竜王戦がいよいよ始まった。
今年の第1局はパリでの開催。
わざわざパリまで行くとはご苦労なことだが、
将棋の世界普及、将棋人口倍増計画のための
重要な布石だと思う。
しかし、対局者は大変だ。
飛行機は10時間以上かかるし
(ファーストクラス?だとはいえ)、
現地に着いてからも、観光や親善に引き回されて、
将棋に集中しやすい環境ではない。
対局場も、畳の和室ではなく、
床にカーペットを引いた
ちょっとチープな感じの場所。
お昼の「幕の内弁当」も、
なんだかプラスチックのお弁当トレイ
に入っているような・・・^^;
時差は+7時間で、
ちょうど戦いが佳境に入る午後から夕方が
日本の夜から夜中だから、
眠気との戦いも大変だろう。
しかし、にもかかわらず、
そんなものすべてを吹き飛ばして
しっかりと魅せる将棋を指してくれるのが、
渡辺竜王であり、羽生名人だ。
今回の対局には梅田望夫さんが同行して、
リアルタイム観戦記を書かれた。
これが的確につぼを押さえた内容だったので、
将棋について書き足すことは何も無いのだが、
文章の練習を兼ねて書きたいので^^
振り駒の結果、渡辺竜王の先手に。
戦型は後手番一手損の角換わりになった。
どちらも手の内をなかなか見せようとせず、
水面下の折衝が続く序盤。
竜王は棒銀からの速攻を匂わせて
名人の右玉を誘い、それが確定すると
銀を繰り替えて中央に転回。
名人もすぐには仕掛けず、
慎重に陣形を整えて持久戦模様に進み、
竜王の玉は十八番の穴熊に入る。
序盤戦は、竜王がうまく指し回した、
という評判だった。
そこから竜王が、勝手知ったる穴熊戦とばかりに
角を打ち込んで二枚換えして陣形を乱し、
一気に飛車を成り込む展開へ。
この時点で、見ている人の多くは、
渡辺竜王好調と感じていたのだが、
羽生名人は全く急がずあわてず
△6七歩成から△6九角と打ち、
悠然と竜王陣に綾をつける。
しかし、穴熊の中の玉は遠い・・・
いったいこれで間に合うのか???
そして嵩にかかった竜王が
▲4三金と打ち込んで
一気に決めに出た瞬間、
△6四角が放たれた。
王座戦第1局の▲4四角を思わせる、
ふわっとした攻防の一手。
この手に意表を突かれた様子の竜王は
88分の長考で攻めの継続手を探すが、
見つからない・・・
右翼からの攻めを一旦あきらめて
7筋からの攻めに賭けるが、
それを利用して名人が逆襲。
そのまま超難解なぎりぎりの終盤に突入したが、
そこで渡辺竜王が▲7七桂馬とやや意外な一手。
これは△6七歩成くらいでも後手優勢では??
いぶかる控え室の検討陣。
確かに、終盤に強いソフトで検討しても、
< 後手勝勢(-1537) > [ △6七歩成 ▲6三歩 △7八と
▲6二歩成 △6二角 ▲6三銀 △8二玉 ▲8八金
△8八と ▲8八玉 △6七金 ▲7三歩成 △7三馬 ]
しかし、羽生名人はその筋を取らず、
△8六角と角を出た。
こちらは、竜王からの
詰めろ逃れの詰めろがあって、
紛れがありそうとされていた順。
なぜ???
間違えた???
羽生ファンの悲鳴が。
ところが・・・
その頃2ちゃんねるの将棋板では、
△6七歩成に対する▲6三歩が、
実は長手数の詰めろであることが話題になっていた。
うちのソフトで検証すると、43手詰!
羽生名人は、この危険を察知して、
△6七歩成の順を捨てたのか?!
そして、どっちが勝っているのか、
検討陣が悩んでいる最中に、
誰にも見えていなかった
△6七銀が鮮やかに炸裂。
自玉の詰み手順の中のひとつの分岐での
▲5五金打ちまでの詰みを防ぐ
詰めろ逃れの詰めろ。
戦意を喪失して自ら首を差し出す
渡辺玉を即詰みに討ち取って
鮮やかにゲームを収束させた。
全体を通してみれば、
見ていてゾクゾクするような、
羽生名人の快心の一局。
竜王を完全に掌の中で踊らせて、
前夜祭での羽生名人の挨拶
「芸術の都パリにふさわしく、
芸術的な将棋を指したい」
をそのまま実現してしまった。
薄い右玉の構えを自在に操って、
深い深い読みでスリリングな紙一重の勝負を
きっちりと勝ちきったことは、
竜王世代の、穴熊の堅さに頼って、
あまり読まずに荒っぽく攻める現代将棋に、
きついお灸をすえた形にもなった。
羽生ファンには、これ以上ない結果。
夜中の2時まで寝ないで見ていてよかった。
梅田さんの観戦記が、
その感動に駄目押しをしてくれて、
もうお酒がすすんで困る、みたいな・・・^^;
渡辺竜王も決して不出来だったわけではないが、
油断があったとは言えるだろう。
飛行機の中で寝ないでDSでダビスタする、とか、
観光の途中で競馬場に寄る、とか、
まあ庶民派の竜王らしくていいんだけど、
相手を考えると、さすがにちょっと・・・
だったかも・・・
しかし、思い起こせば2年前、
佐藤康光現棋王を挑戦者として迎えた竜王戦で、
渡辺竜王は、サンフランシスコでの第1局から
いきなり2連敗して、絶対絶命と言われたのだった。
ところが、土俵際の第3局で
奇跡の逆転の鬼手△7九角を編み出したのをきっかけとして
竜王は立ち直り、見事に逆転で防衛。
そのシリーズは、数々の名局を生んだ。
今回も同じような展開になるのだろうか?
それとも、羽生大名人の前に、
あっさりと土俵を割ってしまうのか?
渡辺将棋の底力が試されている。
渡辺竜王、顔を洗って出直しだ!
(加藤九段)
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