伴わないという前提であれば、人は何でも夢想したことを口に出せる。普通、立場のある大人は仕事などにおける「責任が伴う発言」は熟考してから答える。使い走りの新人でも「社に持ち帰って検討します」と言えるし、決定権のある管理職も「役員会議にかけてみる」などと慎重になれる。

「思っただけのこと」を口にしてよい場合、場所、場面、立場というものはある。これらはすべからく「自分とは関係のない話」である。当事者や決定権者、あるいは自らが監督権者などの場合、自分の言ったことがどういう効果をもたらせるのかに配慮し、より慎重に事を運ぶことになる。また、それとは逆に「覚悟と信念を持って大胆な発言をすれば影響がある」ということも利用することができる。鳩山総理は本当に心の底から「思っただけ」だったりするのだろう。だから「思い」という言葉を連呼する。そして鳩山総理は「思っただけのこと」を言ったに過ぎないのに、と、今になって「学んだ」のではなかろうか。

宇宙飛行士の山崎直子さんに「日本は有人の宇宙船はやらないの?」と日本の宇宙開発戦略本部の本部長である鳩山由紀夫が問うた。これもリアルさが皆無、というか他人事だ。政府の現職の農水大臣が、牛や豚が30万匹以上殺処分され、京都や奈良まで対策会議を開く異常事態の中、自分は全く悪くないと公然と言った。初動対応や外遊を咎められていながら、自分は全然悪くないんだと、謝ることなど何もないと公然と言い切る。異常である。

これは自民党の石破氏が「ふつう、政府与党の政治家は言わない」という通り、これは思っていても言えないことなのだ。その部署の最高責任者が、自分の預かり知らぬとこで何かあった際、そんなことを言うだろうか。常識で考えればわかるのである。赤松農水大臣が少子化担当ならわかる。一議員ならわかる。野党ならわかる。一般人ならわかる。しかし、農林水産省の大臣ならわからない。しかも、鳩山総理は問題があったというコメントすらしている。総理大臣が政府の対応に問題ありという認識であるのに、その担当大臣が「オレは何も悪くない、何が悪いんだ?」とする異常は、現在の日本における統治機関が機能不全を起こしていると見るのが普通である。つまり、例えば口蹄疫問題は収まらない。

私なども「口蹄疫」という言葉すら知らなかったが、解消できぬ不安感から少し調べてみると、酷くなるのはまだまだこれからではないか、という懸念も否めない。「奈良公園の鹿まで危ない」というニュースも真面目に見る必要がある。周知の通り、宮崎県の川南町から発生した口蹄疫は当初、ネットの中だけの情報であった。テレビの報道はほとんどなく、新聞記事も小さかった。「風評被害の観点からの報道自粛(規制ではなく?)」だったのかもしれないが、これは明らかに矛盾している。もし、本気でそうしていたなら底抜けの無能である。口蹄疫ウィルスの特徴からして、規制すべきは報道ではなく人や車であった。

しかもゴールデンウィークをはさんでしまっている。本州から四国から、九州は宮崎に出入りした人も多かろう。何も知らず、消毒もせず、仕事や遊びで出入りした人らは日本全国あちらこちらにいる。道路を封鎖して消毒せねばならぬほどの感染力を持つウィルスを「風評被害の観点から」という理由で消極的な報道しかしなかった罪悪は、日本中に保菌者を散らばらせた可能性すらある。

また、野生動物は管理できない。日本の山には野生のイノシシやシカもいる。それらの中から一匹でも症状が疑われる動物が出た場合、これは畜産業かどうかを問わず、日本中がパニックとなる。日本国の陸地面積など、世界レベルで見れば広くない。風に乗って何キロでも運ばれるウィルスが空気感染するとなれば、あっという間に全国レベルになる。

日本では2000年に発生している。宮崎県では35頭の殺処分で抑え込んだが(北海道では715頭)、それは92年ぶりだったとのことだ。外国で被害が大きいものを挙げれば、1997年は台湾が380万頭を殺処分して、台湾の養豚は崩壊している。輸出国から輸入国になった。そういえば、台湾で喰いに行った「火鍋」の店は繁盛店とのことだったが、肉は全て冷凍のスライスだった。また、2001年のイギリスでは、なんと700万頭も処分されている。日本全国の豚がどれだけいるのか知らないが、これはとても楽観視できる状況ではない。宮崎県知事は「パンデミック」だと言った。これは日本全体での意味になるかもしれん。



ともかく―――

覚悟を伴わぬ発言はリアルさに欠ける。安易に過ぎる「暴力反対」が屁の役にも立たないように「最低でも県外」もあっけなく現行案に戻りそうだ。アメリカと沖縄、徳之島を混乱させただけの8ヶ月間はなんだったのか。邪魔者扱いされるだけの在日米軍の士気は大丈夫なのか。

また、支那人民解放軍の軍艦が日本の海域を自由に走らせ、日本の海上保安庁の船を追いかけまわし、日本の調査機をロックオンして挑発した。竹島を「韓国に不法占拠されている」とはなにがなんでも言わなかった外務大臣は、支那から「日本の監視が異常」だと笑われても言い返さないが、韓国の哨戒船が北朝鮮に沈められたら「我々は韓国政府と共にある」と勝手に言っている。友愛総理も北朝鮮への制裁ならば「日本が先頭に立つ」と友愛を忘れて勇ましい限りだが、日本人が拉致されて何十年も経つのに先頭に立たないで、韓国の船が沈んだら「やる気」を出すのはなぜなのか。

それとも「思ったことを言っただけ」で騒ぐ世間が悪いのか。「思ったことを言うしか出来ぬ」政権を選んだ国民が悪いのか。「聞いたことが無い」ような鳴き声を上げながら、山と積まれて埋められる家畜が、先ず、その犠牲になった。
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