ハチの家文学館

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照一隅

2010年03月30日 10時43分18秒 | 慈しみと悲しみと

                 京都大原 浄蓮華院 

天台宗開祖伝教大師最澄の精神を今日に生かそうと、一隅を照らす「一隅運動」が天台宗で始まったのは昭和44年。私がこの言葉を初めて眼にしたのは、昭和48年で28才、京都大原の浄蓮華院に宿泊したとき、宿坊の玄関の片隅に書かれていた行灯であった。その前年私は妻をガンで亡くし、新婚旅行の思い出の地である大原の里を訪ねたときである。

一昨年の秋、ひとりで京都・滋賀の仏像・紅葉撮影の旅に出たとき、この浄蓮華院を35年ぶりに訪ねた。「照一隅」の文字は変わらず置かれていた。ご住職に昭和48年当時の宿泊者用のらくがき帳が残っていれば拝見したい旨お話したところ、快く見せていただいた。昭和40年ごろから平成の始めあたりまでのらくがき帳があったものの、40年代の一部が見当たらず、私が書いた文章を見ることは叶わなかった。苦悩の時代に仏に縋ろうとしていた私がそのとき書いたのは、辛くて苦しいけど「照一隅」の言葉に励まされ、仏さまが私の心を明るく照らして下さっているというようなことだと記憶している。

「一隅を照らす運動」は、伝教大師の精神を現代に生かし、一人ひとりが豊かになり、明るい社会を築いていこうということを目的に昭和44年に始まった。伝教大師が、一隅を照らす国宝的人材を養成したいと、『山家学生式(さんげがくしょうしき)』を著し、その中に書かれている言葉である。とかく暗くなりがちな現代を生きる人間にとって、たとえ僅かな耀きであっても、失われていない明りが心に灯されたような気がしてくる。「一隅を照らす」実にいい言葉だ。夢を決して諦めないで生きていこうと思う。



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