朝日記170311 ヘルマン‐ピラース論文の概説(続き 2)
ここでは
1.2 論議のまとめSummary of the argument です。
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朝日記170311ヘルマンーピラース論文の概説 「エントロピー、機能(関数)および進化:自然化パース記号論」
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朝日記170311 ヘルマン‐ピラース論文の概説(続き 3)
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Entropy 2010, 12
200
1.2. Summary of the argument
この論文はつぎのように進む。第2節では、生物学的情報の記法(概念)に固有のむずかしさについて簡単な議論からはじまる。
これは情報の流れと 因果(原因)の流れとについての混乱から来るものである。これらの困難さはパースの観点への移行を予感させる。
Figure 2. (a): Elementary form of a function; (b): Autocatalysis.
シャノン情報にともなう問題を抽出して、著者はJaynesの推論文脈の議論を継続する。この概念はエントロピーの定義において、観測者(実験者)の中心的な役割りを明示的に認識させるものである。
かくして、著者はエントロピーのJaynesの記法(概念)の文脈上での区別の意味をさらに明らかにでる。Saltheは、内部者internalistと外部者externalistの視座との間の区別をしているがJaynesのエントロピーの区分はこれに対応している。
Figure 6. MaxEnt as inference
測者相対エントロピーobserver relative entropyの概念を関数相対エントロピーfunctional relative entropyの概念と等しくすることによって直裁的に進められる。
基本的には、このことは、著者が機能(関数)と観察の双方に対して、進化の存在論的認識への一般性のある枠組みを応用することを意味している。つまり、機能(関数)と観察のふたつの概念を一体化することになるのである。
Table 1. 機能(関数)タイプ Types of functions.
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Judgemen(判断) →
Entity(実体) ↓ |
Epistemically subjective 認識論的主体的 |
Epistemically objective 認識論的客体的 |
Ontologically subjective 存在論的主体的 |
Semantic function 意味論的機能(関数) |
Technological function 技術論的機能(関数) |
Ontologically objective 存在論的客体的 |
Mental function 精神的機能(関数) |
Biological function 生物学的機能(関数) |
これに基づいて。著者はJaynes推論の概念、つまり最大エントロピー原理Maximum Entoropy Principleが存在論的に翻訳され得て、この原理が、進化進行中の機能(関数)と対象システムとの間の関係を記述するものとして位置づける。
この関係においては、対象システムはミクロレベルの状態にあるという前提のもとで、機能(関数)は、マクロレベルの制約条件であるとして段階的に適用される進化論的な文脈では、これらの制約条件のもとで観測されたシステムが、ひとつの最大エントロピー生産状態にあることを内意するものである。Jaynesの推論記法(概念)の自然学化のこれらのステップは、対象システムもまた、機能(関数)である場合と考えるとことで完結する。
Figure 13. Semiosphere and entropies
このことから、重要な結論が導かれる。それは、進化する機能(関数)はより低いエントロピーの状態を代表するのではなく、実際には、エントロピーを増大する物理的メカニズムである。すなわち機能(関数)的進化は、第二法則に直接的に対応するものである。
このことにおける物理的な相関性は、生命の理論において、ロツカ原理Lotka’s principleが中心的な役割りをする。すなわち生命システムでのエネルギー流束energy fluxの最大化である。
かくして、進化にはふたつのプロセスがあることを知覚する、ひとつは増大する観測者独立のエントロピーのプロセスと観測者に相対的なエントロピーのプロセスとして概念化することになる。 この機能(関数)の差異は、この対象システムにおける制約条件constraintsの複雑性が増大していくことを反映するものである。
この制約条件はふたつのエントロピーの間のギャップを定義するものであり、Layzer, Brooks and Wiley, およびSalthe によって概念化がすすめられている。
4.1節で、著者はこの論文の主要な目標に到達するための概念装置を用いる。称してパース記号論Peircian semiosisの自然学化である。
Figure 5. Functional selectivity and the Micro/Macro distinction
これは直裁的であり、その対象objectをその対象システムobject systemと等しいとし、その記号signをその機能(関数)function上の効果と等しいとし、そしてその翻訳者observerをその内包的な機能(関数)functionとするものである。
この関係は翻訳者が進化していくので、力学的(動的)である。かくして、パース記法(概念)であるアブダクションabductionは、容易に推論に関するJaynesの案になじむものとなる。遺伝情報の問題の討論をこの論文で導入するが、遺伝情報の課題がパース三元系の再構築で解決することができる。記号論の自然学化を完結するためのつぎのステップは、記号のエネルギー論を定義するところにある。
ひとつの可能性のあるアプローチとしてChaisssonの測度をとりあげる。これは物理対象objectsを自由エネルギー密度速度free energy rate densityの測度してとらえるものである。
これを通じて、ひとつの物理現象として記号圏域を知覚することをゆるすものである。著者は擬人的原理anthropic principleの記号論版としてのスケッチを示すことにして、この章を締めくくる。これはDeutschによって提供された進化に関数議論の筋を採用するも
Figure 12. Evolution of free energy rate intensity (exemplary, after Chaisson [81][1]).
本論は、クオリアqualiaの簡単な考察をもって結論とする。Hayekの提案の筋に沿って、著者は、クオリアはひとつの機能(関数)であることを論じる。この機能(関数)は自己参照性物理システムを可能とするものである。この場合、この自己参照性物理システムは、自己参照性self-referentialの逆説を解決するための機能(関数)群をともなう。クオリアは、自然選好的に選択にされる。このことは、クオリアは精神的‘mental’範疇として何ら別個の存在地位を持つものではなく、記号論semiosisへの自然学的アプローチにおいてシステマティックな場所を占めるものとしている。
2. 因果性、情報およびエントロピー Causality, Information and Entropy
2.1. 生起因果性と情報との間で失われたリンク The missing link between causality and information
2.2. 演繹とJaynesのエントロピー記法(概念)Inference and the Jaynes notion of entropy
(省略)
3. 機能(関数)、進化およびエントロピーFunctions, Evolution and Entropy
3.1. 機能(関数)と主観/客観区分Functions and the subjective/objective distinction
3.2. 進化する機能(関数)と最大エントロピー生成Evolving functions and maximum entropy production
3.3. 内生的なエントロピーと進化Endogenous entropy and evolution
(省略)
4. エントロピー および 記号論:自然学化パース
Entropy and Semiosis: Naturalizing Peirce
4.1. 固有の機能化(関数化)としての記号論の再構築
Reconstructing semiosis as proper functioning
4.2. 記号圏域でのエネルギー論 Energetics of the semiosphere
4.3. 人類学的原理の記号論的再形式化 A semiotic reformulation of the anthropic principle
(省略)
5. 最終のブリック:意味することと 逆説
(省略)
6.結論
本論文では、著者は記号論への自然学的なアプローチの構築を提唱してきた。この記号学は基本的にはエントロピーの記法(概念)をひとつの中心概念として成り立つことを意味している。
論の収束点は世界が基本的な事実としてランダム性を厳しく採用しているという思考の試みに置かれる。このことはパースのいわゆる” Tychism“とよばれるものに相当しでいる。これに同調しない点は 記号論の記法(概念)が擬人的含意があるという点にある。この記号論は’mental’の範疇についての存在論的仮説に帰着するであろう。
この演習のための基礎をクリアにするふたつのアイデアがある。ひとつは特殊な種類の物理的な原因として機能(関数)を見なすものであり、これは一般進化パラダイムと結びついていて、パースの思考での中心でもある。その進化論は、その選択論の機能(関数)説明するために必要ではないが、 巣網化機能(関数)nested functionsの発現を説明するために必要とするものである。
ふたつの概念の間には重要な橋がある、これは観測者相対性observer relativityの記法(概念)である。この記法(概念)は、擬人主義のどのような可能な傾向にたいして概念上の「下剤」的解決を与える役割をもつ。 これは記号論の意味を明らかにするのみでなく、エントロピーの概念のもつある側面をも明らかにしてえくれて有用である。
この概念的ブレンディングのひとつの主要な結果は、著者が、エントロピーの概念のJaynes推論の自然学的な翻訳を提供することができることである。
もし、著者が進化している機能(関数)の進行をもって、擬人的観察者‘anthropomorphic’ observerを置き換えるならば、基本的には、進化的認識論の一般化に引き続き、著者はつぎの結論を置くことがでえきる;機能(関数)進化は、機能(関数)と対象システム(object system)の関係で終着する。この場合、機能(関数)はマクロレベルでの対象システムの制約条件(constraints)を反映し、さらにこのマクロレベルの対象システムはミクロレベルでの最大エントロピーmaximum entropy状態に対応するものである。
さらに、自然学的枠組みにおいて、Jaynes推論の解釈として、対象システムobject systemが、また最大エントロピー生産maximum entropy productionであることを表明することを含んでいる。このことにより、機能(関数)の進化は第二法則に属していることになる。
ひとたび、この枠組みが確立し、もしひとが機能(関数)と翻訳者との間の等式を認知するなら、記号学の自然学化を完結するのは比較的直裁である。
著者は記号圏域の記法(概念)を特に追跡してその拡張を論じてきた。記号論の自然学化については、エントロピーと進化への最近のアプローチとして、たとえばChaisson’s approachのようなものとの概念的な結合を確立することをゆるす。
著者は、このアプローチがエントロピーのクロス学域cross-disciplinaryの記法(概念)の実質的な適用に非常に有用であると考える。最も有望な分野は経済学であり、ここではこれまでエントロピーの概念がエネルギー・フローと環境問題の解析にもっとも関係があるからである。これについてはジョージスキュ‐ローゲンGeorgescu-Roegen[23][2]を参照されたい。かれらは偶然にも、ボルツマン・エントロピーについて深刻な概念上の困難さを経験した。これについては著者のアプローチではこの困難さを避けることができている。
批判的考察は極度に抽象性の高いレベルにほとんどが集中する、ここでは経験的な意味でほとんど意味のない記法(概念)を提供している、さらにメンタルな現象としてみられる人間の創造性のうえに築かれる革新のような基盤的な経済的プロセスを分析するためにはどうみても 彼らの考察が不適切であることが呈されている。
記号圏域の記法(概念)は物理学と経済学との間の新しい橋を造ることを援けることができる。 これは経済的な相互作用力を調整する記号として、記号そのものが機能(関数)作用することを考える。これは経済システムの文脈で、人間人工物human artefactsの進化に着点をおくことを意味している(関連するアプローチとしては、パース記号論以外にまだ見当たらない。著者の[123][3]をみよ)。
技術的人工物technological artefactsの分析は研究上の伝統はあるが、今日、経済学において失われている(初期のアプローチとしては[124]をみよ)、ごく最近のものとして再発見として扱われている(たとえば [125])。自然化したパース記号論は合成を提供することができる。
~~~~~~続き2 終わり~~~~
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[1] 16. Jaynes, E.T. Gibbs vs. Boltzmann Entropies. Amer. J. Phys. 1965, 33, 391–398.
[2] 23. Georgescu-Roegen, N. The Entropy Law and the Economic Process; Harvard University Press:
Cambridge, MA, USA, 1971.
[3] 123. Herrmann-Pillath, C. The Economics of Identity and Creativity. A Cultural Science Approach; University of Queensland Press: Brisbane, Australia, 2010.
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