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どんなに無能でダメな人間でも、どんなに惨めでダメな人生でも、それでもきっと自分は誰かの大切な人
なんだと思いたい、思わせてくれと願いながら読み進めた短編集だったが・・・。
大切な人とは、家族だったり、友達だったり、同僚だったり。
この作品の中でも、いろんな大切な人との心の関係が描かれているが、ちょっと浮世離れした人とか、
端から見たらオシャレでカッコイイ成功した人生を生きているような人とかの話が多くて、私としては
正直、もっと身近で普通の地に足が着いている人達の話を期待していたから、それほど感情移入できな
くて残念だった。
そんな中で「無用の人」の親子関係が、ほんの少しだけ心に引っかかった。 スーパーの野菜担当で昇進
もできずに長年黙々と働きながらもリストラされた父親。 妻からも、その存在を無用と云われた父親。
でも、美を愛し娘の事を理解していた心豊かで優しい父親。 父親が生きていた間は一方通行のような
思いも、深い所での心の繫がりや愛情に多くの言葉は必要ないのかもしれないと思わせてくれる素敵な
いい話だった。
私の父親も気が弱くて無能で生きている間は、家族みんなから疎ましがられていた無用の人だったが、
そんな父が死んでから、ずーっと父が、朝早くから真面目に一生懸命に働いてくれていたから我が家の
生活が成り立っていたという事を今更ながらに実感した。 こんな私は、当時は無用だと思っていた父の
足元にも及ばない愚かなダメ人間で、父は家族にとって大切な人だったんだと、やっと父の凄さ偉大さに
死んでから気付けたという次第で情けない息子だ。
当たり前のように与えられる物には、なかなか気づけず感謝できない。 でも、そんな当たり前のような
幸せを何も言わず黙って与え続けてくれる人が一番尊くて大切な人なんだ。(まるで太陽のように)
この作品には、そんな普通の暮らしの中の素朴で温かい心の繫がりの物語を期待していたのだが、
少しだけ私の思いとは違ったか。