羽生名人の「読まずに指す」について書いた。
簡単に振り返ると、
羽生名人は、いくつかのインタビューで、
これから目指したい境地として、
晩年の大山将棋を挙げて、
「大山先生は読まずに指していた。
私もそういうふうに指したい」
というような趣旨のことを述べている。
そもそも、羽生さんの世代、佐藤さん、森内さん、
深浦さん、たちは、圧倒的な読みの量を
誇ることで知られている。
プロ棋士たちには、
将棋の盤面を読むための
特別な回路が頭の中にあるのだろうが、
その中でも羽生さんや佐藤さんは、
特別なブースターやアクセラレータが
ついているな感じで、
「そんな手まで読んでいるとは・・・」
というようなことをよく言わしめてきた。
しかし、年齢とともに
その能力が衰えることはどうしようもない。
そこで、強さを維持するために
「読まずに指す」を目指す、と。
これに対して、
大山さんが読まずに指せたのは、
ある程度戦型を限って、
そこに関するエキスパートになれたからで、
戦法が複雑化した現代将棋にあって、
オールラウンドプレイヤーを目指す羽生さんが
読まずに指すのは大変難しいのでは?
というようなことを書いた。
いわゆる職人技も、
レンズの研磨、など、何かの加工のような
きわめて狭い特殊技能に関するものが
多いと思う。
そして、そういうこと(読まずに指す大山将棋)
に今最も近いスタイルを持っているのは、
渡辺竜王ではないか、とも。
横歩取り8五飛といい、居飛車穴熊といい、
渡辺竜王は、ある程度自分の側の戦型を限って、
その範囲では誰にも負けない、というふうにして
指してきたように思われたのだ。
そこで注目されるのが、
一昨日の竜王戦の感想戦での
渡辺竜王の言葉(梅田さんの観戦記による)
「金打って(▲4三金)、角打たれて(△6四角)、
何かあるだろうと思ったのに……。
打たれてみて読んでみて、何もないんじゃひどいですね。
打たれて困っているようじゃダメですね。
ちゃんと読んでから指さなくちゃね。」
竜王は、自身のブログで、
自分の将棋の解説をしているのだが
(負けた将棋も含めて、というのがすごい)、
そこでも、何度か、
「ちゃんと読んでから指さなくちゃ」
という反省を書いていたと思う。
逆に言えば、普段は、あまり読まずに
「そこで何かあるはず」
という感覚で指して、
勝ってきているということなのだ。
だとすれば、今回の竜王戦は、
羽生世代の「読む将棋」と、
竜王(世代)の「読まない将棋」の戦い、
という面もあることになる。
今回の竜王戦第1局、
羽生名人は「読まずに指す」を封印して、
とことん読んだように見えた。
49手目の▲2四歩で封じ手となり、
翌朝は64手目の△6四角までは、
比較的すらすらと進んだのだとすれば、
羽生名人は、時差で眠れない一晩の間に
その後の進行を読んで構想を立てたのだろう。
佐藤棋王によれば、▲2四歩以降の中盤は
比較的手の狭い将棋なので読みやすい面はある、
とのことだが、いったいどこまで読んでいたのか?
その△6四角に渡辺竜王が88分の長考をして
▲7五歩と指したが、それに対しても
おそらく予定どおりの
△6七歩、▲同金直、そして△8六歩。
竜王の69手目の▲同銀に対して、
やっと84分の長考に沈んだ。
49手目から数えると
ちょうど20手。
この後はこまめに時間を使い、
慎重に指し進めた感じだ。
最後の決め手となった
△6七銀は96手目だが、
この手は91手目の▲7七桂に対して36分考えて
△8六角と出たときには
見えていたはずだ。
36分の間に▲7三歩成や▲6三歩からの
自玉の詰み筋を読み、
それを最も効率的にはずすための
△6七銀を発見したのだろう。
圧倒的な読みの分量。
そして、終盤に時間を残すために、
どこで何を読むかについても
最適化されているように感じられる。
初代の永世竜王、そして
将棋界を盛り上げるためにも永世七冠を
なんとしても獲る、ということを
モチベーションとして
「深く深く読む」羽生将棋が復活し、
「読まずに指す」渡辺将棋を撃破した。
そんな一局だったのでは
ないだろうか?
というわけで、羽生名人のほうは
珍しくスケジュールにも余裕があるし、
全力投球の構えができているようだ。
次局以降、追い詰められた渡辺竜王が
潜在能力「華麗なるひらめきの将棋」
を出せるのか否か。
ほんとうに楽しみだ。
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