ハチの家文学館

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尻切れトンボの短編小説

2010年10月20日 01時07分10秒 | ハチパパのひとり言
初夏の浜辺は、まだやわらかい陽ざしと霞がかったような空の青に覆われて、夕方ともなるともう辺りに人影はなかった。
そこは波打ち際と松林の間が、さほど距離があるわけでもないのであるが、東西にそれぞれどこまでかわからないほど、水平線が長く続いていた。そしてその先は、周囲の静けさとは対照的に、嵐のように砂を舞いあげていた。
「静かだ」
洋平はそう呟いた。

さっきから、歩くことなく海を見つめていたのであるが、遠く水平線の右手に見えていた船が、いつの間にか自分よりやや左手の、それも近づいて見えてきたことに気づいていた。
ただそう思っているうちに、時間がどんどん過ぎていくのであった。

洋平はこの日、三十回目の誕生日を迎えたのであるが、洋平の心には三十年の年輪と言うべきものは、何もなかったような気がしてならない。
つい昨日までは、二十代最後だからと意識していた毎日であったが、何もすることなく、無駄に過ごしてしまったことが、悔やまれて仕方なかった。

「ああ、俺ももう三十かぁ。よくぞまぁ生きてきたもんだ」

22/10/7発見  S49年と推察される古いノート紙片より



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