論文IX (第二部)2.ヘルマン‐ピラースの「技術圏」科学への考察
本稿著者の考察とコミュニケーション
~~~~本文
(第二部)
2.本稿著者の考察とコミュニケーション
ヘルマン‐ピラースの「技術圏」科学への考察を以下の順で行いたい。
2.1 ヘルマン‐ピラースの経済学の自然哲学的展開について
2.2 ヘルマン‐ピラースの「技術圏」という思想について
2.3 ヘルマン‐ピラースとの交信
2.1は彼の大著「経済学の自然哲学的展開」を紹介し、彼の学問的パラダイムを解説し、つぎに2,2で、本論のテーマである「技術圏」科学への考察をのべたい。
2.1 ヘルマン‐ピラースの経済学の自然哲学的展開について
ドイツの経済学者ヘルマン‐ピラースが650ページに及ぶ自著の「経済進化の基礎論~経済学の自然哲学的展開」[1]をネットで送ってきて、この春はこれに取り組んでいることを書いたことがある。
彼については、私が所属している総合知学会で昨年の会誌に二つほどの論文で紹介した。 その記念としてその会誌を郵便にて彼に贈呈して 喜んでもらったのである。
しかし、多分、彼の学問への理解の補足の意味もあったであろうか、この原著が送られてきたのであった。年金生活のこちらの懐を慮ってくれて、学生に提供しているものを提供してくれたのである。
彼はエコロジー経済学の研究者としてつとに知られ、市場経済と環境保護をひとつの経済学体系として構成する壮大な構想をもつ。
1.量子や分子のミクロなレベルと通常に人間が触れるマクロなレベル、そして市場、文化、制度へと展開するのであるが、
2.その骨格として熱力学でのエントロピーという概念で、対象の現象のもつ働きの能力(ポテンシャル)を客観論理化の動機においている。
3.産業革命でのエンジンの開発の基礎となった工業熱力学、現代の分子物理の基礎となった統計熱力学、これに暗号解読や情報処理の現代確率情報科学へとつなげる。
4.このつながりのなかで、分子細胞生物学などでその学領域としての存在を獲得している生物圏(;Biosphere)に対して、それに対等にして双対する、「技術圏」(Technosphere)を新たに位置づけ、技術活動という存在を自律系Beingsとして位置づけし、独立した学領域として統一的にとらえようするものである。(さすがにカントやヘーゲルの子孫で、この発想でビッグバンの全宇宙生成発展まで展開する発想でもあろうか)
5.彼の哲学的な思考モデルは、いったん、ドイツの土壌をはなれ、アングロ・アメリカン流の経験主義(帰着主義)のながれに立つところが現代的である。彼の着目は、アメリカのプラグマティズムの祖であるパース(John S. Peirce)に狙いをさだめた。
6.パースの三元機能論Triads(対象物~記号~観察者)にヒントを得て、現象的存在認識論(Ontology)に立つ。
7.結局、彼は何を見たいのかというと、経済市場でのエネルギーや資源について、これまで社会科学者は量として、そのフローとストックを考えるが、それに付随している質のフローを見ていないと主張する。量だけを追求していくと、たとえばGNPをどんどん大きくしていくことが世界のためによいという単純帰着する。実際、技術が進歩して効率があがっても、本来必要以上に量が無制限に追求される。(神戸牛でのグルメなどがよい例で、贅沢のレベルを追求していくとエネルギーの量はそれに関係しておおきなる) ここでは目前での質追求の抑制判断のロックは外され、結果的に、資源消費量はこれに服従する。
一方、本質的な質はロック(制約条件)されたままになっていて、大切なものが置き去りにされる。それは質ロックとしての環境への廃棄物・エネルギーの流れとみる。
8.その質のながれの定量尺度として非線形・非平衡動熱力学に着目し、ここでの「エントロピー流」の概念を正しく位置づけようとするのが彼の経済学といえる。
9.彼は、果敢に現代熱力学に挑戦して、Lotkaの最大動力原理(Lotka’s Maximum Power Principle)、I. Prigosineの非平衡系エントロピー流移動現象論や最大エントロピー発生原理(Prigogine’s Maximum Entropy Production Principle)、そしてJaynesの秩序形成原理(Janes’ MaxEnt Principle)の三つの最近の情報社会系熱力学原理を導入する。要は、社会系も自然系と同じ「エントロピーの勘定」で理解される科学尺度があるべきであるという主張である。
10.一方、人間社会での経済活動の質のながれ、それをエントロピーとしてみたときに、それを受け止めて、行動を作り出す意志の主体は機関(agent)であり、知の集合体(collective)として叡智を産みだす客体として多様な意味での制度(institution)を位置づける。
11.機関(agent)と制度(institution)は、単に政府だけでなく、大学、博物館、学会、研究所など経済や生活、文化などの局面で多層システム構造を意味することになるが、ものごとの質であるエントロピーのながれは具体的には斯あるとまでは、まだ、、見せてくれていない。(概念としては、炭素ベースで人間生存エネルギーの質を’technomass’やその尺度'HANPP'(Human Apropriate Net Primary Production)などを取り上げている)
12. 現代社会は、人目には仕掛け人が見えない状態で、あるいは当の仕掛け人の自覚がないままに、技術革新(機械的革新と情報的革新)のインパクトがかかってくる。そのために機関(agent)と制度(institution)とはいえ、文系と理系とがわかれての役割り分担というこれまでの考え方では、人間世界は行き詰まってしまったとみる。
13.そして制度と技術を一体とした次元で世界を構成する。このまとめた新しい科学概念として 「技術圏」科学Technoshere scienceを提案する。
14.こういう抽象レベルの高いところまでを、徹底的に考えるという学問があるということを、我々は知っておくことは意味あることである。
つまり抽象を徹底的に追求するという点で近代啓蒙主義を経過した西洋は、東洋にまだ水をあけているともいえようか。日本人は、明治開国以来抽象思考も大切にしてきたが、具象の現象次元にとどまるほうが方が得意とみるが、これは蛇足かもしれない。
[1] Carsten Herrmann-Pillath, Foundations of Economics Evolution, A Treatise on the Natural Philosophy of Economics, Edward Elgar Publishing Limited,2013
2.2 ヘルマン‐ピラースの「技術圏」という思想について[1]
ドイツ・エアハルト大学の経済学者Carsten Herrmann-Pillath氏へ交流が、日本の市井にある当方からの飛び込みのメールを送った3年ほど前からはじまりまる。彼は、情報科学と熱力学との相互のアナロジーから、社会科学へのエントロピー概念の導入に意味と意志を持つことに強い関心を持ったことを告白する。 彼は、生物圏の持つ自律再生系システムに対して、これと比肩する自律再生化システムとして人間系情報系やエネルギー系をとらえ、これを「技術圏」と定義し、総合体的な学領域discipline of something aggregationとする考えに至ったのえある。その動機は、一方に生物が、生物圏として学域disciplineを形成していることが類推であったであろう。
人間の技術活動は、個別対象entityへの差異はあるとしても、個人の意図を越えて、膨大なる人工物artefactsを産みだしている。そして、そのものの実体entityとしての人工物artefactsを産みだす技術technologyそのものは何であるかという問いに対して、Pillathは、人間個人をこえた集合体系Collectiveとして、それ系自体が自律する擬似生命体beingとして、とらえることに至ったのである。かれは、これを「技術圏」Technosphereを存在パラダムとして位置付け、科学領域’Technosphere Science’としてとらえることを提唱したのである。
彼のこの発想を支えたのは物理化学Physical Chimistryと情報科学であったといえよう。
ひとつは、近来でのPrigogine[2] [3]に代表されるエントロピー流の動的力学である非-平衡(非-均衡)熱力学的にヒントがあったといえよう。これにもうひとつは、情報制御論であるCybernetic概念への適用として、エントロピーのながれを、入力と出力として記述される情報系システムを考えようとしたところにある。
二番目に、生物圏での自律再生の機構が、基本的に化学反応系のひとつである自己触媒系Auto-catalystであることに着目したのである。これをこのエントロピ流れとして記述することの意味を考えたのである。 これによって人工体を抱える技術活動についても、生物圏と同水準カテゴリーの自律再生系を位置づけとしたのである。自律系Technosphere「技術圏」の誕生である。これらを非線形非平衡系としてみるならば、変化、適応、固定という生物圏の進化とともに「技術圏」進化がモデル類推的に対応することになる。
つまり、「技術圏」と生物圏の双対システムというパラダイム的対置への展開するになる。
三番目は、「技術圏」科学Technosphere scienceへのクレーム(位置づける要求)となる。自律再生のための自己触媒autocatalystと、そのからくりの、自己触媒のある化学反応をともなうエントロピー体移動現象とそのための詳らかな検証、そしt現象構造と機能の探求への提唱となる。[4]
四番目に ところで、Technosphereは「技術圏」と訳した。これまでの西側の哲学や自然科学では、数学や物理学,化学や生物学など学としての領域[discipline]を大切にしたのは周知のことであるが、技術の原型である技や巧みについては、精々 あの秘密結社のfree masonaryでのmason,つまり石工レベルとし、人間精神活動としては、地位の低いものとしてきた歴史を知る。貴族と奴隷に関係でもあろうか。この関係が今は、たとえば事業経営と製造技術にみるように、経営系が単純に製造系を支配している構造ではない。[5]
五番目に、「技術圏」は 人間社会に対して、敵対的’怪獣’か。これに対して、Pillathは、そもそも「技術圏」を、怪獣次元の得体のしれないものとして外側から見るのではなく、内側からみることを提案する。人間が気が付かずに抱えた卵をふ化したひとつの非生物的な生命体と見ようとした存在圏disciplineのパラダイムである。 彼のこの段階では、機能と構造に注目するが、それが持つ資質の質の洞察には至っていない。
六番目に、人間個人としての意思や活動が技術圏において自律的に関与するのか、「技術圏」の一部に従属して希釈されるのかは、十分なる思考の到達点に至っていないが、人間集合体Collectiveである人間機関agentが、技術圏の構成要素となる。むしろ「技術圏」は人間であるか、どうかを問わず、もっぱら人間機関agentをそのなかの生命体Beingとしてとりこむ。[6]
七番目には、そこで機関agentは生命体Beingとしてつぎの4つの進化機能を所有する;代謝性(環境とのやりとりでの体の維持)、自律性(自らの組織の再生)、目的性(意思決定)および学習性(進化の取り入れ)である。
八番目は、人間の理性と自由意志はどこにはいるか。
個人の理性と自由意志は技術圏の外からか、内からかが残る問題である。生物圏と同じように情報階層連鎖ネットワークのなかで個人は機関agentに入らない可能性もでてくる。
つまり、人間の理性と意志は、超越的存在との関係として個人に属するという理念と、人間間の関係である集合体の人格の理念との間にもともと深刻な亀裂があったとみる。これをつなぐ発想が方法論的個人主義(Methodological Individuality)で、共同体のモラルは、仮説として個々の倫理観の発露と相互調和でなりたつというものである。
九番目は、このあとに来るものは、やはり、「技術圏」が担うであろう人間機関agentのモラリティと責任の位置づけである。Pillathの中では、経済系での、方法論的個人主義methodological individualityを前提とするものである。
したがって、集合体での人格性価値personification、集合体責任(collective responsibility)とはなにかが常につきまとってくるのである。
十番目は、「技術圏」での人間意図の次元は、責任を個人にトレースし帰するか、あるいは集合体そのもの(たとえば国や企業)に帰すかの次元の問題がのこる。ドイツの哲学者ヤスパースJaspersは、刑法的、政治的、道徳的、形而上学的と個人と国(集合体)との責任を分けるが、戦争裁判の結果がしめすように人類はこれにまだ最終決着をつけていない。モラルや責任に絡んだ重要な課題ある。
十一番目は、人間機関agent意思のトレースの問題である。
彼の発想のもう一つのベースは、あのアメリカのプラグマティズムの祖Peirceの情報記号論Triad(観察-対象-記号、そして機能(関数))である。彼のいまの論の段階では、個人の意思や、一機関agentの意思は多階層ネットワーク論理の中に、どれだけトレースできるかの重要な課題があり、学問的には初期の段階である。[7]
第十二番目は、‘WineとGlassの問題’ エントロピー流でまだ残る課題である。
彼のこの論文を読みながら、一つだけ、特に気の付いたことを手短に言えば、ワインとグラスWine and Glassである。Wineを飲むためにはグラスが必要。だまっていれば、これが出てくるわけではない。彼の発想では、化学反応論のwineの醸成(process)はあるが、反応釜つまり、Glass(Vessel)の位置づけが、まことに希薄である。 Glassも実体entitiesは物質であるから劣化や崩壊という反応の半減期がある。これはWineの化学反応の半減期と比較すれば通常、時空間次元(次数)が異なるので、化学反応プロセスとしては同時にはみないであろう。しかし、おおきくわけて、時間的に次数の大きく異なる二つの半減期間の化学反応とみられないわけではない。また、空間的には、entitiyの密度(エントロピー密度)は、「場」の構造に依存するものである。
十三番目は、 PillathはHayekの主張である、世界(経済)は、設計よりも活動で決まるという考えを支持する。したがってWineのprocessを強調するおとになるが、Glassの存在はfacility,accomodation,infra-structureのような目的的なものteleomic;「場」の設計的なものの存在として、「技術圏」人工体として記述は希薄である[8]。
十四番目は、機関agentの分散化distributiveの仮説を置いている。「技術圏」は、ネットワークというエントロピー流パッセージとになるが、その結節点nodeが機関agentという構造になる。局所的なエントロピー流からの変化-適応‐固定としての構造機能の進化をニッチnicheという概念で文化の進化伝搬性memecsの仮説を置いている。
十五番目は「技術圏」と人間理性と自由意志の自律性との潜在的な脅威の内在性に触れる。これは、人間機関agentの前提である方法論的個人主義methodological individualityの虚構性からの危機として捉えている。人間の欲望追求の自由と共存へのモラリティへの亀裂についてのインマムエル・カントの定言命題を引合いに提示し、忘れてはならない命題提示をしている。
階層構造のなかに
まとめとしてかれのこの論文の課は以下となろう;
1.「技術圏」でのwineとglass問題。
2.個人と集合体の意図性と責任の問題。
3.「技術圏」と経済圏との構造と機能関係。
Pillathは、さすがにドイツ人の学者らしく、カントとの相性のよいPeirceを使って、「技術圏」論を構築してきたが、最終章で、全体としての結論の途中ということで、カントの認識批判哲学での「理性の使用は、ひとりでしてはならいない」という有名な提言命令に触れている。この超克で、集合体間での異なる意思が止揚され、「第二自然」The Second NatureをヘーゲルHegelの哲学への誘いの隠喩を見せている。これからの思考展開には興味深いものがある。
[1] The Case for a New Discipline: Technosphere Science
Carsten Herrmann-Pillath Max Weber Centre for Advanced Cultural and Social Studies, Erfurt University, Germany, Contents lists available at ScienceDirect
Ecological Economics、journal homepage: www.elsevier.com/locate/ecolecon
[2] I.Pringogine, Introduction to Thermodynamics of Irreversible Processes, Third version, Interscience Publishers, a division of John Wiley & Sons,1961
[3] マッカーリ・サイモン(千原秀明・江口太郎・齋藤一弥訳)物理化学-分子量的アプローチ、東京化学同人社2000;
D.A.McQuarrie & J.D.Simon, Physical Chemistry, A Molecular Approach, 1997 copyright by University Science Books,1997
[4]訳者の想像では、Pillathは、非平衡熱力学でのエントロピー流までは来ていたが、化学速度論に着目することの意味については、今回の論文にこちら側のアドヴァイスを取り入れてくれたとも勝手に想像している。
[5]旧約に出てくるノアの方舟は、あの怪獣ゴーレムGolemであった。頼りになり、援けになり、まことに不可欠であるが、機嫌を損ねると何をするかわからない、そもそもわからないが力があるというところで怪獣として見ている状況ではないであろうか。ティータスのゲルマニアに記述されるローマ時代のゲルマン人などをそういう地位であったかもしれない。しかし、みえないところでエジプトのピラミッドや、エルサレム神殿の構築技術は営々として継承され、ゴッシック建築へと伝承さえたであろう。
[6] 集合体に個人の自由と意志を委託する「方法論的個人主義」Methodological Individualityが社会学での出発点であるが、人間倫理の投影仮説を境界条件として置いていることに注意すべきである。(訳者)
[7] しかしこういうことを抽象次元の社会哲学とし一生懸命に考え頑張っている人たちに敬意を持つものである。
[8]彼へのアドヴァイスがあるとすれば、WineとGlassの理念の取り込みである。
2.3 Herrmann-Pillathとの交信
(荒井からHerrmann-Pillath) 2019/7/21
Prof. Carsten Herrmann-Pillath
I am pleasured to send you my paper manuscript of the title below;
Title: Paper On System Thinking, Teleological Structure and Social Morality
Carsten Herrmann-Pillath “The Case for a New Displine:”Technospere”
For The Journal of the Multi-Disciplinary Knowledge, Vol.2018/1
This paper has two of parts,
for the first part is for the Japanese translation of your “Technospere” ,
and for the second part is for my essay comments to it.
May I kindly ask you OK for submitting this paper to the journal of society?
If you have any question , do not hesitate to ask me.
I hopefully have your permission until 31st,of July.
With my Best Regard
C,C. Dr. Caspary
My Outlook had a big trouble that my friends addresses are evapolated,
by some reason.
So, please excuse me to send you the same copy as one to Carsten。
This is a reason to have double ways for safer reaching to him.I am sorry the paper is mainly written in Japanese language, but later I like to write the part of essay in English. So, at moment, could you help him to brief meaning of my essay part?
With my Best Wishes.
2019/07/21 ARAI,Yasumasa
(Herrmann-Pillathから荒井) 2019/7/21
From: carsten caspary [mailto:carsten.caspary@outlook.de]
Sent: Monday, July 22, 2019 7:20 AM
To: Yasumasa Arai
Subject: AW: Yasumasa Arai sending manuscript,and hello.
Dear Dr Arai,
thank you so much for your support and great effort! I am honoured and glad to agree with the publication of this translation. I am currently in China, When I am back, I will study your comments. By the way , in September and October I spend one month in Osaka, and my family will also visit me.
Best wishes Carsten
(荒井からHerrmann-Pillath) 2019/7/21
Dear Prof. Carsten Caspary,
I am very pleased to have your permission to the publication of this article.
Your paper has making me an intensed stimula for reviewing my original field of Chemical Process modelings;
Which is extending the modeling methodology to Technosphere domains .
I am looking forward seeing you ,if possible in Tokyo. Have a nice stay in China.
Send my best regard to Mrs Caspary. Yasumasa Arai 2019/07/22
(Herrmann-Pillathから荒井) 2019/7/21
This sounds very interetsing! I think that chemistry is the most important source of abstract modelling approaches to technosphere, not physics, not biology. Would love to learn from you!
3 本論文のまとめとして
3.1 Pillathの論文からかんがえること;「技術圏」それ自身が意味がるのか?~
Pillathの定義によると「技術圏」科学は「技術圏」を知るための学問(科学)とする。
その知る対象の「技術圏」はなんであるかという設問は、認識論的には Ask the question
となり前提そのものに問いが向けられる矛盾をおこすことになる。
しかし、その存在の在り方に着目して現象的存在Phenomenological Ontologyとしてはどうか。
いま、ある技術(空を飛ぶ)という現象があり、飛翔を可能にするであろう属性項目が上げられたとする。
その属性を使って技術を表現してみることができるか。
たとえば、空を飛ぶということを可能にする手段とその実現のための行動をすることを目的するのための「技」の行為をひとつの仮説現象としよう。
仮説現象は、行為の結果を人間自身が知覚して、これを同じ目的であった他の行為の結果と比較して、共通と相違をしらべよう。 そして目的により近づく行為のプランを立て、行動に入る。その計画と結果の差異からの次の行動をおこすサイクルはまた仮説現象といえよう。 飛ぶことからみれば、鳥をみて翼の形状に気が付いたであろう。 肌に感じる風の実体(空気)に乗るというイメージを獲得したかもしれない。 止まっているよりも動いたほうが浮力を生むことも獲得したかもしれない。動かすのには、安定が必要で飛翔体の重心の位置の調整に気付いたかもしれない。
これを言葉にすることもできるが、この技の実現に直に関わる者は、言語はきわめて少なくでもよいであろう、たとえば 「よし」と「だめ」だけでもよいくらいであろう。
ひとりではなく、仲間と一緒ならば、体験を共有すれば、技の要点と改良点に言語はいらない。
言語がいる場合は、その技の遂行のために工作場や、材料、工具、実験場などの獲得が必要である。 技の当事者が財力を所有して投入が自由であれば、ここもまた、言語は要しない。 往々、財の提供者が必要であるから、ここから言語が必要となる。もっとも、財力提供者が、この技の持ち主の行為の場を一目みて、「よし」と「だめ」を出すこともありうる。 言語が必要になるのは、ある技の成功が、実際に飛ぶということのもつ他へのインパクトであろう。これも一目瞭然で、技の主が群衆に見せるだけで十分であろう。
飛ぶ技術は、伝搬していく。
好い事ばかりではない。飛ぶ技術体で人がけがをしたり、不幸にして死傷事故がおきたりする。すると、社会の反応は如何になるであろうか。 危ないものは、やめるべきだという意見がでてくる。 技の当人は、その技に集中しているから、止めないであろう。その社会の合意で、強制停止がなされる。
一方、技が伝搬しているから、他の地での同好競合の士がいて、これが競争で、よりよいものを造り上げる。その地では、それが、自分たちの能力と勢力の顕示になるというなら、積極的にこれを応援する。つまり、差別化である。
これは、一般には経済の問題として論じられるが、飛ぶという技の開発ということを知るものとの間にはギャップがある。 技の部外者は、その技に関心があるか、無いかはそれに何らかの関わりをもったかどうかで、その態度がきまるであろう。 技によってあるものが生まれる(人工体という)。この産もうと言う行為は、生物の増殖と似ている。抑えがたい本能がそこにあるのであろう。人工体というのは、結局、だれかが産む、そして拡散するが、その伝搬拡散の結果、競合をよび、集合体内外での優勝劣敗が避けられない。
その人工体がもつ、便益と危害については具体的にあげることができよう。これを支配するのは、およそは、富を持ったもの、支配力を持ったものであろうし、その導入判断は社会的安定、経済的利得の期待できまる。つまり政治・経済である。それでも、技そのものに無関心であると、他の共同体に負けてしまう。したがって、技の得意なものを抱えて、支援し、これを支配する。
ここまでは、人工体とそれへの人間による支配が一体となっていて、狩猟道具などの開発や、農具の開発など新石器時代でモデルでもある。
しかし、産業革命期にはいると、産業革新は、単なる政治体制や経済体制だけでは説明しきれない技の進展の態様の違いがでてくる。 石炭の増産、高温火力の炉構築、炭素鋼の発明、回転数制御をともなう蒸気機関の発明、設備の大型技術など 一つの生命体のような生存体つまり人工体として登場して、それ自体が変化、適応、固定の進化のサイクルをもつことになる。 ここまでくると、単に経験だけの職人だけでは成り立たなくなる。数学や理学の素養を獲得した人間の参加がある。 技術の発展の芽は枝分かれして多様化したなかでの展開である。 こういう人間行動の人工体の集積ができる。これは、単なる政治や経済のための制約条件としてのみとらえられるであろうか。
あらためて制約条件そのもの、そのなかには、職人の技も包含はしているが、その制約条件そのものは科学の対象になりえよう。 極端に言えば、反重力ということでこれまでの重力は正値であるという条件を外す試みもありうる。制約条件の対象は機械のような物理的な実体でなく、人間組織の機能など非物質的実体の付加などもあろう、新たな研究人材の投入もあろう、社会的な安全の制約を拡大するという選択もあろう。これらは、これまでの政治や経済からの視点の社会的組織や制度の管理支配の構造からは、対応できないという事態が考えられる。科学発見の前段階から、それがどのような形でうまれるか、産まれたあとにどのように成長するか、それがどのような社会変化をどのような速度で、どのような規模でおきるか、この枠組み構造からは答えがでない。 否、誰かがヒントを出すが、その誰かさえも知識は限定されている。 しかも、関心の外にあるうちに、現実のものとして、受け入れることを迫る。 そして、何か不都合なことがおきると、専門家に判断を仰ぐが、その専門家も部分的な知識のなかに限定されている。その特定課題のまとめ役は、全体像がみえぬまま、あるいは確信もてぬまま、答を出さねばならぬ。誰も難しいことを知っているから、幸運な場合でも解決にむかうであろう方向性の形でのみ答えを出す。
ただし、その人工体群は生物とおなじで、それ自身が自律しているとみるようにみえ、だれも Go もStopもする見識を持ちえない。 大衆レベルになると、危ないことは廃棄せよというが、あとどうなるかの確信ももてないから、時を稼ぐつまあまりdisposition晒すというアイディアで留まる。
Herrmann Pillathは、この技、あるいは技術という人工体そのものを生物と並ぶ「生きもの」Beingとして捉える、これを「技術圏」とし、それを科学として取り組むことを提案したのである。 現象としてあるらしい、その現象を解明する、存在論Ontologyとしての学領域を提案するのである。
彼の論文は、結局、agenceとinstitutionのモデルの域を出ていないが、「技術圏」科学が科学としてみる方法論を、工学的理論に求めているといえよう。特に、工学が蓄積してきた非平衡エントロピー流の拡散理論や、レイノルズ数で代表された相似則理論などの方法論資産の社会系、政治系を含めた人工体への適用をさえ模索しようとしている。
彼は一方で、「技術圏」と「生物圏」(および社会学)、他方で「技術圏」と経済学(および、社会学)との間での学領域として独立した学域disciplineの成立をも考究中である。発想が大胆であるので彼の論文に当初、違和感を持ったし、いまもそうであるが、発想が非凡であるところに、パラダイム進化の場として価値がありそうである。
もうひとつの問題は、「技術圏」科学と人間社会のモラリティーと責任について倫理として「方法論的個人主義」についての課題が残るのである。 Pillathは、カントの定言命令へとヒントを出すが、この系統の論は、ほんの序の口である。肝心なのは、彼をはじめ西側の哲学は、理念と現象の二元論のなかで、一方で、存在論Ontologyとしての現象をまとめていくが、その前提として認識論としての理念の存在を見ていくことを外していないところに、敬意をもつものである。 総合知学としての次元の問題である。
3.2 本稿著者のメモ Arai’s note:
「技術圏」科学としていくときに役に立ちそうなモデリング数学上の項目
「技術圏」科学としていくときに役に立ちそうなモデリング数学上の項目を熱力学と情報科学の視点から置く。これらについてはさらに精査されるべきである。
I.熱力学
Termodynamics
II 情報系エントロピー
Entropy in Informatics
以下は、網羅したものではなく、この科学の研究を進めるうえでのengineering的な
手段になるものであろう。
~~~~~~
List (Items required on further surveys on scientific terminology to Technospere)
I.熱力学と情報理論
Termodynamics and Information mechnics
*一般熱力学から
Thermodynamics
Isolated system (孤立系)
Closed and Open System(閉鎖系と開放系)
Thermodynamics for System Equilibria平衡系での熱力学)
Comprehending view between Macro- and Micro-Scope(マクロとミクロとの対応)
*エントロピー流について
On Theory of Entropy flow
Non-Equibria Thermodynamics;(非平衡熱力学 )
Entropy Density Distriutions as Dynamic and Spacial Density Flow;(エントロピーの時空間密度流)
Observer Standing View Problem; Euler sytem and Lagrange system;
(観測者の立ち位置の問題; Euler系とLagrange系 )
Case Study A on Bulk flow and Diffusion Process, as Non-Equilibria Thermodynamics(流れや拡散などの場での非平衡熱力学)
Case Study B on Chemical Reaction with Case Study A (化学反応のある場合の非平衡熱力学)
Further investigation on Auto Catalytic Phenomena and its Mechanics. (自触媒化学現象とその機構についての調査研究)
‘Glass and Wine’ as Chemical Phenomena and its Fields (機能と構造について)
Segregation between Phenomena and Fields(as Constraints) ( 現象と場(制約条件)の問題の区別)
For example; Bird nest (孵化と環境「場」)
Entropy flow under Stiff Phenomena (パラメータの次数が極端に異なる系)
For example, mathematical modeling cases under parameters each others with extremely different orders of magnitude(極端に異なるorder of magnitudeをもつエントロピー流の式について)
Entropy flow under Non-linear Phenomena(反応半減時間の極端に異なる反応系)
‘Cooking pan and Recipe’ or ‘Glass and Wine’ problem (反応プロセス「レシピ」と反応器「鍋」)
Further investigation on Scaling laws(スケーリング則について)
Scaling Analogy on Tempo-Space Aggegation(時空間上のマクロとミクロについて)
For example, Reynold number, what does it say? (レイノルズ数の教えるもの)
Non-dimensional Number, and Eigen value and Stability (時空間上の無次元数、固有値と安定問題)
Multiple Boundary Layers Decomposition(時空間の多境界層への分解)
Purtervation Decomposition of Stiffness and Non-linear treatment
(Order of magnitudeの近い複数の式セットへの分解)
On Technospere sience, its Developments(「技術」圏科学への展開への類推)
Accomdation , Facility, Institution(反応器「鍋」を造っておくということ)
Accumulation of Cooking Recipe(反応プロセス「レシピ」を作ること)
Who is cooking problem.(実際にオペレーション「クック」すること)
II 情報系エントロピー
Entropy in Informatics
Shannon ‘s Entropy and its definition( Shannonのエントロピー定義)
Information Entropy and Constraints (情報エントロピーと情報制約条件)
Entropy Flow Density Distribution (エントロピー分布)
(Maximum Entropy Principle)(最大エントロピー原理)
(Lotka’s Maximum Power Principle)(最大力原理 )
(Jaynes Max/Min Principle)(有効エネルギー分布)
Entropy density flow modeling with thermos,chemical,and informative phenomena(非平衡熱力学のエントロピー流式への情報エントロピーの結合化)
Case Studies from advance modeling achievement
For example, Polymer’s molecular distributions and reaction schemes (高分子分子量分布と反応モデルが教えるもの 例 反応速度モデルを分子量分布測定から同定するということ )
付録 読者からのコメント
総合知学会神出瑞穂氏からのコメント (あらいやすまさ)2020-03-18 16:27:55総合知学会
荒井康全様、皆様
新型コロナウィルスの影響で外出予定が全部キャンセルになり、
2018年度総合知学会誌に荒井さんが投稿された表記ペーパーを
じっくり拝読出来ました。ウイルスに感謝!?
生物圏、技術圏、そして人類を一つの地球システムとして捉えようとする
構想はまさに総合知的で、大胆な、新鮮な構想ですね。
第2部の荒井さんのご見解も得るところ大です。
小生、学校で人間工学なる学問を聞きかじってきました。
「人間・自然系」、「マン・マシンシステム=拡大して人間人工物系」の
2つの概念から文明の構造を捉えられないかという意識はボヤーとありました。
自然界の食物連鎖と産業連関との類似性は文明の成長と動的恒常性維持問題
として現在も興味の中心の一つですが、その意味でピラース概念は大いに
参考になります。ありがとうございました。
ピラースも最後は人間の欲望の増大と生物圏のサステイナビリテイについて
述べていますが、やはり西欧の理性の哲学の範囲でのシステム論ですね。
X軸に生物圏と技術圏を置き、Y軸に理性と宗教を置くと、もう一つの
地球システムすなわち般若心経の色即是空、空色是色、華厳経の
全ては全てにつながっている、一即一切、一切一即の世界があります。
東洋人である我々の総合知はこの両方を包含した地球システムを
考えることが可能です。
山川草木国土悉皆成仏は無機物の国土が入っているところがミソですが、
したがって人工物、技術圏の無数の”エージェント”も成仏する事になります。
そんな観点からAIも考えたいとも思ったリします。
まずは感想とお礼まで。
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科学技術・生存システム研究所
神出瑞穂
Email: kamide-mizuho@max.hi-ho.ne.jp
以上
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