日々の寝言~Daily Nonsense~

カズオ・イシグロ「わたしたちが孤児だったころ」

すごい・・・

いったいこの人の頭は
どうなっているのだろう?

本当に見てきたかのように、
本当に体験したことのように
自在に不思議な物語を紡ぎだす。

記憶の歪までもそのままに。

小説を書く、というのは
たとえばこういうことなのだ。

戦争。

人間の邪悪さが世界の中に
はっきりと現れる時。

みんなが「孤児」になる時。

そんな時代に両親を失った一人の男を軸とした、
哀しい、ほんとうに哀しい物語。

そして、それはもちろん、
「戦争」についての物語ではなく、
人間という存在についての物語。

何が何故これほどまでに哀しいのか、
よくわからないのに、
とにかくひたすら激しく哀しい。

主人公は長い間求めていた母の愛を最終的に確認し、
生きてゆくためのパートナーも得て、
ある意味ではハッピーエンドなのに、
それが却って、すさまじい空虚さを感じさせる。

「わたしたちのような者にとっては、
 消えてしまった両親の影を
 何年も追いかけている孤児のように
 世界に立ち向かうのが運命なのだ。」

わたしたちのような者、とは?

世界の邪悪さ、に
触れてしまった者?

愛に溢れた両親に護られていた
あの世界は戻ってくることはない。

自分の中の何かが
壊れてしまうほど哀しい。

アンゲロプロスの「エレニの旅」や
ベルイマンの「サラバンド」と
同じくらいに・・・

参りました。

Webを眺めていたら、自分ではうまく書けなかったことを、
きっちり書いてくれている感想があった。

> 西谷 昌子
> 評価:★★★★★

> 読後、本から目を上げると世界が違って見える――
> そんな本に、一生のうちどれだけ出会えるのだろうか。
> この本は私にとって、そのうちの一冊となった。
 
> 最後の一ページを読み終えたとき、胸に広がる言いようのない寂寥感。
> サスペンスだと思って読んでいたらふいに足元をすくわれ、
> 読者はたった一人で取り残される。永遠に追いつけないものを、
> それと知りながらおいかけねばならない主人公とともに。

> 解説で古川日出男が「あなたは孤児になるために、この本を読むんだよ」
> と書いているが、この言葉がすべてを物語っていると言っていいだろう。
> 私たちは世界にたったひとり、よるべなく放り出された孤児なのだ
> という気持ちが、読後胸を満たす。

> ディティールを細かく描写してあるので物語の世界にすっと
> 入ることができる。翻訳もよい。

西谷さん、まったくそのとおりです。
ありがとうございます。
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